第三十一話 一兆円の解体ショー
翌朝、神崎コーポレーション本社の捜索、御子柴陣営への一斉ガサ入れが連日トップニュースで報じられた。
だが、時価総額一兆円の企業は、トップが逮捕されたからといって即座に消滅するわけではない。本当の地獄は「市場」と「社内」で起きていた。
東京証券取引所。神崎コーポレーションの株価は、朝からストップ安の売り気配が張り付き、一切の取引が成立しない異常事態に陥っていた。
そこにトドメを刺したのは、昨日まで神崎にひれ伏していたはずの「身内」たちだった。
「……緊急取締役会において、神崎隆会長の解任決議が全会一致で可決されました」
テレビ画面の中で、記者会見のフラッシュを浴びながらそう宣言したのは、沢渡だった。
氷室失脚後、財務の全権を掌握した彼女は、極めて冷徹な判断を下した。神崎コーポレーションという法人を存続させるため、神崎個人の全責任としてトカゲの尻尾切りを行ったのだ。
さらに、メインバンクである帝都銀行が「新規融資の凍結」と「既存債権の回収」を発表。
一兆円企業とはいえ、その実態は莫大な有利子負債でレバレッジを効かせた砂上の楼閣だ。血流を止められれば、数万人を抱える巨象はあっと言う間に腐死する。
「見事な手のひら返しですね」
数日後、俺と小日向颯は、都内のホテルのラウンジで向かい合っていた。
「ええ。メインバンクの融資引き揚げ、機関投資家の投げ売り。……そして、優良な子会社事業は外資系ファンドに二束三文で買い叩かれていく。神崎が数十年かけて作った帝国は、今、資本のハイエナたちに無残に解体されています」
小日向はコーヒーを飲みながら、冷徹なコンサルタントの目をして言った。
「僕たちのファンドも、この『解体』に乗じて動きました。神崎の株の空売りで得た利益で、神崎が手放さざるを得なくなった優良な技術系の子会社(川上染工など)を、安値で買い叩いて……いや、保護(買収)しました。これで、三億八千万だった元手は、実質的に百億近い資産価値に化けました」
巨大企業は消滅しない。切り売りされ、富を再分配する「餌」になる。
神崎という男は、自分が信じていた資本主義のルールそのものによって、完全に骨の髄までしゃぶり尽くされたのだ。




