第二十七話 コンサルタントの奇策
「運搬は来週の火曜、深夜零時。神崎の私邸から御子柴の別荘へ向かうルートだ」
セーフハウスに戻った俺の報告を聞き、小日向颯がホワイトボードに帝都の地図を広げた。
「神崎の私邸から別荘までは、高速道路を使って約一時間。SPの乗ったダミー車両を含め、三台の車列で移動するはずです」
小日向がマーカーでルートを書き込んでいく。
「霧島さん。100億を運ぶ車列を、どうやって襲撃しますか? 物理的な強奪は不可能です。神崎の私設部隊は重武装していますし、警察を呼べば、神崎の権力でもみ消されるだけだ」
「ああ。強奪しても意味がない。俺たちの目的は、100億を奪うことじゃなく、『神崎が100億の裏金を政治家に渡そうとした決定的証拠』を白日の下に晒すことだからな」
俺の言葉に、小日向が頷いた。
「そこで、奏の能力を使います」
奏が、無表情のまま地図の上の一点を指差した。
「……ここです。このルート上にある、地下トンネル。ここの構造、今『すごく脆い状態』になっています」
「脆い?」
「物理的なコンクリートの劣化じゃありません。このトンネルを管理している交通管制システムのネットワークに、致命的な『構造の崩壊(脆弱性)』があるんです。おそらく、数年前のアップデートで放置されたバックドアです」
奏の目は、普通の人間には見えないシステムの歪みを確実にとらえていた。
小日向が説明を引き継ぐ。
「このトンネル内に神崎の車列が入った瞬間、奏の指示で交通管制システムに干渉し、トンネルの前後のシャッターを緊急封鎖します。彼らを密室に閉じ込めるんです」
「なるほど、ネズミ捕りか。だが、閉じ込めただけじゃ証拠にはならないぞ」
「そこで、渡辺さんと近藤さんの出番です」
小日向が、元秘書の二人を見た。
「神崎が最も恐れているのは『過去の暴露』です。密室のトンネル内で、神崎の車のモニターをジャックし、彼が過去に葬ってきた秘書たちや、裏帳簿のデータを一斉に表示させます。……絶対的な権力者が、逃げ場のない密室で自分の罪状を突きつけられた時、どうなるか」
「……パニックになり、必ず『外部への隠蔽工作(通信)』を行う」
俺は小日向の悪魔的な奇策に気づき、低く笑った。
「その通りです。神崎はパニック状態で、必ず御子柴や裏の処理部隊に『トラブルだ! 100億の証拠を消せ!』と指示を出す。その通信をすべて録音し、大地の記憶した帳簿データ、沢渡のキャッシュフローの証拠と合わせて、全国のメディアと特捜部に一斉送信する。……これが、一兆円の怪物を殺すための、完璧な処刑装置です」
コンサルタントの冷徹な論理と、異能者たちの力が、一つの恐るべき罠へと結実した。




