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第二十四話 百億円のパイプライン

大地の「完全記憶」によって物理的な裏帳簿が暴かれ、沢渡の会計知識によって実際のキャッシュフローとの完璧な照合が完了した。

神崎隆という男が、数十年にわたってこの国を裏から支配してきた「百億円規模の裏金ルート」。その全貌が、ついに俺たちの手元で一つの明確なデータとして組み上がった。


「神崎が次にこの巨大なパイプラインを動かすのは、来月の総裁選です」

都内のセーフハウスで、ノートパソコンの画面を前に沢渡が淡々と説明する。

「有力候補である大物政治家・御子柴みこしばへ、総額100億円の無記名債券と現金が渡される。これが完了すれば、神崎コーポレーションは今後十年間、国からの巨大なインフラ事業を独占することになります」


「100億……」

奏が小さく息を呑む。高校生の彼女たちにとって、いや、前世で詐欺師だった俺にとっても、おいそれと想像できる金額ではない。


「だが、ただ待っていても証拠は掴めない」俺は腕を組んで言った。

「神崎の用心深さは異常だ。これほどの額を動かす時、奴は絶対にデジタルな痕跡を残さない。氷室がやろうとしていたように、現物の債券と札束を、信用できる人間の手で物理的に運ばせるはずだ」


「その『運搬役』に、あなたが指名される必要があります」

小日向颯が、静かにコーヒーカップを置いた。

「神崎に『霧島以外にこの100億を運べる人間はいない』と確信させる。それが、このコンゲームの最終フェーズの第一歩です」


「どうやって確信させる? 奴は自分の影すら疑うようなパラノイアだぞ。俺が遠藤と氷室を排除したことで、俺の能力は買っているだろうが、同時に腹の底では絶対に警戒している」


俺の問いに、小日向は薄く笑った。

「神崎のパラノイア(偏執狂)を、限界まで煽るんです。彼が最も恐れている『過去の亡霊』を使って」


その言葉を聞き、部屋の隅で黙って座っていた男が、静かに立ち上がった。

かつて神崎の最側近であり、すべてを奪われて末端の不動産屋の店長として飼い殺されていた男。渡辺だ。


「……私の出番だな」

渡辺の目は、長い絶望の眠りから覚め、静かな、だが確かな復讐の炎を宿していた。

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