レポート
クロエは王宮に帰ってから寝ずにレポートを仕上げた。クマのできた目でじっとそれを見つめる。
―こんなことして…ほんとにええんやろか…。こんなコソコソと忍び込んで人様を覗き見して…あげくそれを報告だなんて…。
深いため息と共にアメリッサの部屋をノックする。
「あら、早いじゃない。それ?早くよこして。」
「…アメリッサ様…」
言いたいことは山ほどあるがそれを飲み込んでレポートを手渡し、礼をする。
アメリッサはパラパラと面倒くさそうにレポートを見るが、読んでいない。いつもそうだが、結局人が書いたレポートなんぞ読まず、口頭で説明を促される。
「で?どの国の王子が来てるの?」
「は?全てそちらに記載しましたが…」
「口答えしないで私が言ったことにだけ答えなさい!」
一瞬アメリッサの魔法石が輝き、クロエの頭上に冷たい水が降り注ぐ。いつものことだ。気に入らないとすぐに水をかける。心の中で深く深くため息をつき、口を開く。
「…まずスーデン国のトワイ王子です。こちらは金髪碧眼の大変見目麗しいお方で…」
「ああ、トワイ様ね、お噂は聞いているわ。美しいものが好きでお優しい王子だってね。」
「続いてイッシュ国のザルツ様で、こちらも美しいお顔立ちで、加えて体躯もたくましく…」
クロエの報告を聞き流していたアメリッサだったが、ダイ帝国のユン皇帝の順番になると急に振り返る。
「ちょっと待ちなさい、ユン様って女なわけ?」
「私も驚いたのですが、まあ皇帝が女性のことも当然あるわけですし。改めて自分の偏見というか、思い込みというか、そういうものに気付かされましたね。」
「そんなのどうでもいいけど美女ってどういうことよ。注目が散るじゃない!」
アメリッサは今回のパーティーを自分のいいようにしたいのだ。自分以外目立つのは許せないと。
「もう!そして?次!」
イライラとした様子で最後の王子の説明を促される。何だこいつ。
「最後はイズモ国のヤマト様です。こちらは…まあ地味めなお方でした。そういえばアメリッサ様、ドレスなどの最終確認をしてはいかがでしょうか。」
何となくヤマト様のことはあっさり説明し、早急に話を切り上げた。
「あっそ。もういいわ。私忙しいからもう行って。」
しっしと部屋から追い払わられる。
「あ、そういえばお兄様が呼んでたわよ。」
去り際にさらに気の重たくなることを言われる。
王宮は広く、たくさんの人間が働いている。アメディオが率いる騎士団も王宮内で生活し、日々訓練をしている。騎士団内でも攻撃魔法を使えるものはエリートとして扱われる。
―この時間はアメディオ様は騎士団の訓練中だわ。行くと怒られるかもしれないけど…急ぎなら大変だし。
王宮内に設営されている騎士団寮の方へ歩みを進める。
王たちの居住する空間のような静かで荘厳な雰囲気とは違い、騎士団寮の周囲は活気に満ち、鍛え上げた男たちの大きな声が響く。
「おっ!クロエ…様だ!みんな、クロエ様が来られてるぞ。こっちに来い!」
一際大きな声で仲間を呼ぶのはアメディオの直近の部下であるハラルドだ。
「ふふっ、相変わらずね、ハラルドは…あっ!またケガしてるじゃない。大丈夫なの?また兄様のところに行くといいわ。」
「クロエ様、騎士団員が怪我をしているのは当たり前のことですよ。私は例え手足が折れようとも馬に乗ります。まあでもそろそろノワルに会いに行ってやるか。」
豪快に笑うハラルドは兄と同じ年齢で、クロエを小さい時から知っている。昔は兄に着いて回るクロエとも良く遊んでくれた。
「おや?クロエじゃないか、この辺は危ないから来てはいけないよと言ったのに、どうしたんだい?」
「ア…アメディオ様…申し訳ありません。アメリッサ様からお聞きしまして…」
急に背後から優しげな声で呼ばれビクッと驚く。こういう声色の時は決して機嫌がいい時ではないが、部下たちの手前、婚約者を慮る素振りをしているだけなのだ。




