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不思議な人達

 通りを音も立てず駆ける美しい黒猫、自らに与えられた魔法の力で変身したクロエだ。現在、婚約者である王太子の妹の命によってささやかなスパイ活動を行っている。

 (はあ…、アメリッサがいなくなれば少し過ごしやすくなるとはいえ、こんなコソコソしたこと性に合わんわ…)

 ふぅ、と息をついて天を仰ぐ。この姿になると空がより遠く感じる。先ほどから雨も小降りになってきており、細やかな雨粒がクロエの美しい漆黒の毛皮を滑る。

 その時、通りの奥からシャンシャンと澄んだ音が聞こえてくる。涼やかだけど、どこか温かみを感じるような、ずっと聞いていたくなるような音だ。いつの間にか通りから街の人々の姿も見えなくなっている。

 (なんかキレイな音やなー…落ち着く…眠たくなってくるよう…な…) 

 眠気がいきなり襲い、一瞬目を閉じたが、すぐに我に帰る。

 (あかん!調査中調査中!。どこかこっそり乗り込めるスペースを探さんと。)

 通りから向かってくる一団をじっと見つめる。

 (あの馬車を引いているのは…馬じゃなくて牛!?)

 牛が引く車を見るのは初めてで、少し驚く。クロエは荷台に乗り込もうと道の端に寄り、牛車が通り過ぎるのを待つ。クロエの目の前を通る時、牛が少しこちらを見たような気がした。しかし、ほとんど気にも止めず牛舎の後方にひょいと乗り込む。

 (よし!乗り込めたよー。この変わった馬車はきっとエイジアからのお客様やな。イズモ国だったな。あんまり情報がないんやなー…)

 イズモ国は小さな島国という情報はあるが、それ以上の情報は届いて来ていないのだ。

 (どれどれ、まずは中の様子を少し見せていただきますよー…)

 少し開いた窓から中を覗き込もうとしたその瞬間、まるでそこから覗き込むのがわかっていたように、優しく抱き上げられる。

 「やあ!キレイな黒猫さんだ!ちょっとこっちに来ないかい?」

 間近で見るその顔は、クロエが今まで見た誰よりも魅力的に映った。黒髪はサラリと流れ、真珠のような歯を見せて笑い、少し吊り上がった目元は涼やかだ。

 青年はおや?と不思議そうにクロエの首元を見る。

 「この黒猫さんは飼い猫さんの様だ。ほらごらん、素敵なチョーカーが付いている。」

 ちょん、と青年がクロエの魔法石に触れる。一瞬、金色の光が魔法石から放たれた様な気がしてクロエは冷や汗をかく。

 (なに!今の。この国には魔法の力があるってわかってるはずだから、もし私が変身してることがばれたら大変なことに…)

 「死罪」「逃亡」「投獄」という物騒なフレーズが頭の中をグルグルと巡る。

 「それにしても美しい猫だね。みてごらんよ、瞳が星の様に黄金色だ。」

 青年は向かいに座る侍従に話しかける。年はとってはいるが厳格な雰囲気の隙がなさそうな男性だ。腰には剣の様なものを下げている。その隣には髪を肩で切り揃えた五歳くらいの女の子が座っている。

 「本当ですね、ヤマト様!とってもキレイ。私たちの国に連れていきたいです!おじいさま、良いですか?」

ぱっちりとした瞳でにこにこと隣の男性に話しかける。

 「駄目だよ。先ほどヤマト様も言っていただろう。この猫さんは飼い猫さんだよ。」

 連れて行かれては大変とクロエは何とかヤマトの手から抜け出そうともがく。

 「おや、俺はあまり好かれてないのかな。まあ、きっとまた会うよ、黒猫さん?」

 にっこりと微笑むヤマトという名の、恐らくは王子の手からひょいと飛び出し、窓際に座る。

 (なんか油断できひん人達やなー!でも何となく落ち着くような気もする。)

 じっと見つめるとヤマトの方も目を逸らさず見つめ返してくる。温かい眼差しはクロエそのものを見つめている気がして思わず目を逸らす。

 そのままひょいと窓から外へ飛び出し、牛車を見送る。通り過ぎる時にヤマトが手を振ったので、思わず「ニャー」と鳴いてしまった。

 鈴の音が消えるまで見送ると、通りにはなんとなく人通りが戻ってきていた。

 (なんか不思議な人達やったなー…幻のようなフワフワした感じ…おっと!そろそろ帰らんと!)

 少しぼーっとした後で我に帰り、王宮への道を急ぐ。

 

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