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蒼い月光と紅い皇炎   作者: 秋水
15/16

第15話 悲劇は連鎖してゆく……

こんばんは?秋水です。


今回は、夢依の母親と冬風の過去のお話になっています。


黒龍を退けてから1周間が経過しようとしていた頃、僕はまだベッドの上から動くことが出来ず学校も暫く休みにしてもらっていた。


夢依や淳が代わり代わりお見舞いに来てくれたり、藤谷や春香達もお見舞いに来てくれたりなんかりもした。しかし不思議な事が一つだけ……雅は毎日来てくれるけど、来る時偶に何か引っかかるような言葉を耳にする。


「冬風、まだ魔力は回復しないのかしら?」


そう……あれから1周間が経過しようとしているにも関わらず魔力が一向に回復しないのだ。既に全回復しているのかと思えば魔法が使えない、かと言って回復するのかと聞かれても自分ではそんな感じは微塵たりとも感じない。


「あはは……回復にはやっぱりもっと時間がかかるみたい」


苦笑で済ませて入るものの、薄々気付きかけてはいた……


”自分が魔力を失っているのではないか……”


と言う事に。少しでも回復する兆しがあるのであれば、前兆らしきものが必ず現れるはず。例えば寝起きにいつもと違う感覚だとか、そういうのが感じられない。このまま二度と戻らないのかなと思うと、少し寂しいような感じがした。ただ魔力が永劫に回復しない事なんて無かったし、一時的だろうと心の中で思っている事にした。


誰もが眠りについている深夜丑三つ時、僕は眠れず一人星を眺めていた。眠りたくてもその効果は発揮されず途方に暮れていた時だった、部屋の角に巨大な魔力反応が出現したのに気が付いた。


「……!」


視線をそちらに向けてみると……神々しく輝いており、静寂な夜の暗闇さえも切り裂くような強烈な光を放った金色の扉が突如出現した。固唾を呑み見守っていると、中からとても見覚えのある人物が出てきた。


「あ、貴方は……」


地獄のコキュートスで氷を溶かしてくれた……そして自分に黒龍が来ることを教えてくれた全世界で最高唯一神”ゼウス”が、今この瞬間自分の部屋に降臨した。


「一体……何をしに来たんですか?」


余りにも予想外過ぎる来客に、僕は思わず警戒を強くしてしまう。


「安心せい、別に危害になるようなことは何もせんわい」


その言葉に少しだけ警戒を緩める。


「……では何を?」


「いや何、お主が黒龍を退治とまでは行かなくても無限地獄に閉じ込めたと聞いてな……」


薄ら笑みを浮かべながら僕に少しずつ近づき、そして優しく頭の上に手を乗せた。この人は最高神と言う割には少しだけ伯父様に似ていて、ほんの少しだけ親近感が湧いてくる。


「儂の予想を覆すとは……大した小僧だ」


小声で何かを呟いたと思えば頭を少し乱暴にクシャクシャと撫でてきた。髪がボサボサになるからこの撫で方はあまり好きではないのだけど、何故かこの人は嫌な感じはしなかった。


「あ、ありがとうございます……」


思わず萎縮してしまった。本人曰くあまり萎縮されると困るらしいのだが、相手が相手だけに萎縮してしまうのも無理ないと思う。


「そこでな、褒美に儂がお主を動けるようにしてやろうと思ってな」


「……本当ですか?!」


突拍子もない提案に驚きが隠せなかった。


「……が、一つ条件がある」


ゼウスの目をまじまじと見つめ、息を呑んでじっとその言葉を待った。そして……。


「儂がお主にだす条件は一つ、近々神界で大きな催し物があるのだが……お主にはそれに是非とも参加して欲しい」


「……!」


大神界……この前読んだ書物の中に神界について少しだけ読んだと思うが、神界は神個人の世界に対して大神界は全ての神々が集う世界のことである。世界の行く末などを決める際にはそれぞれの神が神界から大神界に集まり、長期間に渡る会議を開くと書いてあった気がする。


神界とは違って足を踏み入れるのに許可を取る必要はないが、ゼウスが神として不要だと決めた瞬間にその者は忽ち地上へと追放させられてしまう。若干理不尽な気もするが、これがそこでの決まりと言われれば何もいうことは出来ない。そんな所で行われる催し物に僕が参加、当の本人は何が何か分からずパニックを起こしていた。


「そ、そんな……僕なんかがそんな催し物に出ちゃっても……だ、大丈夫なんですか?」


神でない、只の人間の僕が神々の催し物に出ることは実に異例であった。


「安心しろと言うのは流石に無理じゃろう、他の神の反感を買う事は目に見えてるしのう」


「だったら……」


「だがそれは実力を知らないから言えることじゃろう、反感を買うのが嫌なら神になれば良いんじゃがのう……流石に生きてるうちに神になることは難しいじゃろう、だから神に迎えるのは天寿を全うしてからにさせてもらうわ……と、話が逸れた。反感を買うのが嫌なら方法は一つだけ……その実力を皆に知らしめてやれば良いのだ」


権力を使ってやりたい放題している神だが、実力は確かだと思う。実際に力を見たことはないが、想像だけでも凄いものだと分かる。だがそんな神に実力を示す……少し罰当たりと言うか、気の引ける感じがした。


「で、でも……僕の力は他の精霊の力もあって、雅や……ルシファーや時雨も連れて行って良いんですか?」


ルシファーという単語に眉を潜ませるゼウス。それも無理はない……かつてルシファーが引き起こした天界大戦争で、剣を交えた2人が簡単に分かり合えるとは思っては居ないのだから。


「……ルシファー以外でなら許可しよう」


案の定彼だけは来るなと言われた。まぁ……他の神々も来ることだし、仕方ないといえばそれなのだろうけど。こんな大事な催し物の時にルシファーが暴れたら、その責任は僕が取らなくてはならない……それだけは本当に阻止したかった。


「それで、日程は何時なんですか?」


参加するかしないか以前に、一番大事な事を聞くのを忘れていた。日程が分からなければ魔力が回復しているかもわからないし、それにこっちでやって置かなければいけないこともある。それに合わせてくれたほうが僕的には好都合だ。


「詳しい日程はまだ決めては居らぬが、今年は12月の半ば辺りにでも開催しようかと思うておる」


12月の半ば……丁度冬休みに入っている日程だ。


「何日ぐらいかかりますか、その催し物は」


「最低でも2~3日じゃ」


(その程度ならこっちを空けていても大丈夫かもしれないな)


夢依達には少し出かけてくるといえばいいし、護るのは淳と藤谷にでも任せておけば良いかもしれないし。


「……」


ベッドの隅に置いてあるカレンダーを手にし、その日までに起こりうるイベントを全てまとめ上げる。今は9月の後半……26日、約3ヶ月分の予定を仮として立てその日を空けておくようにしておいた。それに自身も神々の祭典には興味があった故、是非1度は行ってみたいとは思っていたのだ。


「分かりました……今のところではその日は空いているので、参加できると思います」


その言葉を聞くなり、ゼウスは嬉しそうに笑いながら自身の髭を撫でていた。


「そうかそうか、では決まりじゃのう。ほれ……」


ゼウスが人差し指を僕の額に押し当てたかと思えば、不思議な魔法陣が描かれて全身が光りだした。まるで日光に包まれているみたいに不思議な光で、とても心地が良かった。目を瞑っていると、あっという間に終わってしまった。


「これで動けるはずじゃが?」


その言葉通り、いつも通りに体を動かすことは出来た。この調子なら濡霞を振るう事も出来そうだ……だけどやっぱり魔力は一切回復しては居なかった。聞いてみるとゼウス曰く


「儂が回復できるのはあくまでも肉体や体力だけ、魔力は属性が違う故送り渡すことができんのじゃ。それに……いや、今は気にしなくても良いことか」


何かをもったいぶって話そうとしてくれず、その原因は分かっているものの解決方法が分からないのでまた途方にくれていた。


「とりあえず要件は済んだ、儂は神界にへと戻らせてもらうかの」


そう言って光の扉を潜って帰っていってしまった。そんな僕はというと、ベッドから起き上がりストレッチをしていた。しばらく体を動かしていない為なまっていた。


「夜も更けたし、この辺にしておこうかな」


体を動かしたおかげで少しは温まり、眠気も戻ってきた。電気を消そうとスイッチの所へ歩み寄ると……こんな時間なのに誰かが自分の部屋に入ってくる気配を感じた。隣の部屋では淳が眠っている……か分からないけど、少なくともその部屋にいるという気配は感じれる。夢依もこんな時間に訪問してくるとは思えぬし、心当たりは無かった。警戒混じりに身構えている、だが不思議な事に足音が近付く音も聞こえずに扉が音を立てずにゆっくりと開く……。


「……」


ゆっくりと扉が開いていくのを固唾を飲み込みながら待っている、そしてその後僕が見たのは1人の大人の女性だった。しかし表情に一切の生気を感じられず、体も何処か透けていて触れられそうにも無かった。


「まさか……」


幽霊を見たことが無く、少し興味混じりに様子を伺っていると……その幽霊の顔立ちやら髪の色には見覚えがあるはず。それなのに思い出すことが出来なかった。


「貴方は……」


"貴方は昔に、僕と会った事ありますか?"


言葉を紡ごうとした瞬間、ずっと付いていた部屋の電気がいきなり落ちた。だけどそれだけではない……この部屋自体が何処か暗闇の別空間へ飛ばされたような錯覚を引き起こさせるほどに静寂過ぎた。


「なっ……!?」


何も聞こえない……何も、謎の女性しか見えない……ほぼ完全と言っても良いくらいの"無"だ。怖くない……恐ろしくも悍ましくもない、ただ……何故か胸が締め付けられるほどに悲しい。思い出したくない出来事をまるでほじくり返される……そんな感じだ。


「……」


暫く無言でお互いに見つめあっていた。だが僕の方に少しづつ異変が出てくる。


「……っ!」


突然現れた頭痛に、立つ所か起き上がっている事さえ辛く感じた。風邪をひいた時の様なズキズキと言う感じではなく、物理的ダメージを与えられた様な痛みだ。


「あぁ……ぐっ……っ!」


痛みに悶えていると、謎の女性は僕の頬に手を当て優しく微笑んだ。そう……。


"安心して、私は怖くないよ。そして……思い出して"


口元の動きから、そう言われたような気がした。刹那……張り詰めていた緊張の糸が刃物でも当てられたかのようにはち切れ、そのまま意識を闇の中へとて手放した。それからの事は僕本人も幽霊に出会った時の事はあまり覚えてはいないという。その日、不思議な夢を見た。


(まだ小学生になる前の話、僕は小さい頃の夢依と共に遊んでいた。伯父様のお城の中で催し物があり、遠いが親戚である僕達が招待された。とても豪華で派手で煌びやかな場所に落ち着かない僕を、伯父様ともう1人……女性の人と話していてとても落ち着いた)


何も見えぬ暗闇の中、1人昔の記憶を鮮明に思い出していた。所々ノイズが入るものの、まるで今その場に居る見たいな現実感があった。


(そうだ……僕は小さい頃ここで夢依と会った事あるんだ。だけど何でだろう……分からない、何でこんな気分になるのか……)


何とも言えないモヤモヤした気持ちを心の中に押し止め、流されるままに昔の自分を演じていた。今の自分は年端も行かないただの子供、記憶の中だと言っても……僕は知りたかった。何故今までこの事を忘れていたのかと……。


しかしその理由はすぐに知る事になった。突如お城全体が急激に横揺れを初めた。皆が皆何が起きたか分からないという状況の中、僕は一人呆然とお城の中で立ち尽くしていた。


そして……地揺れの衝撃に耐えきれなかったお城の柱が崩れ、少しずつ大きな音を立てて崩落してゆく。周りの人達は悲鳴を上げながら瓦礫の下敷きに、声を上げることも出来ずにその場で意識を失ってしまう。


お城が崩落してから数時間が経っただろうか、若干意識を取り戻しかけていた。痛む全身にため息をつきつつも、ゆっくりと体を起こしあたりを見渡してみると……とても口には出来ないほどの悲惨な状況だった。


まるで自分を避けるように周りには瓦礫の山が置かれているが、その下からは赤黒い液体がこれでもかと言うほどに溢れ出ていた。時折山の隙間から人の腕やら脚やらが視界にちらつき、胃袋の中身を吐き出しそうになってしまう。そんな状況の中どうして自分の周りだけ瓦礫が一つもないのだろうと思って更に辺りを見ていると……その理由が一目で分かった気がした。


「この子は……」


僕が駆け寄った子は少しかすり傷を負い、気を失っている少女と息を切らせて床に座り込んでいる女性が居た。少女の方は見覚えが無いが、女性の方にはとても見覚えがあった。


「大丈夫?冬風くん」


優しい声で話しかけてきてくれたのは……伯父様の娘であり、夢依の母である渚 玲華だった。


「あ……はい、大丈夫です」


「よかった……あのね、早速で悪いんだけど夢依の事見ててもらっていいかしら?」


「……?」


僕にとって夢依が誰なのかこの時は分からず、首を傾げた。


「あぁ……そういえば紹介すらしてなかったわね、だけど悠長にもしてられないのよね」


上を見上げてみると……薄蒼い光を帯ながら瓦礫が浮かんでいた。玲華の魔法……それは、時空を繋げたり切り離したり止めたりする魔法が得意。そしてそれを見るや否や、今置かれている状況がようやく把握できた。


それを踏まえた上で考え込んでいたが……そんな時間もあるはず無く、玲華は僕の手を優しく握り気を失っている夢依の手を握らせた。そして優しく僕の胸に手を当て……。


「本当だったら大きくなるまで面倒を見てあげたかったけど……どうやら私はここまでね。夢依の事……お願いね」


それだけを言い残し、瓦礫の無い正門と空間を繋いだ。そして僕と夢依だけを正門の方の空間へと飛ばした。そして瓦礫の中の空間には玲華一人だけが取り残されてた。


「……じゃあね、夢依……冬風くん」


力なく呟き、瓦礫を受け止めていた力が急激に無くなり……。


……。


「……っ!」


気が付いたら正門で突っ立っていた。急いで瓦礫の山の方に視線を向けると……僅か一部だけ音を立てながら崩れ去っている部分があった。あの時を最後に、もう玲華の姿を見ることは無かった。


その瞬間を体験した僕はというと、あの後すぐに玲華を助けようとしたが門番達に止められ保護されてしまった。


……。


「どうしてあんな所に……」


「ふむ……」


門番と彦道は、泣き疲れて寝ている冬風の隣でひっそりと話をしていた。あんな大きな崩落事故があり、お城は完全に崩れ去り今は隣りにある民家の宿で泊まっていた。


「分からん……が、恐らくは玲華が行方不明になっているのと何か繋がりがあるんじゃろう。あいつほどの力があればあの程度どうということはないんじゃがな……」


横目で冬風の様子を見てみると……薄らと涙を零しながら魘されていた。そして呟くように玲華の名を呼んでいた……。


「もしそうなれば、この歳でかなり酷な所を見てしまった事になりますね……」


「ふむ……」


それから2人は、長い時間をかけて悩み抜いた。どうすれば冬風に負担なく、この事だけを忘れさせるかと……そして考え抜いた末に出された答えは記憶の封印だった。それのリスクも危険も既に知っていたが故に、使うのを躊躇っていた。リスクと言うのは、他の記憶も同時に封印かけてしまうのではないかという事。


彦道は記憶を操る魔法を使うことが出来るが、記憶を操ると言っても覗くことは出来ないので断定することは出来ない。その為誤って他の記憶に封印をかけてしまう可能性がある……。


そして危険というのは人格変化と言うもの、いくら封印をかけたとは言えなにかの表紙で解けてしまう可能性も十分にあり得る。その為過度なストレスが本人を襲い、別の人格が生まれてしまうのではない かという危険性があった。しかし今の時点で冬風には相当のストレスを負っている、このまま何もしない場合本当に別人格が生まれる可能性も高い。


「「……」」


暫くの間静寂の時間が辺りを包み込む……そしてその時間を切り裂いたのは彦道だった。


「仕方ない……一か八か封印をしてみよう、手伝ってくれ」


「は……はい!」


こうして冬風は城崩落に関する記憶を殆どと言っていい程記憶を封印された。結果は良好、次に冬風が目を覚ました時には既に何も覚えてはいない状況だった。そして今までずっと思い出せずにいた……だが……それは……その場凌ぎにしかならない事など誰もが思っていた。それは本人も薄々と……。


……。


「……」


気が付くとベッドの上に運ばれていた。昨晩謎の女性が部屋に入ってきたことは覚えているのだが、その後が全く覚えていないのである。


「いつの間にベッドに……」


小さく呟きながらベッドを出ようと隣に視線を向けてみると……夢依が僕に抱き付きながらベッドで眠っていた。


「え……っと、はい……?」


これは夢かと、目を擦ってもう一度再確認してみるが……状況が何一つ変わっていないことから、これは夢ではないと確信した。そして優しく揺り起こそうとしても中々起きず、ため息をつきながら起こさないように布団を出ようとするも……片足が布団から出してもう片足も出そうとした瞬間、布団の中から出てきた手に掴まれた。


驚き混じりに振り返ろうとすると、その手の主が布団の中へと引きずり戻そうと力を強めた。そして布団の中へと戻されてしまった……。


「なっ……?!」


突然のことに理解出来ずに薄っすら目を開けてみると、夢依の顔がすぐそこにあった。その表情はまるで照れているような、でも少し安心したような表情だった。


「よかった……もう動ける状態にまで回復したのね」


「うん、色々あってね……迷惑かけてごめんね?」


「いいのよ……普段は私が迷惑をかけているんだから」


途切れるような細い声、何故か少し震えて聞こえた。


「私ね……この部屋に来た時に、冬風が床に倒れていて……もう目を覚まさないんじゃないかって、心配で心配で……」


僕の服の裾を握る力が次第に強くなっていく……涙をぼろぼろと零し、握っている手も小刻みに震えていた。触れていなくても分かってしまう……本当に心配されていたんだと。


「……ごめん、でもこの通り目が覚めたから……大丈夫だから」


「もう……もう……!」


優しく頭を撫でてあげると、胸板に顔を埋めながら泣きじゃくった。まるで幼子のように……。それを宥めるのと同時に、僕はある一つの事で悩んでいた。


(どうしよう……お母さんのことを伝えた方が良いのかな、でも泣きじゃくっているし……だけど先延ばしにするのも何だか悪い気が……)


そう、さっきばかし思い出したあの時の記憶……夢依の母親の事を本人に伝えるか否かで、苦渋の決断を強いられていた。


言えば自分が楽になれる……楽にはなれるのに、夢依が傷つく所を見たくない。かと言ってこのまま隠し通せるかと聞かれればそうも行かない……凄く難しい所なのだ。そんなことを黙々と考え込んでいると、夢依が顔を覗き込んできた。


「……どうしたの?」


「え……あ……」


言葉に詰まり、しどろもどろとしか返事が出来なかった。


「……」


少し落ち着き、頭を冷やし冷静に考えた。今言っても恐らく負担にしかならない、なら改めて落ち着いた時に話したほうが良いのではないかと。結果は同じでも、出来るだけ負担は軽減してあげたい。だから……心の中に仕舞っておくことにした。彼女にとっては余計なお世話かもしれない……。


「何でも無いよ」


だから……僕はいつも通りの笑顔で嘘を重ねてしまった。もしかしたらこれが嘘だなんて向こうからすれば分かりきっているかもしれない、それでも今出来ることはこれくらいしか無い。無理に優しくしようとすれば逆に怪しまれてしまう、かと言って突き放すのも無理がある。だからいつも通り……普段通り接することに決めた。


「ふーん……」


ちょっと怪しい物でも見るような視線にはなったものの、その後は普通に会話をしてくれた。


その後も2人は布団の中でお話をしていた、気が付いてふと時計を見てみると……お昼の12時過ぎになっていた。


「あぁ……もうこんな時間だ、お腹すいたしお昼食べに行こうよ」


「そうね、分かったわ」


そう言って2人は布団から出た。僕は夢依にちょっと待っててと言い、急いで支度して出かけた。外は雲一つない快晴、お出かけをするには絶好の日だった。寮を出て暫く歩くと、門がある。その門を抜けそのまま道なりに歩いて行くと、街の大通りの一番端っこに出る。そして人混みをかき分けて歩いていると……2人ははぐれてしまった。


「あれ……夢依?!」


大声で呼んでみるが、周りがうるさくて返事が聞こえない。それどころか自分の声さえ気付いていない可能性も……僕は微かに感じる夢依の魔力を手繰って探していた。暫くすると大通りを抜けた場所にある大広場のベンチに座っていた。


「良かった……見つかった」


ほっと一息ついて、夢依の隣りに座った。すると夢依は僕に寄りかかってきた……まるで体を預けるように。


「っと……だ、大丈夫?」


「ちょっと……疲れた」


「だよね……ちょっとだけ休もうか」


子供達の笑い声と鳥の囀りで賑わっている大広場、そんな様子を眺めながら2人はベンチで時間を潰していた。


他愛もない話で暫く時間を潰し、また2人は歩き出した。そして近くにあるパン屋に寄り、幾つかパンを買い込んで学園の寮へと戻っていった……そして各自自分の部屋に向かっていった。夢依は2人で食べたいと言っていたのだが、少しだけ考えたい事があると言って男子寮へと歩を進めた。そして自室の扉に手を掛け開けてみると……とてつもない違和感に襲われた。


「何だ……これ……」


吐き気にも似たこの感じ……今まで味わった事の無い異質な空間、何もかもが歪んでさえ見えた。


「…………」


固唾を飲み込みリビングへ向かうと……ベットの上に見知らぬ少女が脚を組んで座っていた。黒いドレスに身を包み、艶やかで綺麗な髪を束ね紅い瞳でこちらを見つめていた。そしてゆっくりと手をこちらに指し伸ばした瞬間……腹部にとてつもない激痛が走った。視線をそちらに移すと、いつ飛んできたか分からない漆黒の刃物が腹部に突き刺さっていた。


「……っ!」


こうして僕は……苦痛に表情を歪めながら地に伏した。薄れゆく意識の中、謎の少女が隣に来る気配を最後に……瞳を閉じた。

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