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蒼い月光と紅い皇炎   作者: 秋水
14/16

第14話 乱入せし者……

こんにちは、秋水です。


気が付けばUA数が千人を突破いたしました!

とてもうれしい限りです!


これからもゆらりと書いていく予定ですが、色々と書き方などを変える場合があります。ご了承ください。

スタジアムに入場すると、皆が大歓喜で迎えてくれた。それに続き対戦相手も入場し、暫くすると試合開始のホイッスルが響き渡り魔力武装を解放した。しかし一人……時雨だけが魔力武装を解放していなかった。


「おいお前、何故魔力武装を解放しない!」


時雨は鼻で笑いながら言い放った。


「お前ら相手に、そんな物必要ないからだよ」


その言葉に会場は騒めいた、すると対戦相手の一人が時雨に向かって突撃してきた。……しかしそれは一切彼に届く事は無い、なぜなら届く前に重力で押し潰すからだ。殺さない程度に……だけど無力化出来る程度に押し潰す。


「ぐぁ……あぁっ!」


時雨にとってはどうという事は無い重力でも相手は人間、簡単に全身の骨が軋み始めひびが入ってくる。その骨が完全にへし折れる手前で重力を解除し、もう一人の方を睨んだ。


「ひっ……」


魔力武装が手から滑り落ち、腰を抜かして後退りしていた。そんな様子をため息をつきながら時雨は審判に試合終了のホイッスルを鳴らさせた。会場中がどよめいた。


それもそうだ、誰もが祭りを冒涜した無礼者という視線でしか見ていなかったのだから。それとは裏腹に誰も手の届かぬ重力という力を見せつけられマスコミどもは大いに盛り上がり騒ぎ立て、他校の人々は驚愕に満ちた表情で周りの人と話していた。そんな色んな感情が交差する会場に何を感じたのか、時雨はさっさと早足で控室に戻っていってしまった。それを追うように夢依も早足で退場していった。


控室では2人共ソファーで次の試合をゆったりと待っていた。


「それにしても……学生とはいえこんな催し物に出るくらいだから冬風くらいの実力があるのかと期待してみればこの有様、悲しくなってきた……」


大きなため息をつきながら時雨はこう呟いた。夢依は苦笑しながら紅茶を淹れ、紅映と一緒に楽しんでいた。


「仕方ないわよ、学生の中で冬風だけがあんなに強いんだもの……私も彼に出会う前はそんな強い人なんて見たことないわよ」


「そういうもんかねぇ……」


談笑していると琴珠が部屋の中に入ってきた。


「決勝まであと3試合、気張って行けよ」


「はい!」


元気よく返事をした夢依とは真逆に、時雨は面倒くさそうな態度で頷いた。次の対戦相手は何か仲の良さげな男女のカップルだった。男性の方は小太刀(脇差程度の長さ)で、女性の方はボウガン(機械式のボウガン)だった。時雨が一瞬で片付けようとしたところを紅映がそれを制止した。


「ここは私に任せてください」


「あぁ……分かった」


重力をかけるのを止め、半歩後ろに下がった。紅映は時雨に優しく微笑むと手に提げていた刀を相手の方に向かい構える。小太刀の男性が高速で間合いの中に侵入した瞬間……何が起きたのか分からない現象に包まれた。男性は確かに紅映に向かって突撃していた、それなのにいつの間にか男性は力なく床へと倒れこんだ。


「ふぅ……こんな物ですか」


ゆっくりとため込んだ息を吐きながら納刀、その隙を狙ったのか女性が紅映に向かいボウガンの矢を放った……が、空中で何かに押し潰されたように粉々に砕け散りそれと同時に女性はボウガンを手放し投了した。またもや騒がしい雰囲気が会場を包み込む。時雨曰くこの会場は色んな所の祭りより感情の交差がとても激しいらしく、そういう気配などに敏感な生物や者は感情にあてられて興奮状態になりやすいとのことだ。


その次の試合もそのまた次の試合も、夢依と時雨(実質紅映と時雨だけ)は勝利を重ねていき決勝戦までたどり着いた。


決勝の前に一旦選手にブレイクタイム(休憩時間)が15分与えられる、時雨たちは静かな場所に行ってくると言い残して何処かへ消えて控室には夢依だけが取り残された。


一人静かに紅茶を嗜んでいると、ドアをノックする音が部屋に転がった。控室に訪ねて来た人物……それは冬風だった。思っても見なかった人が急に控室に来た事にびっくりし、手に持っていた紅茶のマグカップを床に落としそうになる。しかし何とか危なっかしくもテーブルの上に置き、早足で冬風の元へ行き……力いっぱい抱きしめた。心の底から会いたかった……ずっと一緒に居たかった人が目の前にいる、そ れだけで夢依の心は満たされていた。


「……ごめんね、一緒に祭りに出場するという約束を守れなくて」


「いいの……こうして一緒に居てくれるだけで幸せだから、二人で祭りに出れなかったのはちょっと残念だけど……それでも来てくれたのは嬉しい」


まるで子供のように無邪気な笑顔を浮かべていた。心の底からとても安らぐような……そんな錯覚に襲われるほどに。しかし冬風の表情は何処か浮かなく、とても不安を貯めこんだような表情だった。そんな彼に夢依は首を傾げながら聞いた。


「何かあったの……?」


「……」


図星を付かれたのか表情を少し歪めた。優しく頭に手を乗せ瞳を閉じ……一呼吸置いてからあるものを夢依に手渡した。それは和紙のようなもので大きさは長方形で手のひらサイズだった。真ん中には文字みたいなものが描かれており、持っているととても不思議な感じがした。


「これは?」


「いざという時のお守りだよ、できれば祭りの最中はこれを手放さないでほしい……」


「……分かった」


そう言うと夢依はブレザーのポケットに大切に仕舞い込んだ、それを見届けると少しだけ安心した表情を浮かべそのまま控室を去ろうとした。すると背後から夢依が服の裾を掴んできた。


「私の……決勝戦見ててくれる?」


「……うん、もちろんだよ」


優しく微笑みながら頷くと、最後にはにかんだ笑みを浮かべソファーの方へと戻っていった。冬風も控室を後にした後観客席の奥の方へと姿を消した。


15分のブレイクタイムが終了し、決勝戦が始まろうとした頃……観客の盛り上がりは最高潮を迎えようとしていた。大いに騒ぎ大いに盛り上がり、とてもではないが暑苦しすぎて長時間その場に居られる自信がなくなるほどに。


そして選手が……夢依と時雨がスタジアムに足を踏み入れようとした瞬間、地を轟かすような轟音が会場の外から響き渡っていた。その音に誰もが驚愕し腰を抜かし、不安を抱え始めていた。ただ2人を除いて……。


「ちっ……こんな時に来やがったか」


その声の主はその場で座禅を組み、何かしらの詠唱を唱え始めた。


「”風樹を閉じ込めた苗は地に埋もれ、雨風が吹き荒れその芽を脅威に引きずり込む。太陽はその芽を育て大きくし、やがて風樹は世界を覆いつくすほどの巨木と成り果てる。大地は巨木を支え倒れぬよう張り巡らされた根を離さぬ……。地水火風の原理が此処に成りて、今全てを守らんとする盾とならん”……-古式結界魔法 五行呪術結界盾-」


言葉を終えると会場を包み込むように結界が覆った。椅子の下に仕掛けられていた冬風の札が淡い光を零しながら結界の強度を保っている、つまり外側からの攻撃を受け続ければやがては札は破れ結界が破られてしまう。その前に会場にいる人達を避難させようという考えだった。


「み……皆さん、慌てないで非常口から外に逃げてください!さっきの大きな音は恐らく会場の反対側に大きな物体が落っこちた音です、ですので非常口の方には被害は届かないと思うので早くお逃げください!」


冬風は大きな声で、皆に聞こえるように避難を促した。


(まさか……そんなはずは……)


心のなかで妙な違和感を唱えながらも数十分で皆の避難が完了した。途中大きな轟音や地響きがあったが、雅のフォローもあったおかげかすんなりと被害を出さずに避難を終えることが出来た。


「こんなもんかな……会場に残ってる人は……」


人気が無くなったドーム、その一分の席に一人座禅を組んでる見覚えのある人がいた。その人が座禅を終えると光の結界は消え去り、その人は冬風の所へ歩いてきた。


「まさか……」


そう、見覚えのある人……冬風の知る人の中で古式結界魔法を知る人はたった1人しか思い当たらなかった。


「久しぶりだね……冬風」


「秋水……兄様?!」


エーテルに一時帰還した時に家には居らず、どこかへ出かけていたはずの秋水が目の前にいた事に冬風は驚いた。


「話は後だ……まずは祭りを妨害したあの無粋物を追い出してからだね」


秋水が上を向くと……大きな物体が羽を羽ばたかせてこちらの様子を伺っている。そして何を思ったのか急降下し……会場に降り立った。その物体はとても大きな体に漆黒の鱗を纏い、まるで宝石のような瞳でこちらを見つめながら羽を広げ先ほどと同じ轟音を発した……その正体は


「……黒竜」


一番の不安要素だった黒竜がついにこの場に来てしまった、こんな最悪の事態を予想していたとは言えいざ目の当たりにすると恐怖で足が竦みそうになる。しかしこの場でじっとしていても無残に殺されるのを待つだけ……全てを壊されるのを待つだけだ。


(それだけは……させない)


魔力武装である濡霞を手に、黒竜の方へ歩み寄ろうとする冬風。しかしそれを誰から背後から抱きしめて止めた。


「……!」


ゆっくりと背後を振り返ってみると……そこには瞳から涙を零しながら冬風を抱きしめている夢依と、その後ろでやれやれと肩を竦めている時雨の姿があった。


「夢依……時雨?!」


冬風は戸惑い、魔力武装を一旦解除した。そして優しく夢依を抱きしめ、時雨の方に視線を向けた。


「そんな目でこっちを見るな……夢依がどうしても冬風の所に行きたいと言って聞かなくてな、渋々俺も付いてきてやったわけだ」


冬風と夢依の所に時雨も歩み寄ってきた、その瞬間黒龍は大きな咆哮を発しながらこちらに尻尾で叩きつけようとしてきた。


「……っ!」


冬風は片手で夢依を抱きしめ、もう片方の手で濡霞を展開して受け流そうとした。だけど黒龍の尻尾の大きさははっきり言って異常、これだけ質量がでかい物を受け流せるかは正直不安だった。その瞬間……何かとてつもなく重いものでも乗せられたかのように地面に思いっきり叩きつけられた。


「全く……世話のやける契約主だよ」


気が付くと、時雨が黒龍にとてつもない重力をかけていた。しかし大きすぎるせいか、次第に慣れていって重力の中でも辛うじて動けるようになっていた。


「ちっ……黒い蜥蜴の癖に」


悪態づきながらもどんどん重力をかけていった、だけど黒龍は驚くべき速さで次々と順応していった。やがて何事もなかったかのように空を飛び、滑空して時雨を狙ってきた。


「時雨……!」


冬風の声虚しく時雨はふっ飛ばされ壁に激突し埋もれてしまった。砂埃が広がり瓦礫が落ちてくる中、平然とした顔で服を少し叩きながら出てきた。


「ったく、鬱陶しいな」


もう一撃と言わんばかりに大きな音を響かせながら尻尾を叩きつけようとしてくる、しかしそれを自身の重力を限りなく減らし宙に飛んで回避した。それを見越したかのように炎を吐いてくる。黒龍はこの炎を他の方向へと飛んで回避すると予測した、しかし時雨はそれを見越してあえて自身に重力をかけて地面へと舞い戻った。龍の予想は見事に外れ、攻撃は綺麗に空振った。


「……」


そんな戦いを冬風は眺めていることしか出来ずにいた。濡霞を再展開してはいるものの、中々戦闘に介入するタイミングが掴めずにいた。そんな感じで眺めていると、夢依がすぐ隣まで歩み寄ってきた。


「夢依……?」


「何悠長に見てるの、早く時雨を助けに行くわよ」


そう言って夢依も魔力武装を展開した。しかし前に見た武装とは違う……妖麗ノ勾玉と同時に少し小さめの刀も同時に展開していた。


「それは……?」


「紅映さんに教えてもらったのよ、これで魔法だけに頼ることはないから少しでも長く戦えるわ」


その刀はレイピアと言うには少し太く、刀と言うには細身で少し短い気もした。その証拠に冬風の濡霞と比べてみれば一目瞭然で、少し力を入れれば呆気なく折れてしまいそうに細身だった。


「だけど……」


その後の言葉は黒龍の咆哮で掻き消されてしまい、夢依の耳に届くことはなかった。しかし心配そうな視線で察したのか、ウィンクしながら細身の刀を構えた。


「……仕方ない、行こう。だけど……くれぐれも無茶だけはしないでね」


「分かってるわよ」


冬風も構え、2人同時に黒龍の方へと突っ込んでいった。微量な魔力を勾玉から察知したのか、龍までの距離あと僅かな所で振り向いた。そして広範囲の炎を吐いた。


「魔力結界、属性は水。-神聖な水を纏いし衣、邪な魔法を寄せ付けず。清められた水は、邪なる者を浄化する。その聖なる力を持って、我らを守り給え……-”聖水ノ濡衣”」


詠唱を終えた瞬間、冬風と夢依の身に淡い蒼の羽織を纏った。そして炎が2人を飲み込んだ……しかしその熱さをものともせずひたすら突き進んでいた。それに驚いた龍は爪で裂こうとした、だがその攻撃は冬風の手によって受け流されてしまう。受け流されたことによって空振り大きな隙を見せ、夢依が胸元から腹部にかけて目では追えない速度で刺突を繰り出した。


「す……凄い……」


攻撃を終え、腹部に思い切り蹴りを入れその場を離脱。間合いを取った後龍の傷跡を見てみると……計18箇所に刺し傷が見当たった。所々浅い傷もあったが、龍にとっては相当効いたらしい。


「はぁ……はぁ……」


しかし夢依の体力は相当削られていて、18連撃はもう繰り出せそうにない。それもそう、本来夢依は剣術など接近戦タイプではない。魔法で圧倒するタイプなので一般の人より魔力は勝ってるが、一方で体力は劣っているのだ。小さい頃に剣術の鍛錬なんかを積み重ねていれば多少はマシだったと思うが、今までそんな素振りすら見せたことはなかった。


膝に手をつき呼吸を整えている夢依、しかし龍はこの瞬間の隙を見逃しはしなかった。広範囲の炎を吐いたと思ったら、今度は何やら空に向かって咆哮し始めた。何だと思い空を見上げてみると……大きな黒い魔法陣が浮かんでいた。ゆっくりと構築されていき、この大きさだと会場はおろか周りの建物までも消し飛ぶ可能性が高い。


「くっ……!」


焦りの色を隠しきれず懐に飛び込み、足の付け根の部分を切り裂こうとした。しかし鱗が硬すぎて大した傷にはならなかった。冬風は夢依の所まで間合いを取り、再び空を見上げて見ると……もう半分近くまで構築されていた。


「くそ……どうしたら……!」


半ば諦めかけていた時だった、金色の斬撃が龍の羽の付け根の部分に直撃して1つツバサが切り落とされ地に落下した。


「……!」


斬撃が飛んできた方向を見てみると、そこにはグライエンに居るはずのグレイアスが立っていた。金色の魔力を帯びたエクスカリバーを振りかざし、もう一発斬撃を龍に御見舞した。そして砂埃が龍の姿を隠した。


「グレイアス、何でこんな所に?」


「冬風、無事だったんだね。今日はユスティアの祭りを楽しみに来たんだけど、その途中でこんなのと出会っちゃってね……こいつを倒すの手伝うよ」


グレイアスは冬風に優しく微笑みながらもう一発斬撃を飛ばした、だが今度は見切られたせいか、魔法陣を展開し相殺した。


「そんな……龍も魔法を使うのか……?!」


冬風は驚愕しながらも記憶を遡っていた。確かに龍に関する記述はあまり見当たらなかったが、月詠家の書庫の中に1~2冊だけ龍の考察みたいなのを見つけた。そこには龍が魔法を使用することなど一つも書いていなかった。書いてあったのは主に肉体を駆使し、炎の吐息を吐くことくらいしか書いていなかった。


(どうしたら……)


必死に冬風は考えていると、既にグレイアスは懐の方へと飛び込もうとした。しかしエクスカリバーの刃はあと少しで鱗に当たるという所で魔法陣に遮られた。


「……ふふ、その程度で私の刃を止めた気でいるのかな?」


攻撃を受け止められ少し焦っているはずのグレイアス、しかし彼女が口角を上げた瞬間……エクスカリバーの刃は魔法陣をすり抜け、龍の鱗と肉を断ち切った。


「私のエクスカリバーの力を侮ってもらっちゃ困るよ」


そう呟きながら連撃を繰り出した、だが学習したのか刃が届く寸前にまた魔法陣を展開してきた。しかし今度の魔法陣はさっきのとは違う色をしていた。


「何度やっても同じ……っ!」


刃が魔法陣に触れた瞬間、すり抜けるはずの刃は弾かれふっ飛ばされていた。


「そんな……!」


なんとか空中で体勢を立て直し、地面に着地することが出来た。だが追撃と言わんばかりに巨大な炎がグレイアスを包み込んだ。


「くそっ……!」


エクスカリバーで炎を薙ぎ払い、掻き消したがその後に待ち受けていたのは尻尾の薙ぎ払いだった。それを察知しなんとか受け止めたが、またもやふっ飛ばされてしまい壁に激突した。しかも運悪く左腕の骨を折ってしまったようで、動くに動けない状態になっていた。


冬風は今にも駆け寄りたい気持ちを押さえ込み、気持ちを落ち着けながら冷静に考え込み……そしてある決断をした。


(こうなったら……)


濡霞を仕舞い、龍の方へ歩み寄る……夥しいほどの魔力を纏いながら。先程纏ったばかりの羽衣は何処かへと消し飛び、代わりに空気が歪んで見えるほどのとても濃厚で重い魔力を纏っている。


「冬風……きゃぁぁ!」


近寄ろうとして魔力の渦に飛び込んでみたが、呆気なく吹き飛ばされてしまう夢依。あと少しで壁に激突しそうになり、思い切り目を瞑った。だがその身に感じたのは壁とは違い、とても暖かくて少し柔らかいものに当たった。恐る恐る目を開けてみると……淳がクッションになってくれていた。


「大丈夫か?」


「え……えぇ、なんとか」


夢依は淳に頭を下げつつ、冬風の方に視線を戻した。グレイアスと淳もつられて視線を冬風に向けた……そして驚いた。誰も近づくことが出来ないはずの魔力の渦に、雅と時雨とルシファーが立っていたのだから。


「……頼む、僕に力を」


小さく呟いたその言葉に、3人は静かに頷いた。そして冬風が右手を掲げた瞬間……1人づつ冬風の中に入って行くように見えた。


「この方法は使いたくはなかったけど……他に手段がないからな……”禁忌 神降し”」


神降しとは、複数契約している冬風が独自に編み出した力の使い方だ。3体の契約者を1人ずつその身に取り込んでいくことにより、通常の能力の何倍の効力を発揮することが出来る。


例えば雅を取り込んだなら常に霧状になれるのに加え、全ての水系統の魔法を使うことも出来る。


ルシファーなら悪魔を使役することだって出来たりする。だがこの技を使用すると暫く他の魔法が使えないことと、肉体にとてつもなく大きな負担がかかるため下手をすれば雅の能力を持ってしても数週間はまともに歩くことすら出来なくなるかもしれない。しかしこうでもしなければ、ここで皆が全滅してしまう。それに比べたら数週間動けない程度の事などどうということはない。


雅、ルシファー、時雨を取り込んだ冬風の姿は人間というには余りにもかけ離れていて、神や悪魔と言うには余りにも異質過ぎる姿をしていた。髪の色は黒から灰色へと変わっており、口元からは鋭利な牙みたいなものがちらついている。更には手の爪はかなり伸び切っており、肌の色も普段と比べて生気が無いと言っていいほど白くなっていた。瞳の色も紅と蒼のオッドアイになり、羽織の上から白い翼と黒い翼が2本ずつ生えている。


「ふ……冬風?」


途切れ途切れ夢依は呟いた、冬風は彼女の方に視線を向けると……いつもとは違う、まるで龍よりも恐ろしいものを見たかの様な畏怖の視線になっていた。それも無理はない……なんせ普段の冬風、常識的な人間の生態系を軽く覆せるような見た目をしているのだから。


「安心して……すぐ終わらせるから」


そう言って龍の方へと視線を戻すと、展開中の魔法陣を中断し新たに幾つかの魔法陣を同時展開した。そこから発せられたのは炎だけにあらず、水や雷や土や風などの属性を持つ大きな玉だ、本来ならかわすことも受け止めることも出来ない。


「……」


右手でフィンガースナップを鳴らすと、魔法陣ごと龍が発した魔法は掻き消された。同じものを再展開しようとしても、何かに妨害(Jamming)されて展開することが出来なくなっていた。


「お前の魔法陣の”構築式”の一部を書き換えさせえもらった、これで同じ魔法はもう使うことは出来ないはずだ」


そしてもう一つの手でフィンガースナップを鳴らすと、地面が抉れて見えなくなるほどの重力をかけた。流石の龍もこれには対応することが出来ず、地に伏す形になった。だがそこに地はなく、待ち受けていたのは永遠に落ち続ける無限地獄……ルシファーの力で時雨の重力で出来た穴に地獄門を設置し、予め落とすように仕組まれていた。


「お前を殺すことはしない、ただ永久に終わりのない地獄で落下し続けるがいい」


即座に地獄門を閉め、辺りには静寂が戻ってきた。上空に浮かんでいた魔法陣は構築者が

いなくなったため、自然消滅していた。


「……」


龍を……黒龍を倒した、それなのに歓喜の声すらあげるものは一人も居なかった。ただただその場で息を呑むことしか出来なかった……。


終わりを告げた黒龍との戦い、静寂が満ちる会場の中冬風は出口に向かって歩みを進めようとしていた。だが次の瞬間……彼の中から3人が出てきて、いつもの冬風に戻ることが出来た。しかしその場で力なく倒れた。


「冬風……!」


真っ先に駆け寄ってきたのは夢依だった、優しく抱き起こし瞳から涙を零しながら頬を撫でていた。意識はないがとても小さく、弱々しく呼吸をしていたことに安堵していた。続いて淳やグレイアス、秋水も冬風の周りに集まってきた。それからの事は冬風は覚えていない……正確に言えば、3人が冬風の中に入ってきた時から記憶な飛んでいたのだ。


あの後雅がおぶって部屋まで連れていき、布団の上に優しく寝かせてくれた。2日半位目が覚めなかったが、3日目の朝にはすっかり意識を取り戻していた。


「僕は何日眠っていたんだろう……朝ということは少なからずあの日の翌日ということはないかな、あんな無茶したんだもの。魔法を使おうとしても魔力を感じないし、暫くはこのままなのかな」


泣き言のように呟いていると、雅がひょっこりと出てきて……手に持っていた果物を落とした。


「おはよう、雅……って、何か落としたよ」


苦笑気味に指摘しても唖然としてて返事がなく、首を傾げていると我を取り戻したかのようにはっとなり勢い良く抱き締めてきた。


「冬風……!あれだけ無茶はしないでって言ったのに……!」


寝起き早々怒られた。


「し、仕方ないじゃないか……ああでもしないとやばかったんだから」


「言い訳しない!」


「……はい」


何故か今日の雅はいつもより厳しい……。そんなこんなで話していると(ほぼ雅のお説教タイム)、淳が部屋に入ってきた。


「どうした、そんな騒いで……って、冬風!」


部屋の中へ入ってくるなり勢い良く冬風の胸ぐらを掴んできた。


「お前な……どれだけ心配したと思ってるんだ!あれから2日は目を覚まさないし、雅が不安になるようなこというし……」


「不安になること?」


首を傾げながら雅の方を見ると、苦笑しながら視線を逸らしていた。


「い、いや……このまま目を覚まさないんじゃないかって言っただけよ」


(あぁ……なるほど、だからか)


なぜか一人で自己完結していた。


「ごめんな……心配かけて、でもこの通りちゃんと目を覚ましたからさ……ね?」


苦笑踏まえの視線で淳を見ると、普段涙を流さない淳が涙を流していた。


「馬鹿野郎……もう無茶なことだけは……絶対するな……‥これっきりだと約束しろ……」


「……うん」


こうして冬風は淳と指切りをした。


その後は夢依やグレイアスや藤谷、忍に時雨にルシファーに紅映と色んな人が集まり散々言われてしまった。


特に時雨の一言がキツくて心がへし折れそうになった……だけど最後には心配してくれた。皆が来てワイワイしているうちに1日は終わりを告げ、早くも深夜になる。冬風は動けぬ体でベッドの上から、一人星空を眺めていた。


(大分無茶して皆から怒られちゃったけど、無事に守りきれたんだよな……よかった)


しみじみと思い返しながらそろそろ眠りにつこうかと思った矢先、部屋のドアがノックする音が響いた。


「はーい」


動けないので返事だけ返すと、ガチャっと音がした後に足音がこちらへと近づいてきた。そして扉が開かれそこに居たのは……龍彦だった。


「父様……?!」


思ってもいない来客に、内心から驚きが隠せなかった。何でグライエンに居るはずの父様がこんな所に……そう思っていると冬風の側まで近づいてきた。何をされるかと怖くて目を瞑ると、頭の上に優しく大きくて柔らかいものが乗っかり撫でられる感触がした。


「……?」


薄っすらと目を開けてみると、龍彦は申し訳無さそうな表情で冬風を撫でていた。


「話は聞いた……力になれずすまなかったな」


今まで龍彦にかけられたことのない言葉に、戸惑いを隠せなかった。


「い、いえ……」


「そしてよくやった……お前は十分に皆を守り遂げた、大したやつだ」


戸惑いは隠せなかった……だけどそれと同時に嬉しくもあった。


「守りきれたのは僕一人の力では無いです、雅や夢依や兄様……皆の力があったからです」


「あぁ……それも分かってるさ」


何故か龍彦は笑みを浮かべ、冬風の頭から手を離した。


「俺はエーテルに戻る、もうグライエンにいる必要も無いだろうと言ってグレイアスがな……。だから話があればちゃんと回復してから帰ってこい」


「は……はい」


龍彦は頷くと部屋を後にした。


再び静けさが戻った部屋で一人考え事をしていたが、とりあえずは体を治さないことには始まらないと思い電気を消して布団の中へ身を埋めた。予想外の来客や説教ばっかりで疲れていたためか、意外とあっさりと眠りにつくことが出来た。


ユスティア並びにグライエンは黒龍の危機を去り、また平和ないつもの日常へと戻ろうとしていた。盛り上がっていた新竜王激流祭は中止となり、来年度へと持ち越しとなってしまった。

黒龍編は、ここで終わります。

次回からは、また新しい章に移ります。

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