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蒼い月光と紅い皇炎   作者: 秋水
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第11話 グライエン王国潜入!

秋水です、最近体調崩して何も出来ていません(´・ω・`)

僕はフェルニアと共にグライエン王国に来ていた。突然連れてこられた僕は制服のままで、私服姿のフェルニアと歩いていただけでかなり注目されていた。


「う……うぅぅ、その場のテンションでつい来るとは言ってしまったけど、そう言えば僕……制服だったんだ。恥ずかしい」


「大丈夫よ、ユスティアの人だって事は分かるだけでそこまで意識するほどのことではないわ」


「僕は目立ちたくないんだけど?」


「その綺麗な容姿で十分目立っているわよ」


周りを見てみると、やはり誰の目も”男性を見る目”ではなく”美しい女性を見る目”だった。つまり制服の事ではなく、僕自信の容姿に皆が見惚れていたのだ。


「美しい……と言うよりも、この世にあんな美少女が存在するのか……」


「すごく綺麗。あの子の制服ユスティアの学校のだと思うけど、もしかしてこっちに引っ越してきたのかな?」


「どうなんだろう……フェルニア様と一緒に歩いている所を見ていると、そんな感じもするんだけど」


歩いている最中そんな声が周りから沢山聞こえてきた。別に好きで聞き耳をたてていた訳ではないのだが、どうしても気になってつい気を張り巡らせていた。


そんな人混みの中をかき分けて歩いて行くと、大きな城の城門が目に入った。ユスティアにある伯父様の城に引けを取らないほどの大きな城だ。


「うわぁ……すごい」


「門番にも話を着けたから中に入りなさい」


「う、うん……」


行ったことも無いので(当たり前)あまり勝手が分からず、最初は挙動不審だったが次第に慣れて落ち着いてきた。暫く歩いていると、正門にも引けを取らない一際大きな扉の前でフェルニアが立ち止まった。


「グレイアス殿下、客人をお連れいたしました」


(客人って……半ば無理やり連れてこられたようなものなんだけど)


表面的には苦笑し心の中で突っ込んでおきつつも、開かれた扉の中を見て目を疑った。それはユスティアの伯父様の部屋、皇玉の間とは違い警備の兵士たちが道を挟むようにして立っていたことだ。しかもご丁寧に王の座まで一直線だった。


「これはご丁寧にどうも……」


頭を軽く下げつつ兵士たちの間を歩き抜け、王座に座っている一人の少年の元へと歩み寄った。そこでフェルニアが傅いたのを見て、僕も同じように傅く。


「お久しぶりです殿下。このフェルニア・スティーローズ、ご命令通り月詠 冬風を連れてまいりました」


(この人の命令で僕をこんな所に連れてきたのか……と言うよりも、僕と同い年くらいのこの少年がグレイアス……到底信じる事は出来ないけど)


やや上目遣いで観察していると、王座の背後からよく知った人物が姿を表した。それは夏休みの墓参りの時に出会った……龍彦本人だった。


「っ……!」


動揺が隠しきれず思わず息を詰まらせた。幸いなことに周りの誰も気付いては居なかったが、恐らく父様は気付いているだろう。そんなことも知らずグレイアスは話を勝手に進めていた。


「ご苦労。フェルニア・スティーローズ。さて冬風よ、今回君に来てもらった理由は分かるかな?」


「……いえ、全くもって理解致しかねます。第一僕如き一般生徒であり一般市民が、こんな所に招かれ……しかもこんな丁重に扱われる道理は無いはず。一体僕に何をさせたいのですか?」


思わず疑問をぶつけると、周りに居た兵士たちが騒ぎ出した。その騒ぎの大抵は(無礼だぞ、貴様!)とか(身の程を知れ!)などだったが、それらの騒ぎをグレイアスは片手で鎮めた。


「そうか……理由はたった一つだけ、グライエン側に着いてほしいのだ。近々我らがユスティアに戦争を起こすことは知っているだろう、君の能力は私の側近……あぁ、君の父君だったな。そいつから聞いている。悪くない力だ、むしろ我が勢力として欲しいくらいだ。だからこうして来てもらったのだけど……」


「一応聞いておきます、僕に拒否権などというものは?」


「無論元から無い。断ればユスティアの皇女……夢依とか言ったか、その少女がどうなるか言わずとも分かるよな?」


「……具体的には?」


「今ユスティアに潜伏している部下に命を下し、大群で襲わせるまでだ」


それを聞いた瞬間僕の表情が凍り付いた。その後(ふざけるな!)と叫びたいほどに嫌な顔をしていた。


「確かに昔の僕だったら貴方の言葉に惹かれ、その誘いに迷いなく乗っかっていたと思います。だけど今の僕には夢依がいる、心から守ると誓った人がいる。それに僕を信じてくれている淳や忍、悠斗さんや伯父様……色んな人たちがいる。それにあの場所は母様が生まれ育ち、生を謳歌した場所であり僕にとっては思い出が詰まった場所だ。それらを全て捨て去ることなんて出来るはずないだろ……!」


僕は気が付くと怒りに満ちた瞳でグレイアスを見ていた。だが腸が煮えくり返りそうな程の熱い怒りではなく、もっと冷たく冷酷で、残酷なまでの落ち着いた怒りだった。


「はぁ……どうしてもかな?」


小さくため息を尽きながら立ち上がり、凍り付くような碧眼の瞳で僕を睨みつけた。


「一つ……言わせて貰います。僕はユスティアを裏切るつもりもないし、ましてや貴方に力を貸す義理もない。それに……僕の大切な人々に傷付けさせやしない!」


「それでは……交渉決裂ということでいいのか?」


「そんなの聞くまでもなく当たり前だ!」


きっぱりと言い切ると、グレイアスは残念そうな顔をした。そして右手を上げると、周りの兵士達が臨戦態勢になった。


「そうか。それは仕方ないな、じゃあここで消えてもらうか」


「……およそ20人程度か」


ボソッと呟きながら魔力武装、濡霞を呼び出し抜刀。そしてグレイアスの右手が振り下ろされた途端、一斉に襲いかかってきた。20人の内槍が8人、剣が6人残りの6人が弓。きちんとした陣形を組み、一部の隙もなく僕に襲い掛かってきた。


「ちっ……」


軽く舌打ちをしながらも、一人一人確実に沈めていった。だが一人も殺さず、気絶程度で済ませていた。


槍は間合いを一気に詰め、同じ剣同士は相手の剣をへし折り、弓の場合は躱しつつ間合いを詰めた。数分もかからない内に立っていた兵士達は地に伏せた。


「へぇ……やっぱりこの程度の相手じゃあ不十分か、だったら……」


グレイアスは王座から立ち上がると同時に、黄金の剣を呼び出した。僕と同じ魔力武装なのだろうが、雰囲気が格段に違った。


「……僕が相手をしてあげるよ、この聖宝剣 エクスカリバーでね!」


剣の名を叫んだ頃には王座の前から居なくなっていた。気配を探ってみるも、周りの雑兵共の気配が多く、集中できなかった。


背後に寒気を感じ視線を移してみると、そこにはグレイアスが既にエクスカリバーを振り下ろしていた。、


「……!」


だがこの程度の剣速程度なら受け止められると思っていた。しかし、エクスカリバーが濡霞に触れようとした瞬間……”すり抜けた”。


「なっ……!」


動揺しつつも慌てて身を翻した。体制を立て直すために距離を取り、グレイアスが立っていた場所には既に居なかった。


今度は視界のみで探ってみたが、動きが早すぎて全く読むことが出来なかった。気がついた頃にはすぐ右隣に居た。


(眼で追い切れない……と言うよりも、姿すら捉えることが出来ない!それどころか剣すら合わせることが出来ない以上……これじゃあ勝てない!)


必死に眼で追おうとしているが全く見えることはなかった。


翻弄され続けること数分、グレイアスのエクスカリバーから大きな魔力を感じた。魔力源であるエクスカリバーの方に視線を急いで向けると、グレイアスの動きが止まった。


「……?」


「やれやれ……全く話にならない。龍彦から君の話を聞いていた限りではこの剣と対等に渡り合えると思っていたのだけど、当の本人がこのザマでは契約している者たちも可哀想に思えてくるよ。これ以上は時間の無駄……だから、この一撃で沈めてあげる!」


エクスカリバーを天に掲げると金色の光が辺を覆い尽くす。その剣を振り下ろした瞬間、巨大な轟音と共に斬撃が迫ってきていた。


(これはまずい、食らったら……速攻で沈む。だけど打つ手が無いのも事実だし、逃げるという選択肢がないのも事実……)


迫り来る斬撃を前に必死に考えこんだ。残された時間が残り僅かとなり、すぐそこまで斬撃は迫っていた。その斬撃をぎりぎりの所でかわし、距離を取りつつ僕はため息を吐いた。


「本当は使いたくなかった……勿論君の身を案じてもあるけど、何よりこれを使ったらどうなるか僕自身も分からない。初めて使うから……だから先に謝っておくよ、ごめんね」


濡霞を納刀し床に手放した。地面に触れる寸前に神界に転移された。しかしこれで僕は丸腰になった……と思いきや両手を前に掲げた。


「……魔力属性変更、水から光と闇へ。


”剣線の導きにより、2対の刃は姿を晦ます。冥黒の彼方に一筋の陣があり、輝きが増すと共に世界は破滅への道を辿る。陣は2つ、一つは天津より降り注ぎし豪炎を纏いし大岩。そしてもう一つは天界より出し天使を束ねる長。彼らにより世界は終末を迎え、再生する!”顕現せよ!魔剣プロメテウス、天剣 暁明星を転移。そして魔王化……!」


ボソリと呟くと斬撃すらも覆い尽くすような黒い靄が現れた。その黒い靄の中に2つの魔法陣が現れ、炎を纏った隕石と天使が陣の中から出現した。その2つが剣に変化し、僕はそれを掴んだ。その瞬間靄に包まれ姿が消えた。


「なっ……私の一撃を……」


グレイアスは唖然と靄を眺めていた。すると靄の中から2人の男性が出て来た。一人は額に一つの角を生やし黒いマントを羽織った……魔王化した自分と、もう一人は魔王ルシファーだ。


「その姿……なるほど、魔王化と言うやつか。その姿を見るのは初めてだが、噂で聞いたことはある。だがそれがどうした、例え契約者を神から魔王へ変えようと不利なのには変わりあるまい?」


グレイアスの言葉に、僕は鼻で笑った。


「確かに魔王では聖剣には太刀打ち出来ないね……だがそれはあくまで”魔王”の力ならね」


「……何が言いたい」


「つまりこういう事だよ」


天剣暁明星の鋒をグレイアスに向けると、自身の見た目は一変した。


角は消え去り今まで黒く色が変わっていたものが全て白い色へと変わった。そして瞳の色も紅から少し紅み掛かった碧色へと変化した。


「これは……」


「僕も初めて使うから上手く説明は出来ないけど、これは天使長だった時代のルシファーの力を具現化した姿。これでならさっきよりはマシになったと思うけど……分からないな」


「だったら私が確かめてあげるよ!」


目を見開いて不気味な笑みを浮かべたと思ったら、姿が見えぬほどの速度で僕の懐へと飛び込んできていた。


しかしさっきとは違い、懐に潜り込んだ瞬間真横から暁明星の一振りが。それを何とかエクスカリバーで受け止めるも威力を殺しきれずに思わず弾き飛ばされた。


「なるほど……反応速度が先ほどまでとは比べ物にならないくらい上がっている。しかもその剣……エクスカリバーで威力を相殺しきれないとは、まさか君も国宝級の剣を持っていたとはね」


先ほどの余裕の笑みとは一転代わり、焦りのような曇った表情になっていた。それに対して何故か複雑そうな表情になる僕。


「……国宝か」


「ん?」


「こいつは国宝じゃない。これは僕の契約者……ルシファーがくれた唯一無二の剣だ。これは避けたかったんだけど……仕方ない、僕の大事な物に手を出そうとしている輩を前にして、黙っていられるはずがないだろう?」


「だったら守ってみせろ、その剣で!」


「言われるまでもない!」


グレイアスが声を荒げ、僕に向かいまた懐に潜り込もうとした。だが僕はその僅かな時間で自分の剣……プロメテウスと暁明星の性質を”理解”し、プロメテウスを天に掲げた。


「早速使わせてもらうよ……ルシファー。魔剣プロメテウス、天より降り注ぎし魔の流星群よ。大地を邪悪なる地獄へと変貌せし流星、今ここに我の力を持って全てを討ち滅ぼせ!」


プロメテウスの鋒の方に視線を向けた。しかし魔法が使用されるどころか何も起きやしなかった。


「どうした、苦し紛れのはったりか?」


確勝の笑みを浮かべながら僕との距離を縮めた瞬間、上から何かが落ちてきた。グレイアスは驚き、詰めていた距離を離した。天井を見上げてみると、大きな紋章が刻まれていた。悪魔を象徴とする絵を中心に、文字が巨大な円を描くようにゆっくりと回転していた。


「何だ……あれは!」


「これは魔法でも何でもない……魔剣プロメテウスに記された紋章の一つ、”流ルル邪ナ巨星の紋章”だ」


「紋章だと……?!そんな物聞いたことも見たこともないぞ!」


「そうだろうな……これは元々人間の世界にあってはならない代物なのだから。これは地獄で作られし剣、僕も今さっき分かったことだ。他の誰にも分かる筈ないだろうね」


淡々と話し終えると紋章から黒い隕石が次々と降り注いできた。


「くっ……!」


エクスカリバーで一つ一つ砕いていったが、数が多すぎて隕石の雨の中へと消えていった。


「これで終わってくれると有り難いんだけどな……」


「あぁ……恐らくまだだろうな」


愚痴のように苦笑しながら構え直した。隕石の雨の中から金色の光が溢れだし、隕石どころか紋章ですら打ち消した……いや、”掻き消された”。


「はぁ……君がさっさとやられてくれれば、エクスカリバーの本当の力を見せずに済んだのに……最悪だよ」


「本当の……力?」


聞き返すと、グレイアスはため息をつきながら剣を肩にそっと乗せた。


「そう、エクスカリバーは本来は任意で敵の剣をすり抜ける能力だと皆は勘違いしているんだ……君だってそうだろう?」


「……うん」


「だけど本当は違う……この剣の本当の能力は全ての魔法・魔力・能力を”無力化・無効化する”能力なんだよ。僕自信もこの能力を知るまで相当の時間がかかったものさ」


「……つまり、魔力で作られた武装や魔力を消費した武装なんかは聞かないってことか」


「ご名答……だからといって、対抗する術はないけどね!」


今度は背後に回りこみ、剣を振り下ろしてきた。


「くそっ……」


プロメテウスで受けようとしてもやはりすり抜けてしまう。それどころか僕自身に当たるととても大変なことになる。


(僕自身攻撃を受け付けないのは雅の魔力の加護のおかげだ、つまり全ての魔法や魔力を無効化されたんじゃ僕が消し飛びかねない。この魔王化も魔王であるルシファーの魔力を纏っているわけだし……畜生!)


斬撃をかわすのに精一杯で、攻撃に転じる隙がなかった。魔法を使おうとしても全て打ち砕かれる以上、下手な抵抗は無意味だった。


(何か……何か無いのか……!)


いくら逃げまわったとはいえ戦況は不利になっていくばかり。いずれは疲れて止むかと思った連撃も終わること無く、ずっと僕を追い続けていた。


ついに疲弊した僕が手に持っていたプロメテウスが、エクスカリバーに弾かれ中を舞う。しかしそんなことに気を回している余裕もなく、グレイアスが次に何処に斬撃を繰り出すかを見極めながら慎重に避けていった。すると、脳裏にルシファーの声が聞こえた。


(冬風、貴様何を無様に逃げまわっている。何の為に暁明星を渡したと思っている……そいつの本当の能力はお前はまだ知らない、だから今から我がお前に教える。一度しか言わないからよく聞け、そいつの本当の能力はーー)


ルシファーの声が止むと、自然と立ち止まる。グレイアスは一瞬不審に思ったが、そんな事はお構いなしに斬撃を繰り出した。


「そうか……そうだったんだ」


斬撃がすぐ目の前まで迫りつつある。


「どうした、まさかもう降参するわけでもあるまい」


「あぁ……」


暁明星を握りしめ、勢い良く横に斬り払った。プロメテウスや濡霞ならば剣本体が砕けるか、斬撃が刀身をすり抜け本体に直撃するかのどっちかしか無い。しかし暁明星は違った。


「なっ……?!」


あろうことかエクスカリバーの斬撃を”打ち消した”のだ。この事ばかりはグレイアスも動揺が隠せず、飛び退く。


「そんな……一体どうして……さっきまで逃げ回っていた奴が、どうしてエクスカリバーの斬撃を打ち消せる!」


「それがこいつの能力だからだ……」


今度は僕の番だと呟き、グレイアスの懐へと潜り込む。刹那、暁明星の鋒をグレイアスの喉元の方に突きつけた。


「僕も今さっき分かったことなんだけど……こいつの能力はエクスカリバーと似て、全ての魔法・魔力・能力を”相殺する”能力だったんだ。つまりいくらやりあった所で……勝敗なんてつきっこないーー」


「そんなの……やってみなきゃ分からない!!」


言葉を遮り猪突猛進の如く、そして烈火の如く突っ込んできた。


「……っ!」


だが冷静さを失ったグレイアスのエクスカリバーを暁明星で弾き、両方の剣は宙を舞い遠くへ突き刺さった。グレイアスは動揺のあまりたじろき、その一瞬を見逃さなかった。


「濡霞よ……我が手元へ!」


剣の名を叫んだ瞬間、僕の手に剣が転移してきた。それを握りしめグレイアスの腹部に思い切り柄で殴った。


「がっ……」


あまりの激痛に気を失いそうになるが、何とか意識を保つことは出来ていた。しかし体が一切動かずその場で倒れこんだ。


「はぁ……はぁ……」


僕も肉体的疲弊と精神的疲労が大きいため、神界に全ての剣を転移させ膝をついた。魔王化もすぐに解け体中から汗が吹き出し、頬を伝い床に落ちた。辺に視線を移すも龍彦の姿は何処にも見当たらなかった。……いや、”見えなくなった”のだ。


よく見てみると王座の後ろ辺りの景色が少しだけ歪んで見える、恐らく結界を貼ってその身を守っていたのだろう。そんな事を考え込んでいると、不意に下から声が聞こえた。


「この私が……負けたのか……」


グレイアスに視線を移すと、今にも泣きそうに声を震わせながら顔を手で覆っていた。


「これでこの国はお終いなのか……私は冬風に負けた、しかも宣戦布告する前なのに。これは私も立つ瀬がないな……」


「……」


黙り込んでいると、覆っていた手をどけて潤んだ瞳で僕の顔をじっと見てきた。


「……私はユスティアの皇女を盾に君を望み、そして戦った。君は大切な人全てを賭けた、つまり平等な取引としては私が負ければこの国全てを失うことになる。だから……この国は冬風が手に入れたということになるね。好きにしてくれても構わないけど一つだけ……この国の民の事を無下に扱わないでほしい」


あまりに真剣な眼差しだったために口を紡いでいたが、話の飛躍のし過ぎにとうとう唖然とした表情で黙っていることが出来なくなった。


「ちょ……ちょっと待って、僕は何もこの国を治めたいから戦っていたわけじゃない。最初にも言った通り僕はユスティアを守りたいから、大切な人を守りたから戦っていたんだ。だから、この国の国王は君だよ……えっと、グレイアス……さん?」


動揺しすぎて顔が赤くなっていた。その様子を見て、思わず吹き出してしまった。


「ぷっ……あっはははは、ははははは」


「な……何が可笑しいんだよ」


「ごめんごめん……君は負けた僕にも優しいんだね」


「人に優しくするのに勝ち負けなんて関係ないよ」


よいしょっと声を上げながら寝転がるグレイアスの隣に腰を下ろした。すると、いつの間にか結界から出てきていた父様がこっちに歩み寄っていた。


「……父様」


「冬風……強くなったな」


「……」


その言葉に返す言葉がなかった。なんて返していいのか分からなかったからだ。そして長い沈黙が辺を包み込んだ。一番最初に口を開いたのはグレイアスだった。


「そういえば……龍彦、君がグライエンに……私の側に来た理由をまだ聞いていなかったね」


「え……?」


「……そうだったな」


唐突なカミングアウトに、僕は唖然としていた。


「な、何で……?聞く時間ならいっぱいあったはずなのに」


「確かにその通りだね……でも聞けなかったんだ。私がユスティアの話題を出すたびに、龍彦は何処か悲しそうな顔をするから」


「……理由か、そんな物たった一つだ」


「父様……?」


龍彦の顔に視線を向けると、今までとは違う憎しみや怒りに歪んだ顔だった。しかしそんな表情も一瞬で消え去り普段の顔に戻った。


「今はまだ話すことが出来ない……何処で誰が聞き耳を立てているか分からないからな」


「……そうか」


グレイアスは少し残念そうな表情をした。父様は(すまん)と言いつつ頭を下げていた。

そんな彼を見てグレイアスは笑った。


「いいよ……今話せないんだったら後でいい、君の目的が終わったらでもいいから」


「恩に着る」


そう言った父様の表情は、何処か安心したような顔だった。


「……所でさ」


「ん?」


「私は少し君の息子……冬風と話をしたいんだが、少し席を外してくれないか?」


「……あぁ、構わん」


父様の気配や姿はその場から跡形もなく消え去った。


「僕に話って……?」


話題を投げかけると、グレイアスは上体を起こし僕と向き合った。


「そう言えば君の所で祭りがあったよね……えっと」


「もしかして真竜王激流祭の事?」


「そうそう、私もそれの応援に行っていいかな?」


その言葉に驚きを隠すことが出来なかった。


「な、何で僕が出ることを知って……?」


「この私を倒したんだ。そう思っても致し方のない事でしょ?」


「かなりギリギリの戦いだったけどね……でも、応援に来てくれるなら嬉しいよ」


微笑むと何故かグレイアスの顔が赤くなった様に思えた。


「それは良かった……あと、もう一つ。この城の人達にも、龍彦にも言ってないことなんだけどね。実は男性だと皆から思われているけど、本当は女性……なんだ」


「え……?」


更に動揺を抑えきれなくなり、グレイアスの全身をマジマジと見た。確かに男性にしては華奢というか、全身の輪郭がそれっぽくない。


「嘘……じゃ無さそうだね」


「当然だよ、こんなつまらない嘘つくわけないじゃないか」


「でも何で皇子って呼ばれて……何でその事を僕に言うの?」


確かにそうだ。こんな重要な事を誰にも打ち明けず、何故僕に打ち明けたのか疑問でならなかった。


「……僕の家系「クラウディオ」は元々王族でね、その中に誰一人として女性の国王は存在しなかった。理由はたった1つ、グライエン王国は元々独裁国家だった。民も荒くれ者しかおらずそれを収めるには強力な武力や威厳が必要だ。だが私には兄妹はおらず、結果として私は男性と偽り国王になることになった。最初は言うことを聞いてくれないものばかりでうんざりしたけど、きちんとそれなりの力を示せば素直になってくれる人ばかりだった。だから私は今のままで居ることが出来るんだ。そして何故君に話すかというと……その……とても言いにくいんだけど、多分君に惚れちゃった……んだと思う」


最後の言葉を聞いた瞬間、僕の周りの空気だけが凍りついたような錯覚に襲われた。


「え……えぇぇぇぇ?!」


「何もそこまで驚かなくても……」


「そりゃあ驚くよ、急にそんなこと言われたら」


「あはは……そうだよね」


すると、グレイアスは俯いた。落ち込んでいるようにも赤くなりモジモジしているようにも見えた。瞳を潤わせちらちらと上目遣いで僕を見ていた。


「………駄目かな?」


「駄目じゃ……ないけどさ、身分の差というか色んな……こう国際問題に発展しそうだし、僕にはまだ早いというか……。」


たはは……と苦笑すると、グレイアスは頬を赤く染めながら僕との距離を少しづつ詰めていった。そしてお互いに吐息が触れ合う距離へと近づいていた。


「そんな事……ない。学生結婚というのも前例がないわけじゃないし、それに公にしなければ国際問題も無いというか……その」


どうしてグレイアスはこうも必死に好意を伝えようとしているのか、本人にしてみれば到底知りえなかった。ついさっきまで敵対し、しかも本気で僕の事を殺そうとしていたのに……流石の僕もこのギャップにはついていく事が出来なかった。


しかし夢依を守るという誓いがある、だからこの気持ちに素直に答えることは出来なかった。


「……」


お互いが黙り込み、静寂の中時間だけが過ぎていった。静かな部屋に響くのは時計の秒針の音だけ、互いの呼吸の音すら聞こえる事はない。


2人の距離はとても近いのに、呼吸の音が聞こえない理由……それは互いの意識が干渉し傍から見ているだけでは見つめ合っているように見えても、2人にとってはとても長い時間別次元の世界に居るという事になる。

この現象を


意識融合(consciousness fusion)


といい、特定の条件を満たさなければ決して発動することのない現象。その特定の条件とは……。


①2人が相思相愛又は心の底から信用している若しくはその両方時の男女の組み合わせのみで発動することも稀に有


②実力の拮抗した者同士の方が確立が高まる。


③血縁者同士でも発動する可能性は無くもないが、確率はかなり低め(0.5%未満)


④年を取るにつれて確率はどんどん低下していく。


……といった条件だ。しかし意識融合にはリスクもある。下手をすれば融合したまま未来永劫元に戻ることはないこともある。砕いていうなれば人形みたいな感じだ。


だがそのリスクを覚悟でこの2人は今意識融合をしている。どうしてか、その理由はグレイアス本人にしか分からない事だった。


今回のケースは①は当てはまらない、なぜなら相思相愛ではなくただ単に片思いなのだからだ。完全に信用しきっているかというとそこまでもなく、必然的に当てはまるのは②という事になる。


実力的に言えばグレイアスは僕に劣ってはおらず、純粋な剣術勝負ならどっちが勝つか分からないほど僅差である。しかし契約している者の差があまりにも激しすぎたのだ。グレイアスが契約しているのは芸術や工芸や戦略を司る女神、(都市の守護女神)とも呼ばれていた”アテナ”だった。神としての実力は雅にも劣らず、ほぼ同格といっても過言ではない。


しかし今回の戦いで僕が使った契約している者の力は殆どルシファーしか使っていない。彼の実力は全知全能の神 ゼウスには劣るものの、他の神を寄せ付けない程の魔力と力を持っている。それ故に大魔王になる事が出来たと言っても過言ではないかもしれない。


~2人だけの意識世界~



「……ここは」


一面見渡す限り暗闇に光る無数の星々に囲まれ、僕にとって上下左右分からない世界にいる感覚だった。不覚にもこの世界が”美しい”と思ってしまった。


すると不意に背後から声が聞こえた。その声の主の方に振り向いてみると、そこには冬風が立っていた。


「冬風、ここは一体……?」


「分からない、だけど一つだけ言えることが……それは別次元にいるという事なんだけど、他には分からない」


「そう……」


2人はまだ意識融合の事は知らず、本人たちは別次元に飛ばされてしまったと勘違いをしているようだ。


「それにしても……綺麗、こんな星空グライエンでは絶対に見れないよ」


私は辺りを見回してからうっとりとした表情で言った。


「……この景色見覚えがある、昔僕の家の近くにある森の奥で見た星空にそっくりだよ。あの時は何とも思わなかったのに……今になってとても綺麗に感じるよ。だけどそれと同時に胸を締め付けられるような……悲しい気持ちにもなるんだ」


手に入る力が強まり、それと同時に眉を顰めていた。いくつの時の記憶だろうと思い出したくない記憶を一つづつ思い起こしながら探っていた。必死に心臓を握られるような苦しい感覚と戦いながら。


しばらくすると突然、フラッシュバックしたような感覚に襲われた。目の前が真っ白になり、少しづつ”あの時”の記憶を思い出そうとしている。


しかしその瞬間まるでフィルターでもかかっているかのようにノイズに邪魔をされて思い起こす事は出来なかった。そのもどかしさに表情を歪めると、不意に冬風の手を暖かい自分の手で覆っていた。


視線を移してみると、冬風が星空を眺めながら優しく私と重ねた手をしっかりと離さないように絡めていた。その温かさ故か、涙が頬を伝い落ちていた。本人はまだ涙が出ている事に気が付いていなかった。


「……」


そんな様子を横目で見つめながら握る手を少し強めた。この空間で冬風に触れた瞬間、記憶が脳裏に流れ込んできた。とても悲しく切ない記憶が……。


(もし私が君と同じくらいに、同じ体験をしたら……間違いなく心が折れて君みたいに頑張ることは出来なかったと思う。多分自暴自棄になっていたと思う。……だけど君はそれでも諦めずに、願いに向けて頑張ってきたんだね。本当に君は強いよ、だけどその強さの裏側に弱さや意外な脆さがある。私は……その部分を知る事が出来た。だから私は、本当の意味で君の事が好きになっちゃったよ)


心の中で語りかけながら私は冬風に寄り添った。当の本人は心を落ち着けるので精一杯で気が付いていないだろうが、私は”好き”という気持ちを寄り添うことによって伝えようとしていた。


……。


しばらくして涙を拭う、ようやく心が落ち着いてきた……。


「……ごめんね、こんなところ見せちゃって。」


「ううん、大丈夫。私的にはずっと傍に居られてむしろ嬉しいくらいだよ」


優しく微笑んだグレイアスに対し、僕は頬を赤らめながら視線を泳がせた。


「そ、そう……」


この世界に入ってからそこまで時間は立っていないはずなのに、2人の感覚からしてみれば物凄く長い時間ここに居たという錯覚を起こしそうなほどに。


「……さて、そろそろ現実へと戻らなきゃね」


頬を赤く染め上げながら微笑んだ。グレイアスは何も言わず、僕の腕にそっと抱き着きながら頷いた。そして、2人は目を閉じた。


~現実世界~


もう一度目を開くと先ほどの美しい風景はなく、いつもの見慣れたお城の風景だった。


「よかった……ちゃんと戻ってこれたようね」


周りを見渡し安堵のため息をつこうと思った瞬間、突如謎の違和感に気が付いた。通常ではありえない事なのだが……明らかに


”城の温度が急激に下がっている。"


吐息を漏らせば白くなり、手は悴んで少し赤くなっている。そして冬風の姿が一向に見えない。


「どうなってるの……これ」


とりあえず立ち上がろうとした瞬間、足元が滑りお尻を床に打ち付けた。


「いっ……!」


床に手を触れるとその冷たさに驚きを隠すことは出来なかった。ここの床は……というよりも、この城全ての床は大理石で出来ている。その為多少ひんやりすることはあっても、このようにまるで氷の刃のような刺すような冷たさはありえない事だった。


視線を床に向けてみると、大理石の上に分厚い何かが敷かれているのが分かった。そしてその敷かれているものが何なのか触れただけで瞬時に理解できた。


「これは……氷?どうしてこんなところに……そもそもこれほどの量の氷、一体どこから」


その疑問は意外と早く解く事が出来た。背後の方で急激に魔力が膨れ上がったからだ。視線をそっちの方に向けると、冬風がいた。


「冬風……!」


手を差し伸ばし触れようとした瞬間……。


「触るな!!」


突如大きな声で怒鳴ってきた。しかしその表情は何処か複雑で、苦しんでいるようにも見えた。


「ど、どうして…………っ!」


下腹部の方に視線を向けるとその理由が分かった。氷が冬風をどんどん侵食して行っている……いや”飲み込んで行っている”の方が正しい。これに触れたら私も巻き添えは免れない。


「逃げて……早く」


「え……」


「この氷は……ちょっとやそっとの熱では……。それどころかいくら魔力を放射しても反応が…………という事は確実に……、やるだけ無駄だってことだよ。幸いなことにまだ……部分に魔力を……すれば侵食は……、それも……問題だ。だから……」


肝心な部分が魔力の大量放出による風で掻き消え、聞き取る事は出来なかった。この場で言葉を発したところで全て風に消され届かない。


私は頷きながらその場を後にした。


……。


安堵のため息を漏らした後、ルシファーを呼び出した。すると彼もまた氷に侵食されていっている。


「まさか……お前もとはな」


「はははっ……この氷、一体どこから?」


「おそらく地獄から出てきたのだろう……まだ私を縛り続けるつもりか」


察した。ルシファーが地獄で、氷に捕らわれる……これは


「そうか……地獄第9層、コキュートスか」


一面氷しかない世界に見えるが、その下には億をも超える亡者たちが氷漬けにされ沈んでいる。地獄第9層とは、その名の通り地下9階にある。階層別に異なり色々あるのだが……その中でも最も罪深い者が落ちると言われている地獄だ。抜け出すことはおろか徐々に氷に体温を奪われ、どんどんと衰弱していきやがては氷の奥底へと姿を消す。だがルシファーはこれをどうしたか分からないけど、半ば強引に抜け出し魔界を統べる王となった。


「どうにか……ならないよな、こんなの」


「あぁ……」


魔力開放を止め、そのまま力なく空を見上げた。そこには星空などではなく、城の天井しか映ってなかった。


「畜生……もう駄目なのか。……最後に、皆と綺麗な星空……見たかったな」


軽く微笑みながら涙を流し、僕は氷の奥底へと消えていった。ルシファーと共に。



気になり戻ってきた私が見た物は、誰も居ない一面氷がびっしりと敷き詰められた王座の間だった。


「嘘……冬風っ!!」


彼の名を叫びながら氷の上を走り探してみたが、何処にも姿形は残っていなかった。魔力反応も無し、何処に消えたのかは……察する事が出来た。


「まさか……」


思い切って下を見てみると、そこには氷に反射する自分の姿しか映ってはいなかった。初めて見る現象に、私は茫然と立ち尽くすことしかできずにいた。龍彦は扉の陰で、複雑な表情を浮かべながらその場を後にした。

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