第7.5話『クリエイターっぽい経験』
「やっぱり水無月さんはすごいなあ」
家に帰った私は、早々にベッドに倒れ込んでうとうとしていた。
自信のネームを描き上げた興奮で朝一番は元気満々だったが、授業が始まってすぐに体力が枯渇してしまった。作品内容へのアドバイスのみならず、「ちゃんと休め」という体調管理アドバイスまで的確にしてくれるとは。これはもしや、信じられないほど得難い出会いを果たせたのかもしれない。
しかしそれを踏まえてなお、今日の出来事で一番印象深かったのは――
「水無月さんのスマホの音、すっごく大きかったなぁ……」
睡魔が一瞬で吹っ飛ぶほどの爆音が耳元で鳴らされた衝撃は忘れがたい。
いつもクールでかっこよくていい匂いのする水無月さんが、まさかあそこまでスマホを爆音設定にしていたとは。
最初はびっくりしたが、思い返すとなんだかジワジワくる。
とっても素敵で綺麗な憧れのクラスメイトが、スマホだけはびっくりするほどの爆音。
もしかしてこれは、ギャグ設定として面白いのではないだろうか。
残念ながら『餓鬼は糖なく生きられない』の世界観でスマホは出せない。
もしいつか現代が舞台のギャグ漫画を描くとき、すべてが完璧なのにスマホだけ異様に音量のでかい美少女を主人公にしたら面白いのではないだろうか。
日常の些細な出来事から新作のアイデアを捻りだす。私は今、とてもクリエイターっぽい体験をしている気がする。
なので、頼れる創作のアドバイザーにさっそくメッセージを送ってみた。
『とっても綺麗で何でもできるすごい人なのに、スマホの音量だけ爆音な子が主役のギャグ漫画ってどう思う?』
返事は一分で戻ってきた。
『イジりのつもりで言ってるなら何一つとして面白くない』
ううむ、やはりギャグというのは難しい。水無月さんがそこまで辛辣な感想を言うなら、やはりこれはお蔵入りとすべきだろう。
というわけで指示通りにゆっくり休むべく、私はベッドに伏せて目を閉じた。




