第42話『高まる火力』
「更新間隔が空いても忘れられないよう、これからはこまめに落書きイラストとか投稿しようと思うんだ」
朝の教室。
瞳子が席に着くなり、ごく自然な動きで日果が机の対面に陣取ってきた。
「へえ、いいじゃん。どんなイラスト上げるの?」
そして瞳子も日果の近すぎる距離感には既に慣れつつあるので、荷物を机に移しながら自然に返す。
「まさにそこを水無月さんに相談したくて。どんなイラストだと読者さんたちが喜んでくれるかな?」
「私はどんなイラストでも新規供給があれば嬉しい派だけど……そうね。基本的に『糖なく』は悲しい作品だから、合間のイラストは敢えて明るくしてみるのはどう? 本編では見られない二人の姿を見られたら読者としては嬉しいかも」
ちなみに『糖なく』とは『餓鬼は糖なく生きられない』の略称である。先日のエゴサパーティーの際、感想の中にこの略称が散見されたので、瞳子と日果の間でもなんとなくそのまま用いられるようになったのだ。
「本編では見られない明るめのシチュエーションかぁ。ユキホとクーナが原付の二人乗りで違反切符切られてるシーンとかどう?」
「それ、明るい?」
「違反車がパトカーに止められてるのって、傍から見ると面白くない?」
「それはちょっと分からなくもないけど……」
言いたいことは分かるが、あまり公言する類のものではないと思う。どちらかといえば微妙に悪趣味な面白さなわけだし。
「まあ、でも……そういうシーンも意外に悪くないかも。作中だとずっと二人乗りしてるけど、それに対するメタな突っ込みになるというか。ちょっとお間抜けな絵面で笑えそう」
「おおっ。笑えるっていうことは、もしかして合間イラストだとギャグOK? 原案通りの復讐ノリノリポンコツユキホとか出していい?」
「シチュエーションを弄るのはいいけど、キャラの根幹を弄るのはダメ。本編読むときノイズになるから」
「弄るならシチュエーション……じゃあ、ユキホとクーナが一緒に学校に通ってるようなシーンを描くのは?」
「なるほど。つまり学園パロディね?」
瞳子は人差し指を立てた。素直にいい案だと思う。
ユキホとクーナが仲良く学生生活を送っているIF世界線の絵面は、悲しげな雰囲気の本編の合間で微笑ましい息抜きになることだろう。
「そうそう、まさに学園パロディ。クーナは運動神経抜群な食いしん坊女子で、ユキホは料理上手で優しい女子」
「うん分かる。ユキホはクーナにお菓子とかお弁当を作ってきてあげるのよね……」
「でも、ある日ユキホは気付いちゃうんだ。『クーナ』なんて子はどこにもいなくて、自分の妄想が生み出した幻の友人に過ぎなかったって……」
「なんでいきなりホラー展開に持っていくの?」
瞳子は声を低くする。平和な学パロが急に不穏な空気を帯びた。
「だって、クーナの出自は『遺伝子操作によって誕生した生物兵器』なわけだから。平和な世界線にクーナが存在するわけないんだよね。というわけで、存在ごとすべてユキホの妄想ってことにして整合性を保とうかと」
「学パロに整合性とか要らないから。あと、平穏な世界線なのにユキホの闇が謎に深すぎ」
「闇深ギャグもいいかなって。ほら、二人分のお弁当を一人でニコニコと食べてるユキホの絵とかシュールで面白そうじゃない?」
「それ、クーナに先立たれておかしくなったバッドエンド後のユキホの姿でしょ」
「おおっ。言われてみれば確かにそれっぽい」
いちおう『糖なく』はハッピーエンドを目指すという方針で決まっているのだが、日果のこの調子を見ていると毎度不安になってくる。
溜息をついていると、朝のHR前の予鈴が鳴った。瞳子の机にへばりついていた日果が小さく手を振る。
「じゃあ水無月さん、後でまた合間イラストの相談しようね」
「いいけど、本編の方のアイデアは進んでるの?」
「パズルのピースは揃ってて、今はそれを組み立ててる最中って感じ」
フワッとした進捗報告である。果たして順調なのか難航しているのか。
「あ、それとね水無月さん。これは別に急ぎでもなんでもないからゆっくり考えておいて欲しいんだけど」
「ん?」
「卒業したらルームシェアして一緒に住まない?」
そこから丸一日ほど、瞳子の記憶は真っ白に途絶えている。
本日より第二部開幕です!
今後とも引き続き応援よろしくお願いしますー!




