第30話『急がば回れ』
もともと、クラスの中でも普通の『段ボールで間仕切りを作った迷路的なお化け屋敷』にすることへの懸念意見は出ていたらしい。
なんせ『残酷な表現は禁止』に加え『仮装して驚かせるのも禁止』という厳しい条件だ。素人でもお手軽に恐怖を演出できる手法がほぼ使えない。仕掛けや雰囲気の醸成に趣向を凝らせる本物のお化け屋敷ならともかく、即席仕上げの文化祭の出し物程度でそこまで縛りを課されては、正直かなり苦しいのは事実。そんな状況のもと――
「はーい! それでは『脱出ゲーム風のお化け屋敷』という方針でみんな頑張っていきましょう!」
お化け屋敷のコンセプトを正式に決定する二回目のクラス会議。
先日の朝、苦し紛れで瞳子が提案した案は起死回生の打開策として瞬く間に伝播し、クラスの中で『これしかないよね』という合意形成を築くに至っていた。結果、ほぼ満場一致の採択だ。
「では、各班ごとに1つずつ脱出の課題ゲームを考える感じでよろしくお願いします! 予算が必要であれば都度私まで相談してください!」
実行委員の藤田羽菜が意気揚々と告げる。
脱出ゲーム内の具体的な謎解きはクラスの各班に割り振る形だ。それがいい感じに『クラスのみんなで一緒にやろう』的な意識を盛り上げている。
「クロスワードパズルはどうかな?」
「開かずの間にクロスワードパズルが置いてあるの変じゃない?」
「それじゃ……。あっ、そうだ! 壁の手形が暗号になってるとかどう?」
「いいじゃん! どんな暗号にしよっか?」
班に分かれたクラスメイトたちは、楽しそうにアイデア出しの意見を交わし合う。そして瞳子はといえば、
「じゃあ水無月さんは発案者として各班の調整役をよろしくね」
「はい……」
言い出しっぺとして、制作の中心メンバーに据えられることになった。
各班とこまめに情報共有をして謎解きのネタ被りを防止したり、雰囲気に統一感を持たせるよう監修したり、いわばプロデューサー的な立ち位置である。
正直、かなり気が重かった。
瞳子にそこまでクリエイティブな才能はない。脱出ゲームというアイデアを出せたのは、ほとんど日果のおかげである。打ち合わせの際にあの子が『ミステリ的構成』という発案をしたから、頭にそれが残っていたのだ。
「……ごめん日果。あなたのアイデアを微妙にパクったような形になっちゃって」
「ううん。私じゃ出なかったアイデアだと思う」
調整役として各班を回る中で、瞳子は日果にそっと謝罪する。が、当の日果は飄々とした様子だ。
「ところで水無月さん。さっき調整役っていうの任されてたけど、大丈夫? 忙しくなったりしない?」
「あー……別に仕事量は大したことじゃないけど、私に務まるかどうか正直不安かも」
「もしデザイン監修とか必要なら私も手伝うよ」
瞳子は少しだけ面食らった。
文化祭準備を面倒くさがっていたのに自ら助力を申し出てくれるとは。
いや、感心するのは早い。ポスター制作のような仕事にはもとから興味津々だったから、今回もデザイン監修という仕事をやってみたいだけか――
「それからね。もし調整役の仕事が大変だったら、準備作業の当番とかも私が代わるよ。遠慮しないでいつでも言ってね」
え、と瞳子は声を漏らしかけた。
デザイン監修はともかく、単純な準備作業の当番までヘルプを申し出てくれるなんて。急にここまで態度が変わると少し不気味ですらある。どういう風の吹き回しか。
「ありがとう日果。でもそこまでは大丈夫。あなただって原稿があるでしょ?」
「それなんだけど。ここから期末試験も文化祭の準備もあるし、しばらく原稿は後回しにしようかなと」
「え……だけど、更新の間が空くことにならない?」
「ううん。これが一番いい選択だと思うんだ」
日果はゆっくりと首を振った。
「水無月さん、文化祭の準備はとっても楽しいって言ってたでしょ?」
「う、うん……」
「なんだかね。それを聞いてから――何かいいアイデアの気配がずっとフワフワ身近に漂ってる気がするの。だから私、全力で文化祭の準備をやってみようと思う。それがきっと、最高の次回を描くための最短ルートだから」
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