第28話『ミステリ、コメディ、ホラー』
「やっぱりシャボン玉っていうのが単純すぎるかな。もっと話に広がりのある遊びの方がいいかも? たとえば、かくれんぼで本気になりすぎたクーナが全然見つからなくてユキホが焦っちゃうとか」
「クーナってお腹すいたら100%戻ってくる子でしょ。ユキホもそれを分かってるから焦ったりしないと思う」
「なるほど。言われてみれば確かに」
煩悩を発散して冷却した頭で、瞳子は日果とともにネームの修正案を考えていた。
必要なのは『日常パートでも話の起伏を作るためのイベント案』なのだが――これが意外に難しい。
「そっかー。もしかくれんぼ案が使えそうなら、『消えたクーナの行方をユキホが追う日常ミステリ』的な構成にしようと思ったんだけど」
「おっ。そういう構成はいい感じにメリハリが付くんじゃない?」
確かに謎解き的な要素を混ぜ込めば、いいストーリーのアクセントになるだろう。青春ミステリというジャンルもあるくらい、意外と日常とミステリの親和性は高い。
ただし懸念としては――
「でもあなた、ミステリとか描けるの?」
「えへへ、実は一度も描いたことないんだ」
「……背伸びはやめておいた方がよくない?」
「そうだね。具体的なトリックとか伏線とかちっとも思い付ける気がしないし。んー……他にどんな遊びの案があるかな」
日果はくるくると椅子を回してみせる。落ち着きがない。
「そうだっ。旧文明の遺物『遊園地』に迷い込んだ二人が、意味不明な大型機械の数々に的外れな考察をする回とかどうだろ。フリーフォールを見たユキホが『きっとこれは拷問の器具に違いない。これだけ大人数を一度に拷問できる機械を作るなんて、どんな恐怖政権がかつてこの地に……!』なんて慄くとか」
「……なんか、あなたの口から初めてまともにちゃんとコメディらしい設定が聞けた気がするわ」
「えっ本当? 今のミステリ的な案だったんだけど。私がミステリ描けない分、ユキホにも推理を失敗してもらえばバランス取れるかと思って」
やっぱりこの子は根っからの天然だ。今の案こそ明らかにコメディだろうに。
「でもダメ。そのネタは使えない」
「やっぱりコメディだと雰囲気が壊れちゃう?」
「いえ。日常回と考えたらギリギリ許容範囲だと思う。けど、話の起伏を優先しすぎてメインテーマの『二人の心の接近』を忘れてる。そのノリのギャグで二人が心を許し合えるとは思えない」
「あ、そっか。『二人が遊ぶ回』って考えて遊園地にしたけど、ユキホが考察してばっかりじゃ遊ぶことにならないか……。なら、クーナも一緒に推理ごっこに興じてなんだか和気藹々と楽しむ感じになるのはどうだろ?」
瞳子は首を振った。実は遊園地ネタを使えない最大の理由が過去の回にあるのだ。
「第三話、バイクで二人が走ってる冒頭シーンの背景を見て」
「あっ」
指摘されて日果は思い出したようだ。
そう――既に過去回の背景描写の中で、『廃墟と化した遊園地』を描いているのだった。錆びた観覧車が遠目にも目立つその施設を二人は普通に素通りしている。このシーンだけで、二人が遊園地について無知ではないと示してしまっている。
「ごめん。私、背景にフリーのCGモデル多用してるから。水無月さんに言われるまで忘れてた」
「案外、こういう背景って読者の方が覚えてるのよね」
「失敗したなぁ。ここで使ってなければ遊園地ネタができたのに……そうだ。ちょっと話は変わるけど、背景といえば少し見て欲しい絵が」
日果がリモート画面に一枚の画像を表示させた。
それは来週のクラス会議に提出する予定の、お化け屋敷のデザイン案だ。
やはりコンセプトは『開かずの間』のようだった。教室の窓や扉がベニヤ板で隙間なく塞がれ、壁面には赤い手形がベタベタと押された、ある意味でベタなホラー内装である。
「いいんじゃない? まあ……実際にはルート誘導の間仕切りとかで教室の内装とかほとんど隠れちゃうかもだけど」
「ううん……せっかくの背景が大部分隠れちゃうのは残念だなぁ」
「文化祭のお化け屋敷ってそういうものだから」
本格的な商業のお化け屋敷と違って、教室という限られたスペースでやる以上、教室の全景を一度に眺められる構図などは作れない。入室した瞬間に仕掛けがすべて丸見えで終わるからだ。
間仕切りに段ボールを立てて迷路のように教室の中を進ませ、その道中に仕掛けを配置――というのがまあ定番だろう。
「分かってるんだけどね。せっかく三葉先生も見に来てくれるんだから、私の描いた背景を見て欲しかったなって」
「え」
瞳子は頬を引き攣らせた。ちょっと待て。あの人、高校に招き入れていい人物じゃないだろ。
「日果が招待したの……?」
「ううん。先生の方から『【クレンザー祭】ちゃんの学校は夏休み明けに文化祭だよね? もう準備とか始まってる頃かな? 親戚のお姉ちゃんっていうフリして取材に行ってもいい?』って相談されたから、『いいですよ』って」
不審者を校内に呼び込むな。何かあったら呼び込んだ奴の責任になるんだぞ。
ていうかなんだ「お姉ちゃん」って。ちょっと自称設定がおこがましすぎる。
「というか、そもそもなんであの人が私たちの学校知ってるの? 文化祭の時期まで」
「調べたんだって」
「……調べた?」
「ほら、前に会ったとき三人で写真を撮ったよね。あのとき私が着てた制服から学校を特定したんだって。そこから現役生徒のSNSアカウントを探して文化祭の時期を探り当ててて――プロの取材力ってすごいよね」
瞳子は「そうなんだすごいね」と頷きつつ、米原さんに密告メールを送信した。
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