第24話『適材適所』
「へえ、瞳子って漫画とか詳しいんだ? なんか意外。洋楽とかバンドとか趣味にしてそうなイメージだったわ」
「何その無根拠なイメージ。まあ……別に詳しいってほどじゃないけど。一読者としての感想を伝えてるだけ」
うっかり浮かべてしまったドヤ顔を瞬時に引き締め、瞳子は弁当のチキンナゲットを頬張る。日果と仲良くなったこと自体はバレても構わないが、瞳子が百合作品のガチ勢だということは大っぴらにしたくない。瞳子の本性を詮索されかねないからだ。
――とはいえ、そのリスクは現状そこまで大きくないと見ている。
なぜなら日果の描いた『餓鬼は糖なく生きられない』は、恋愛要素を前面に押し出した百合作品ではないからだ。少女二人のSF冒険ものという読み方だってできる。この作品にアドバイスをしていることが知れたからといって、即刻「女の子同士の恋愛物語が好き」ということにはならない。
もし察せる奴がいたとしたら、そいつも瞳子と同じ穴の貉だ。仲良く無言で頷き合って平和裏に終わる。
実際、目の前の葵もまったく変な疑いなど抱いていないようだし。
と、そこで葵が日果に向かって拝むように手を合わせた。
「ね、大淀さん。もしよかったら文化祭のとき、うちのクラスの出し物のポスターをお願いできない?」
「ん?」
「なんかさ、実行委員の藤田ちゃんが愚痴ってたんだけどうちのクラスって絵心ありそうな人間があんまりいないっぽくて。でもまさか大淀さんがこんなに上手いとか知らなかった。頼めないかな?」
「もちろんっ。お安い御用」
日果は制服の袖を捲って、細腕に力こぶを作るようなポーズをしてみせた。全然サマになっていなかった。
「いや~ありがと! そんじゃ藤田ちゃんに伝えとくね! 出し物の企画が正式に決まったら改めてお願いするから!」
手を振って葵は購買の方へと去って行った。
瞳子は少し安堵じみた感情を覚えた。なんだかんだで、日果がクラスで孤立しているところを見るのは忍びなかった。自分も少し前までこの子を遠ざけていた一員だと思うと胸がチクリと痛む程度には。
それに、こういう貢献がきっかけでクラスに馴染んでくれたら、今のこのひっつき虫みたいな状態も落ち着くかもしれない。瞳子の情緒がこれ以上乱されずに済むかもしれない。それを別に残念などと思ったりはしない、決して。
「水無月さん。文化祭っていつだっけ?」
ぐいっと間近に尋ねられて、瞳子はたまらず背筋を伸ばす。
「え、えっと。夏休み明けた直後くらいだったはず」
瞳子は去年の記憶を呼び起こす。夏休みの間に当番制で学校に出向いて、内装やらの準備を進めて、二学期になってすぐ開催されたと思う。
ちなみに一年時のクラスの出し物は『強冷房喫茶』だった。通常の教室エアコンに加え、保冷剤付き扇風機やタライに張った氷水などを教室中に設置して、究極の涼しさを追い求めた馬鹿コンセプトの模擬店である。休憩場所としてかなりの人気を博したが、氷のコストが嵩んで収支はトントンだった。
「そっか。うちのクラスって何やるの?」
「まだ五月だし、決めるのはこれから。来月頭にもクラス会議とかやるんじゃない?」
「ふむふむ。もし映画制作とかだったらどうしよ、私が脚本と絵コンテとか描いちゃおうか。全校を爆笑の渦に巻き込む抱腹絶倒のコメディ映画を」
「せっかく担当さんが付いてくれてプロ目指してるんだから、脇目振ってる場合じゃないでしょ。連載作品に集中しなさい」
日果が変なやる気を出し始めたので瞳子はさりげなくストップをかける。もしサイコ属性がクラスにバレたらこの子が周囲に馴染むチャンスを失ってしまう。
「ま、今回はポスターに絞って全力投球してみたら? あなたなら、クラスのみんなを驚かせるくらいすごいの描けると思うから」
―――――――――――――……
翌月。文化祭の出し物を決めるクラス会議にて――
「えー。それでは投票の結果、わが2年3組の出し物は『お化け屋敷』となりました!」
瞳子は頭を抱えた。
一番サイコが発揮されそうな出し物になってしまった。
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