第23話『水無月さんは相変わらず』
昨日の更新で一旦完結としていたのですが、やっぱり更新再開することとしました!
引き続き楽しんでいただければ嬉しいです
「そういえば今更だけど、何でペンネームが【クレンザー祭】なわけ?」
昼休みの中庭。瞳子と日果は中庭のベンチで弁当を開きながら、とりとめのない話を交わしていた。連れ立ったわけではない。日頃から一人で昼食を食べる派の瞳子が中庭に移動していたら、ひっつき虫のように日果が追いかけてきたのだ。
こちらも追い払うほど冷酷ではないので、そのままなし崩しに二人で昼食という形になった。
「えっとね。アカウントを作る前の日のことなんだけど――うちの台所のクレンザーが切れちゃって。補充しようと思って買い物に行ったら、家族みんな同じこと考えてて家に三本もクレンザーが揃っちゃったの。その流れでなんとなくアカウント名を【クレンザー祭】にした感じ」
「なんかすごい適当なネーミングね……」
「変えた方がいい?」
「いや別にそこまでは。フィーリングでペンネーム決めた作家さんなんていくらでもいるし」
そう言いながら卵焼きを口に運んでいると、日果が「あっ」と頭を揺らした。
「どうしたの?」
「シャボン玉とかいいな」
「……は?」
「ほら今朝、水無月さんがアイデア出してくれたよね。『小さな積み重ね』の一つとして、『ユキホとクーナが遊ぶのはどう?』って」
確かに今朝、そんな話をした。
とはいえそんなのはアイデアと呼ぶのも烏滸がましい。仲が深まる過程として、二人で一緒に遊ぶというパートが挟まるのはごく自然な展開だ。
「どんな遊びにするか、意外と悩みどころだったんだよね。身体を使う遊びはクーナが強すぎて危ないし、エネルギー消費も大きくて気軽にできない。かといってカードゲームみたいな駆け引きのある遊びをクーナが楽しめるとも思えない。うん、二人一緒に遊ぶならシャボン玉みたいなのがちょうどいいかも。どうかな水無月さん?」
「いいと思うけど……ずいぶん急に話が飛んでびっくりしちゃった」
「ほら、台所のクレンザーの話をしてたらなんだか泡がブクブクしてるイメージが湧いて。そこで『あっ、シャボン玉だ!』って思い付いて」
どんな些細なきっかけからでも創作の糸口を見つけ出すあたり、クリエイターとしては大したものだと思う。ただ、過程をすっ飛ばして結論だけを口に出すのでコミュ障感は否めない。
「でも石鹸も貴重品な世界だからなあ……。そうだ、手洗いを面倒臭がるクーナに『手洗いは楽しいものなんだ』って教えるためにシャボン玉で遊ぶ展開にしよ。そこでユキホも迂闊にちょっと楽しいと思っちゃう的な」
「おお……」
一度きっかけを掴んだら話がスラスラ出てくる。思わず感心してしまうが油断は禁物。あまり手放しに信頼していたらサイコ価値観によるギャグになっていないギャグがぶち込まれる。
「メモしとかなきゃメモ」
そう言って日果は弁当箱を入れていた手提げバッグからノートを取り出した。
最近になって気づいたのだが、この子は授業中によく落書きに勤しんでいる。たぶんそれ専用のノートだ。
パラパラと捲られていくページには、やたらと丁寧に筆の入れられたシャーペン画がいくつも描かれている。
「あっ、今ユキホの絵があったでしょ。ちょっと見せて」
「これ? 原案のキャラデザ段階だから髪型が少し違うよ」
「いいのいいの。レアだから見せて、スマホで撮ってもいい?」
授業中の落書きは感心できないが、しかし未公開の落書きというのはワクワクする。箸を動かすのも忘れてつい盛り上がっていると――
「え、上手っ」
ベンチの背後から声がした。
振り向けば、クラスの女子が呆気に取られたような顔でこちらを見下ろしていた。
瞳子と同じ中学出身の、住之江葵という生徒だ。親友というほどではないが、それなりに仲のいい子である。
こちらと目が合うと、葵は慌てて掌を広げた。
「ごめん、覗いてたわけじゃなくて。たまたま後ろ通ったらなんかすごい絵が上手かったからびっくりして」
「これはシャーペンのラフ絵だから本気のはもっと綺麗だよ。これ見てこれ見て」
距離感ゼロの日果はスマホをいじり、『餓鬼は糖なく生きられない』の完成稿データを表示した。今朝、堂々と瞳子の席で漫画の話を語っていた時点からそうだったが、もはや隠す気はゼロらしい。
日果の描いた漫画の見開きページを見せられた葵は、目を丸くしてこう言った。
「ヤバ。プロじゃん、すっご」
「いやいや。まだ持ち込みに行ったばかりでプロなんかとても……」
「持ち込みって出版社に? うわ、すっご! 漫画家なるの!?」
「なりたいなとは思ってるけど」
「なれるなれる! だってすごい上手いじゃんヤバい!」
褒められまくって、日果が次第にドヤっとした顔になってくる。
瞳子は微妙に面白くなかった。そりゃあ日果がすごい奴だとみんなに認められるのは嬉しいが、なんだか自分のポジションが薄まってしまうような――
「実はね、水無月さんは私の漫画制作を一緒に手伝ってくれてるんだ! 持ち込みまで一緒に行ってくれて、本当に頼りになる唯一無二の大親友なの!」
瞳子もドヤ顔になった。
読んでくださってありあとうございます!
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