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第21.5話『その後のカフェ』

「三葉先生」

「あれ米原さん? どうしました?」


 残念ながら現役JK二人組を取り逃がしてしまった三葉わんは、引き続きカフェでネーム作業に勤しんでいた。

 そこにいきなり現れたのは、担当編集の米原女史だ。


「今日いらした持ち込みさんが、ここであなたを目撃したというので」

「おっ。あの子たち米原さんの受け持ちだったんですね。結果はどうでした?」

「言わなくとも分かるでしょう」


 三葉わんはひょいと肩を竦める。

 聞くだけ愚問だった。あの歳であれだけの漫画を描ける子をむざむざ逃すはずはない。


「【クレンザー祭】ちゃんが少しだけ変わった子だったけど、米原さんは別にそういうの気にしないタイプですよね? なんせ私の担当なんですから」

「いいえ。気にしてますし、今すぐ止めて欲しいと思ってますその趣味。以前、その格好で夜道を歩いて補導されかけたことがありますよね?」

「そうなんですよ~。未成年と勘違いされちゃってえ~。免許証見せたら警察官の方がびっくりしてました~。今思い出しても申し訳ないです~」

「申し訳ないって面じゃないですね。自惚れた面にしか見えません」


 向かいの席に渋面の米原女史が座った。

 三葉わんはシャーペンを置いてニコニコ顔のまま頬杖をつく。


「自惚れてたらもっとスカート丈を短くしてますよ。ちゃんと歳を自覚してるからロングにしてるんです。膝って年齢が出ますから。若い子の膝と比べるともう明らかに黒ずんでて」

「率直に申し上げます。三葉先生が何を着ようと構いませんが、未成年への声かけなどは本当にやめてください。何かの事案になってアニメ化に影響が出たらどうするんですか」

「誤解しないでください米原さん。今日のは私から声をかけたわけじゃないですよ。先に声をかけてきたのは【クレンザー祭】ちゃんです。私は初手で34歳と素性も明かしました。決して強要したり騙したわけではありません」


 何一つ嘘は言っていないが、それでも米原女史は厳しい視線でこちらを見据える。


「もう一人の子は?」

「露骨に私を不審がってました」


 やっぱり誤魔化せなかった。言及対象を【クレンザー祭】ちゃんの方だけに絞るペテンを働いてみたのだが、もう長い付き合いだ。こちらの手管などお見通しというわけか。


「ほらやっぱり! その時点で身を引けと言ってるんです!」

「だけど米原さん、あの長髪の子もなかなか見事な変態でしたよ。いやあ、まさか私の『潰れたホースの美しさ』をあそこまで理解してくれるとは……」


 イライラ顔だった米原女史が少し驚いた顔になる。


「あの先生のエゴ100%で描かれたシーンに共感してたんですか?」

「いやあ嬉しかったですよ。ちゃんと伝わる人には伝わってたんだなあって」

「……そうですか。そこまで作者の意図に寄り添える方なら、共同制作を続けても大丈夫そうですね。正直、少し悩んだのですが」


 三葉わんはぴくりと眉を動かした。


「どういうこと米原さん。うら若き女子高生の友情を引き裂こうとしてたの?」

「読者の声に迎合しすぎて、個性の角をなくしてしまう作家さんも数多く見てきましたから。それに漫画家として独り立ちする将来を考えれば、善意の友人に頼る姿勢は健全でないでしょう」

「私、不健全な友人関係は大好物なんですけど?」


 頬を膨らませて可憐に抗議してみたが、米原女史はこれを無視した。


「とはいえ、現状【クレンザー祭】さんの言動にはいろいろと危うさが感じられました。スケジュール調整もいささか強引でしたし、セーラー服姿の不審者にもまったく警戒を示さなかったそうですし」

「そうですね。正直あの子なら『仕事現場見に来る?』とか言えば簡単に家に連れ込めたと思います」


 ぎろりと米原女史に睨まれ、三葉わんは降参するように手を挙げる。さすがにそこまでモラルは失っていない。


「漫画家というのはクリエイターである前に社会人です。社会常識やコミュニケーション能力を欠いては苦労するでしょう。だからこそ――」

「ちゃんと常識がありそうな子との友人関係を優先してあげた、と?」

「学生時代の人間関係というのは、他で得られない学びがありますから」


 三葉わんは堅物な担当編集者を見て溜息をついた。


「そこはシンプルに『尊い』でよくないですか?」

「現実の人間関係にそうした言葉を使うのはあまり好きではないので――ところで」

「ん?」

「今日は打ち合わせも何もないはずですが、なぜわざわざ社屋前のカフェまで来て作業を? ご自宅はもっと遠くでしょう。何か社に用事でも?」


 なるほどいい目の付け所だ。三葉わんはニヤリと笑う。


「最近気づいたんです。同業の漫画家さんとか出版社の人とか、知り合いに目撃されるリスクのあるところで制服作業する方がヒリヒリ感あって捗るって。先週、斜め向かいの席で元アシの子が打ち合わせしてたのには痺れましたね。どうにか気付かれずに――」


 米原女史は音もなく立ち去って行った。

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― 新着の感想 ―
やべぇよこの人 すでに新たな性癖を開拓してる...
夜道に出没する女装おじさんと同じにおいがするぞこの先生
やべぇなこの女。なんせ私の担当なんですからとか、自覚のある変人の方が厄介なんだよな……。日果は言われれば改めようとするくらいはするけどこの先生完全にこのモンスターロードを歩む覚悟が決まってやがる……。
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