↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
12/31

第11話『隠せなかった動揺』

『先ほどは大変に不躾かつ非常識なメッセージを送ってしまい申し訳ありません。憧れの先生にフォローしていただけたことに舞い上がって、つい我を忘れてしまいました。軽率を心より恥じ、反省しております。先のメッセージについてはなかったものとして、スルーしていただければ幸いです。今後も一読者として、先生の漫画を楽しみにしております』


 電話口で水無月さんが述べる謝罪文を、私はカタカタとキーボードに打ち込んでいく。

 SNSを通じて知らない大人と会うのは危ないと知っていたが、三葉わん先生は立派に活躍しているきちんとした漫画家さんだし、対面希望してみても全然問題ないと思っていた。どうやらそうではないらしい。反省せねば。


「打ち終わったよ。送信していい?」

「一言一句そのまま、私の言ったとおりのメッセージになってる? アドリブで変な文章とか追加してない?」

「うん大丈夫。あ、でも文章だけだと誠意が伝わるか不安だから、土下座的なスタンプとか画像を添付してみようか?」

「いらない絶対にやめて余計も余計。謝罪文だけで送ること。いい?」

「分かった。送信」


 エンターキーを押して送信。

 電話の向こうで水無月さんが深く溜息をつく。


「今後、二度とメッセージは送らないように」

「でも、もし三葉先生が『いいですよ会いましょう!』なんて言ってきたら?」

「そんな展開あり得ないっての。っていうかあなた、リプ欄にぶらさがってる怪しげなアカウントとかにいちいちメッセージとか送ってないでしょうね?」

「いやいやそんな。怪しい業者的なものはちゃんと全部無視してるよ。DM送ったのなんて三葉先生が初めて」

「最初のDMがあれっていうのもそれはそれでとんでもない話だからね。自覚しなさいよ」


 水無月さんはそれからしばらく私に懇々とSNSのマナーを教えてくれた。

 登録時の利用規約には書いていなかったが、いろんな不文律があるようだ。ネット文化とは実に奥深いと感心していたら、


「あ、返事来たよ」

「んっ!!」


 新着DMの通知が来たので知らせたら、水無月さんが噎せた。


「なんて書いてる!? 読み上げて!」

「『全然気にしていませんので、そこまで謝らなくて大丈夫です。コンプライアンス上、読者の方と直接会うということはできないのですが、いつか漫画家としてどこかで会えたら素敵ですね。こちらも一読者として『餓鬼は糖なく生きられない』を今後も楽しみにしています』――だって」

「大人……いい人……お布施になんか今度グッズ買お……」


 その言葉を私はカタカタとキーボードに打ち込む。『三葉先生は大人ないい人ですね。お礼に今度何かグッズを――』


「ちょっと待ったストップあんた今キーボード打ってるでしょ止めろ!」

「え、水無月さんの言葉を返信しようと」

「これは返事じゃなくてただの感想! もうメッセージのやりとりは終了!」

「だけど三葉先生に何の返信もしないのは感じ悪くない?」

「綺麗に終わらせてくれたんだから、これを変に長引かせる方が悪質よ」


 そういうものなのか。あまり他人とメッセージをやり取りしたことがないからそのあたりのテンポ感がよく分からない。


「ね、ね。このメッセージって『プロの世界で待ってるぜ』って解釈でいいのかな? 期待されちゃったってことでいいのかな?」

「いや、初手で直接対面を希望してくる距離感ヤバい奴を『いつかどこかで機会があればね~』って穏便にあしらった形だと思う」

「そうかなぁ」


 ちゃんと変更したばかりの新タイトルも認知してくれていたし、きっと私の漫画を読んでくれているのは間違いないと思う。多忙なプロの人が面白くもない漫画を読むのにわざわざ時間を割かないはずだ。

 私は本棚に手を伸ばして『私の心を二度も殺すな』の1巻を取る。背表紙に書かれている版元は『冬桜出版』。


「水無月さん。一緒に持ち込みとか行ってみない?」

「……は? 持ち込み? なんで私が一緒に?」

「だって作品のテーマとか百合の方向性を聞かれたときに、水無月さんがいないと答えられないし」

「毎度のことだけど、なんで原作者が答えられないのよ。だいたい私が代わりに答えてやるにしても、編集さんが『なんで無関係のクラスメイトが全部答えるんだ?』って盛大に不審がるでしょ」

「それなら小型インカムで遠隔から水無月さんが指示を」

「そんなスパイ映画みたいなこと現実でやるやつがあるか」


 んん、と私は唸る。

 持ち込みが上手くいけば、水無月さんにもメリットがあるのだが。


「もし担当さんが付いていろいろアドバイスとかくれるようになったら、もう水無月さんに百合のこと聞くとか迷惑かけないから。協力お願いできないかな?」


 水無月さんはあまり作品アドバイスに乗り気ではなさそうだった。

 こう言えば「やれやれそれなら仕方ない」と協力してくれるかと思ったが――


「えっ」


 なんだか妙に当惑した声が返って来た。

読んでくださってありがとうございます!

感想・ブクマ・☆評価などで応援いただけると、執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
日果の距離感が危うすぎて笑ってしまいます。本人に悪意はまったくなく、むしろ三葉先生の作品が素晴らしく、もっと知りたい、もっと話したいという気持ちが暴走しているだけなのが厄介でもあり、憎めないところでも…
あーまぁ、水無月さんの言葉を額面通りに受け取ればそうなるのはおかしくないか。 本人的には気を遣って言ってるんだよなぁ……。これは水無月さんのUTSUWAが試されているような。ここで怒るのは八つ当たりっ…
暴走機関車をみる 水無月ちゃんをみる はたして三葉わん先生だけただのいい人な事があるのだろうか(疑心暗鬼
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。