第10話『SNSではマナーを大切にしましょう』
『雪解け回かと思ったけどユキホの闇がまだ重かった』
『そりゃあ命懸けの復讐を決意するくらいだもんね…』
『まだイチャラブは遠かった』
「血が出るくらい拳を握りしめてるラストがお労しい」
『新タイトルもいいと思う。復讐って単語が消えたのはハッピーエンドの示唆だといいな』
リモートでの打ち合わせから二週間後。
『とある少女が復讐を果たすまでの話』を正式に『餓鬼は糖なく生きられない』へと改題し、同時に最新話を更新した。
さっそく寄せられる感想はおおむね好評である。一部に『タイトル分かりづらくなった』『引き延ばし展開?』『いいから黙って百合を受け容れろユキホ』といったネガティブ感想もあるが、まあ一割未満なのでスルーしていいだろう。
「やったよ水無月さん! 好評だったよ! アドバイスありがとう!」
「あなたの実力だから。お礼とかそういうのいいから」
「ううん。下描きのときの話し合いがすっごく参考になったよ」
なので、好評をさっそく水無月さんに電話で報告する。
相変わらず水無月さんは謙遜しているが、彼女の助言が果たした役割は今回も大きかった。
あの打ち合わせでの議論ポイントは『表情』――つまりユキホとクーナがそれぞれどんな感情を秘めているかを深堀りすることだった。
なんといっても一番大事だったのはラストシーン。
クーナに『ごめんねユキホ。うっかり燃やしちゃったから、やっぱり今日もご飯作って!』と言われたユキホが浮かべる表情だ。
クーナは自らの命を繋ぐために最適な合成食糧を燃やし、不完全でも温かみのあるユキホの料理を求めた。それだけ自分を必要としてくれる少女に、哀しい復讐鬼であるユキホがどんな感情を抱くのか。どんな顔を向けるのか。
当初の水無月さんは『復讐を躊躇うような困惑顔』を想定していたという。
一方の私は『よ~し! また復讐頑張るぞ!』と張り切って、クーナを手懐けようと優しく微笑むユキホを想定していた。
結論からいえば――私の想定した『取り繕った優しい微笑み』が採用された。
ただし、最後に小さなコマを追加した。
固く握りしめたユキホの拳から、一筋の血が流れているカットを。
クーナから向けられた感情を握り潰して、あくまで復讐を継続するという彼女の強い決意を示す描写として。
「やっぱり、いい落としどころを見つけられたのは水無月さんの意見あってこそだったと思う」
「いいえ。前回の打ち合わせ、私は百合ファンとして少し軽率だったわ。あなたの言う通り、ちょっと懐かれた程度ですぐに心が揺らぐとか非現実的だもの。あまりに安直かつファンタジーが過ぎるもの。しっかり没にしてくれて感謝するわ」
「いやいやそんな」
やたらと自分を卑下する水無月さんに、私はすかさずフォローを入れる。
「没にしたわけじゃないよ。ちゃんと取り入れてる。最後にユキホは血が出るくらい拳を握りしめてるよね。これは裏を返せば『このくらいしないとチョロっと絆されちゃう』ってことでもあるから。この段階で復讐を明らかに躊躇うユキホはさすがに解釈違いだけど、このくらいのチョロ要素は入れてみてもいいかなって」
「……待って。あの拳の描写、あなたひょっとしてギャグのつもりで入れた?」
「うん。『チョロ可愛い!』って感想来ると思って。実際は『お労しい』とか『お辛い』って感想ばっかりだったけど」
スマホの向こうで聞きなれた溜息の音がした。
「まあいいか。もうなんか慣れてきたわ」
「あとね、有名な漫画家さんからフォロー貰っちゃった。『私の心を二度も殺すな』って百合作品の『三葉わん』先生から――」
「本当っ!?」
水無月さんが電話口で大声を出した。
「すごいじゃんビッグネームだよ! 王道青春百合だと今一番勢いある人!」
「うん、私も勉強のために読んだ。なんだか恋愛感情って感じじゃなくて『百合なのかな?』って疑問だったけど」
「あれは恋愛感情よりも執着心が先立つタイプの百合だから。その『重さ』がグッと来るわけだけど」
「あと絵がすっごい上手だよね。水の描写とか信じられないくらい神業だと思う」
「そうそう画力もすごい。アニメ化決まってるけど、どれだけあの神作画を再現してくれるかちょっと不安なのよね私」
おお、なんだか友人同士の会話のようだ。
そっけなかった水無月さんがテンション高めに会話に乗ってくれる。
「そうだ水無月さん。よかったら一緒に先生に会ってみない?」
「…………は?」
「実はね、ついさっきDM送ったんだ。『どこ住みですか? 関東近郊だったら会いに行きます。いろいろ教えてください!』って。まだ返事待ち中だけど、フォローしてくれるくらいだしきっとOKしてくれると思う!」
この直後、なぜか水無月さんがキレた。
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