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第8話 仁義ある戦い




―――数分前



逃げ出すなら”今”

けれど、私の足は一向に動いてくれなかった。


ねぇ、月影


(…どうした?)


もし、私が今、逃げたら……


月影は赤い瞳を閉じた。


(…いい機会だから、これだけは言っておく)

(…俺は、奴等と同じ”愚者”の側だ)

(…誰かに導かれなければ、な)


どういう、こと?


月影の薄っすらと開いた赤い瞳に、私が映った。


(…お前はもう”知っている”)


……なにそれ、全然、意味解らないよ


(…後はお前次第だ。ルナ)


……あのさ

もうちょっと、解り易く言ってくれないかな?


(…)


ねぇ?


(…すまん、今は)


もう、後でちゃんと、教えてよね


(…ああ)


全部、だよ?


(…ああ)


約束、だからね。


月影は、少しだけ目を伏せた。


(…ああ、約束だ)


なら――


その時、女性の悲鳴が重なった。


みゃぅ~…


コートの中の茶虎が不安そうに見上げていた。


頭をそっと撫でると

ゴロゴロと喉を鳴らし

嬉しそうに身体を擦り付けた。


まるで

ここだけが

切り離されたような


世界だった。




第8話 仁義ある戦い




♪


ねえ

”キミ”はまだ

そこに

いる?


♪


「あいつ、あれだ、血塗れの歌姫だw」

「何だそりゃ?」

「兎に角”金”になんだよw」

「マジか!?じゃ、俺等の専属にしてやろうぜぇ♪」


多数のヘッドライトに照らされる中


茶虎だけが


私を見ていた。


今この瞬間も


この子だけが


観客で


この子が安心するのなら


それで良かった。


私にあるものなんて

そんなに多くはない。


月影の言っていた意味はよく…いや、全く解らないけれど


ただ


赤く染まり、苦しんでいる彼等に何もしないのは


嫌だった。



「そこ、動くなよ~!」


下卑た笑みが暗闇から浮かび、手が、伸びてくる。


それでも


私は、想いを声に出した。


♪


助けてあげて

それが

キミ

だよ


♪


「ギャハ、いただき~♪」


薄汚い手が、私に触れるその直前


立ち塞がる


蒼く迸るシールド


バチィィィッ!!


視界が白く焼け、咄嗟に茶虎を覆い隠した。


「ギャバァァァッ!!」


バイクは、弾き返されていた。


「ちょっ!?」


後続の3台に正面から突っ込み、ボーリングのピンのように弾け飛び――


熱い風が身体に吹き抜けた。


みゃぅっ!


小さな命を、強く抱きしめる。




鼻を衝く黒煙の匂いと、呻き声の中


(…立てるか、ルナ)


うん……なん、とか


瞼をこじ開けるとそこには


蒼く、透明なシールドを構える


若い隊員の、後ろ姿があった。


彼は、頭から滴る赤を拭いもせず


”赤”ではない雫を零し


「……もう」


「もう、見ていられません!!」


血を吐くかのような叫びだった。


「お、おい、新入り……」

「自分が、何をやったか解っているのか!?」


隊長が叫んだ。


「戻れぇっ!!」


彼は、振り返らなかった。


「隊長」


「……何だ?」


「本官達は、何の為にここにいるのですか?」


答えを待たず、彼は続けた。


「自分は……

市民の悲鳴が、殴られた音が、助けを呼ぶ声が、耳から離れ――」


言葉の途中で、彼は口に手を宛て、膝を付いた。


「ぐばっ!」


地が、赤く染まった。


その先

さっきまで転がっていたモヒカン達が、仲間を引き起こし

燃え移った火を踏み消していた。


その目が


一斉に、こちらを見た。


「やってくれたなぁw犬がよぉ!」

「これでもぉ~お前等は終わりだw」


レッドが叫んだ。


「野郎共!こっからが”お楽しみ”だ!!」


モヒカン達が、凶器を振りかざした。


「奴ぁ、袋叩きだぁぁ!!」

「仲間の仇!!」


怒号と殺気が向けられる中


彼は、口から血を垂れ流しながら、必死に身体を起こそうとしていた。


「くっ!!」


震える膝


「……立てるか?」


差し出された手


「先輩……」

「黙れ」


優しさはない。

けれど、手はそのまま


「……」


軋んだブーツが、元に戻った。


「今だけだ。今だけ“見ろ”」


横に、影が増えた。


「へっ、付き合ってやるよ」


ペッ――


カランと、血に混じった白い何かが転がり

拳と、首を鳴らした。


更に、引きずるような音が並ぶ


「まっ、やられっぱなしってのは……ねぇよなぁ?」


片脚が、まともに地面を蹴れていない。

その肩に、腕が回された。


「ああ……俺も、まだ……やれるぜ……」


息が浅い。

脇腹を押さえる手が、血で濡れていた。


「隊長、あいつら」


「馬鹿共がっ」


隊長は顔を伏せ


静かに


隊員達の前に出た。



「隊長、すみません」


黙り込み、前を見据える隊長



「市民を護る!総員、シールド、構え!!」


隊員達の目に”覇気”が宿った。


『応!!』





ねえ、月影


(…何だ)


ううん。何でも、ない。


(…そうか)


少しだけ、口元を綻ばせて

瞳を閉じ

想いを

形にした。



♪ 


聞こえたよ

”キミ”の声


♪


「ギャッハー!!」

「歌姫もいいねぇwそうこなくっちゃよぉw」

「壊しガイがあるってもんだぁ!」


…世紀末の群れが、突っ込んでくる。


「うおおおぉぉぉ!!」

「来いやぁぁぁ!!」


…隊員達は、横並びに電磁シールドを構えた。


「ギャハw」

「そんなもんで、俺達を止めようってか?w」


「来やがれ!」

「また弾き返してやるよ!!」


…鉄塊に跨ったモヒカンが後ろのモヒカンに声を掛けた。


「”あれ”を出せ!!ギャッハー♪」

「…」

「おい”アレ”を降ろせって!」


…そのモヒカンは、ただ、ルナを見ていた。


♪


キミの姿が

みんなに勇気を

くれたんだよ


♪


「……どうした?さっさとしねぇか」


「あ……ああ、わぁってる!」


…鉄塊から、不気味な”ある物”が、露になっていく。


「なっ!?」

「はぁ!?」

「ただの装甲じゃないのかよ!?」


…バイク前面を覆っていた装甲シールドが前方へ倒れ


ギュルルルル!!


…中から狂ったように回転する、鋼鉄のドリルがせり出した。


「おいおいおい!?」

「なっ、何だよあれは!」

「あんなの、防げるか!?」


「狼狽えるな!」


「だが!」

「腹括れ!シールド、出力最大!!」

「ちっくしょぉぉ!!」


…歯医者のような、甲高く不快な回転音の群れが

火花を散らし、突っ込んで来る。


♪ キミは ♪


「最恐の矛だぁ!」

「死んどけやぁ!」

「ギャッハー!」


「総員!歯ぁ食いしばって、絡めとれ!」


『応!』


…二つが、重なり合い、暗い壁や路上が、閃光で瞬く。


♪ ねえ……


…頭の奥まで響く、不快な金属音に、耳を塞ぐ市民達。


♪ ……まだ……


「持つのか!?」


♪ ……そこに……


「気合で!」


♪……いる……


「耐えろぉぉぉ!!」


…蒼い火花を散らし、最恐の矛と最先端のシールドが鬩ぎ合う。


…隊員たちの足がジリジリと後退していく。


「吹かせえぇ!そのまま串刺しだぁ!ギャッハー♪」


…ドリルが唸りを上げ、回転数が一段、跳ね上がった。


「だめだ……食い込んで来る!」


…シールド表面に、螺旋状の“歪み”が広がっていく。


「もう一息だぁ、ギア上げろ!ギャッハー♪」


…後輪が悲鳴をあげ、焼け焦げたゴムの匂いがたち込める。


「隊長!シールドが、もう、持ちません!」

「こっちも、もうダメだ!」

「泣き言は聞かん!!」

「警官魂を見せてやれ!」


…シールドの向こうで、モヒカン共は歪んだ笑みを浮かべていた。


「ギャッハー!やるじゃねえか」

「そ~んな玩具で、こいつを止めるとはよぉ」

「耐えてみろよ!w」


…下卑た笑いのその向こう



原型の無い血塗れの”あいつ”に

耳打ちされたレッドが

目を大きく見開き


…こっちを見た。




♪ もう 何も 怖く ないね ♪





「総員”あれ”をやるぞ!!」


…隊員達の呼吸が、止まった。



「はぁ!?冗談だろ!」

「そうですよ!万一失敗したら!?」

「今使わずに、いつ使う!?」

「腹ぁ括れ!どうせこのままじゃ、仲良くミンチだぞ!」

「くそっ、どうなっても知らんぞ!!」

「ちっ、やるしかねえか!」


…青白かった電磁シールドが、内側から滲むように赤く染まっていく。

同時に、隊員たちの視界――いや、思考そのものに直接、文字が割り込んだ。


【警告:当該行動は部隊存続を保証しません】

【予測損耗率:臨界】


「構わん!ぶちかませ!!」


「ギャッハー!コケ脅しか!?w」


ギュリ…ギュリ…


…ドリルが、さらに食い込んでいく。


「ぬぐぉぉぉっ…!!」


――飛沫


…隊員達のシールド内部に、鮮血が散っていく。


【了:カウントダウン開始……3】


♪  どんなに 痛くても ♪

 

「オラオラどうしたぁ!?」


…シールドを突き抜けたドリル先端が、腕をゆっくりと抉っていく。


【2】


♪ キミの魂は叫んでる ♪


「ギャハハハハハッ♪花火みてぇ!!ww」


…全てが、赤く染まっていく中


…レッドの震えた声が、全団員に走った。


(野郎共、唄女だ…その、唄女を、捕まえろ)


(はぁ!?何言ってやがる!?)

(今一番良いところだろうがよ!)

(んなもん後だ後!)


(別に、止めやしねぇよ、ただ……)


(あん?)

(ただ、なんだよ?)


(捕まえた奴は“幹部候補”にすると、兄貴からのお達しだ)


…紫モヒカンが、返り血をペロリと舐めた。


【1】


♪ 大きな声で 叫んでる ♪


「死ぬな。だが、退くな」


…隊長が、目を伏せた。


「たりめぇだ!」

「はい!」

「応!」

「痛ってえええぇぇ!」

「ぶちかますぞ!!」


【0】


♪ 本気の想いを叫んでる ♪


…モヒカン達が一斉に、ルナを見た。


「ギャッハー!あいつぁ俺の“獲物”だぁぁ!!」


(…逃げるぞ、ルナ)


「てんめっ!抜け駆けはずりぃぞ!」

「くっそ!離れねえ!逆回転だ!急げ!!」


…前線の圧が、一気に散っていく。


【シールドバースト…im…】


つき、かげ?


(…逃げるぞ)


う、うん!


…カウントダウンは続きを告げず



膝を突き、”赤く”染まった隊員たちの姿が


遠ざかっていく。




…ルナ。ほんの、少しだ

お読みいただきありがとうございます。


今後もルナ達を見守っていただければ幸いです。


ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


はやく世界征服、させてあげたいにゃぁ。

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