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第7話 キミはまだ、そこにいる?



――警察本部



現場からの悲鳴混じりの通信が、管制室に響いていた。


≪本部!至急応援と交戦の許可を!このままでは市民が襲われる!≫

≪本部!応答しろ、本部!!≫


一番奥にいた男が、コンソールを叩き割り、ガラスの音が響き渡った。



「しゅ、主任……?」


女性隊員二人が、不安な視線を向ける。


主任は赤く染まった拳を硬く握り、叫んだ。


「全隊へ通達!緊急出動!市民保護を最優先!

光線銃が使用不可の場合、身を挺してでも市民を護れと伝えろ!」


管制室が、一瞬静まり返った。

凛とした隊員が、息を呑む。


「ですが――」


「責任は……俺が取る!」


「……了解」


『本部より全隊へ、緊急出動要請 各員、直ちに現場へ――』


ビィィィッ!!


突如、管制室全体が、赤く染まった。


【警告】

【上位権限に反する命令を検出】

【管制主任ID:凍結】

【管制室全機能:停止】


「……っ!?」


全員の呼吸が、止まった。


「主任、これは!?」


隊員二人が立ち上がる。


「現場だ!」


主任は歯を食いしばって叫んだ。


「アナログ回線を使え!現場に無線で直接伝えろ!!」


「了解!」


若い女性隊員が、マイクに口を寄せた。


≪こちら本部、交戦を許可します≫

≪市民保護を最優先してください≫

≪光線銃が効かない場合、身を挺してでも市民を護ってください≫

≪聞こえていますか!?繰り返します――≫


「……え?」


凛とした女性隊員の顔色が変わった。


「どうした?」


「こ、この内容は……!」


「だからどうした!?」


「だめです、改竄されています!」


「なっ――」


突如、主任の後ろ扉が開き

恰幅の良い男が、黒服の男達を引き連れて入ってきた。


「騒がしいな」


主任が、男を睨み上げた。


「署長……まさか、貴方が……?」

「いいや、私ではない」


署長は、平然と言った。


「正確には、私”一人”だけではない」


その言葉に、管制室の空気が冷える。


「見たまえ」


署長は空中にモニターを展開させた。


【上位顧問権限:████】

【特別監査権限:████】

【治安維持局外部協力権限:████】

【行政保全プロトコル:適用中】


若い女性隊員が、声を震わせた。


「まさか……顧問は、一人じゃ……」


「理解したかね?」


署長の声は、低かった。


「この街で長く働きたいなら――」

「ふざけないでください!」


凛とした女性隊員が立ち上がる。


「現場には仲間がいます! 市民もいる! こんな命令、通せるわけが!」


「宜しい、君は”クビ”だ」


彼女の視界に、強制的に文字が展開された。


【上位権限を検出】

【職務AIを永久凍結します】

【ご利用、ありがとうございました】


「ぇ……」


彼女は、糸の切れた人形のようにその場で崩れた。


「先輩……?」


若い女性隊員が、その肩を抱き

まだあどけさの残る瞳で、署長を睨み付けた。


「先輩に、何をしたんですか!?」


「知りたいかね?」


「だ、ダメ!!」


彼女の視界内にも、同じ文字が展開される。


【上位権限を検出】

【職務AIを永久凍結します】

【ご利用、ありがとうございました】


「う、うそ……」


その文字が消え


彼女達は、頬を寄せたまま


固まった。



主任が、赤い拳で署長の胸倉を掴んだ。


「貴様……」


浮き出る血管


「この豚野郎が!!」


署長は答えず

黒服の男達へ視線を向け――


「ぐあっ!」


鈍い音と共に

主任の頭は地に転がった。

署長はそれを一瞥し、淡々と言った。


「お前達が引き継げ」


黒服の一人が、わずかに眉をひそめた。


「しかし、自分には管制経験がありません」

「必要ない」


黒服達の脳内に、データが流し込まれる。


【専門AI:簡易管制パッケージ】

【現場指揮補助:同期完了】

【通信文面:生成済】

【責任所在:現場隊長へ移譲】


「……理解しました」


黒服の男達が、続々と管制席に座る。

主任が掠れた声を上げた。


「やめ、ろ……」


『発砲は厳禁だ』

『交戦と判断される行為は全て避けろ』

『現場判断は慎重に』


『市民対応は現時点で不要』


署長は、満足げに頷いた。


「それでいい」


直後


管制室に、悲痛な声が轟いた。


≪“不要”とは、どういう意味だ!?≫


「切れ」





静まり返った管制室の中


金属の床の血溜まりが



ゆっくりと



広がっていった―――





第7話 キミはまだ、そこにいる?





「野郎共…余興は終わりだあぁ!!」


モヒカン達が、奇声を上げ飛び跳ねる。


改造バイクが次々と唸りを上げていく。


隊長は振り返り


「本部と連絡は!?」


直後、隊員達のマイクに、通信が三つ鳴った。


≪――繰り返す、現場は状況を維持せよ≫

≪こちら本部、刺激するな、絶対に発砲するな≫

≪……聞こえるか?返答しろ≫


「ちょ、ちょっと待ってください!誰が誰に言ってるんですか!?」


若い隊員の声が裏返る。


「無線切れ!一旦切れ!今は目の前を見ろ!!」


隊長は、迫り来るバイクの群れを睨んだ。


距離、二十メートル。

いや、もう十五。


「隊長、あの…」

「何だ」

「…いえ……」


唾を飲み、若い隊員は言った。


「盾を、構えますか?」

「…構えるな」

「え?」

「構えたら“対峙”になる」


沈黙――


「で、では、下ろしますか?」

「下ろすな!下ろしたら“無防備”になる!」


「どっちだよ!!」


別の隊員が怒鳴った。


「どっちもダメなら、どうすりゃいいってんだ!?」


無線がまた鳴る。


≪発砲は厳禁だ≫

≪交戦と判断される行為は全て避けろ≫

≪現場判断は慎重に≫


「何だよ、慎重って……」


誰かが小さく呟いた。


「隊長、距離が…」

「分かってる!」

「近いです!」

「分かってると言っている!!」


若い隊員は震える手で、光線銃に手を掛けた。


「撃つなよ」

「撃てませんよ……」


「後ろ、市民が!」

「下がれと言った!」

「けど動きません!!」


「後方部隊、市民を――」

「無茶言うな!こっちにもわんさかだ!」


また無線


≪市民対応は現時点で不要≫


「…不要?」


隊長が聞き返した。


「“不要”とは、どういう意味だ!?」


返事は来ない。


「隊長……本部は、ひょっとして――」


言葉は、途切れた。


「……全員、深呼吸しろ」


誰も呼吸できていない。


迫るエンジン音


「総員……」


隊長は一瞬だけ、目を閉じた。


「歯ぁ食いしばれ!!」


警官隊の列に、凶器を掲げたバイクの群れが突っ込む!


「ギャッハー!死ねぇぇぇ!!」


ガンッ


隊長のヘルメットが、吹き飛んだ。


「っ……!」


間髪入れず、鉄パイプやバールが、次々と警察隊に叩き付けられていく。


「ぐっ……!」


歯を噛み締めたまま


青い制服だけが、赤く染まっていく。


市民の声があちこちで弾けた。


「い、いやあああぁぁ!!」

「なんだよ、なんで反撃しないんだ!?」


ネット欄が荒れ始める。


『速報 警察VSギャッハー団 激突!!』

『これマジの奴?』

『一方的過ぎじゃね?』

『噂は本当のようだ』


後続のバイクが、膝を付いた警官隊に突っ込む。


弾かれ、宙を舞う、赤く染まった制服


ゴロゴロと転げ落ちたその上を、間髪入れず更なる後続が踏み抜いていった。


「ぐあっ……!」


「しっかりしろ!!」


「あ……足が……」


駆け寄る隊員の背に、鎖が振り下ろされる。


骨の砕ける、鈍い音。


助けられるはずだった身体の上に

折り重なった。


「隊長っ!反撃の許可を!!」


新人隊員が縋るように叫んだ。


「ダメだ!!」


それは、悲鳴のようだった。


「おいおいおい」

「何だこりゃw」

「こいつら、全然やり返してこねえぞww」


「つまんねぇなぁ」


釘バットを、倒れた隊員に振り上げ


「ちったぁ抵抗してくれねえと……よぉ!!」


肉の裂ける音と共に

呻き声と

血が、舞い散った。


奇声が重なる中


「……隊長……」


誰かが、か細く呼ぶ。


隊長は、歯を食いしばったまま、前を見ている。

路上に滴る音が、虚しく響く。


「……耐えろ」


「し、しかし、この、ままで――」


言葉の途中で、女性の悲鳴が、同時に上がった。


視線が、そちらへ引きずられる。


「やっやめろ!!」


倒れた女性を庇う様に、男が手を突き出していた。


「ギャッハー♪」


崩れる男


「いやぁぁぁ!!」

「おまわりさん、おまわりさん!!」


赤く濡れた鉄パイプを持ったモヒカンが

舌なめずりをしながら女性に近付いていく。


「やむを得ん!!総員――


隊長が口を開いた、その時


≪……現場≫

≪……発砲、反撃行為は一切認められない≫

≪……状況の拡大は避けろ≫


≪……以上だ≫


プツリ


「……」


開いたまま、固まる声


「た、隊長……?」


答えはない。


女性の一人が、殴られた。


胸が

軋んだ。


倒れる女性

もう一人の女性が、庇う様に重なった。

笑うモヒカン


「おまわりさ~ん、市民が襲われてるぜぇ♪」

「助けねぇの?お仕事ですよ~?ww」


隊員の拳が、震える。

銃を握る指が、白くなっていた。


その背中に


私は


「ねぇ」


小さな声を掛けた。


「本当は、どうなりたかったの?」


「なっ?」


振り返ったその顔を見ることなく


落ちているメガホンに手を伸ばした。


足元の茶虎が、目を輝かせていた。


「ここは危険だっ!」

「下がれ!!」


鬼気迫る隊員の声


私は


その顔に


微笑んだ。


「なっ……?」


瞳を閉じ


想いを


唄にした。



守りたい

それだけなのに

いつからか

こんなにも

重くなったね



…噴き出す、モヒカン達。


「はぁw」

「歌?w」

「イカレテんなぁww」



赤く染まった制服の下で

まだ

息をしてる



「おもしれぇw」

「よく見りゃ上玉だ」

「捕まえるかぁw」


…レッドの声が、団員達の脳内に響いた。


(野郎共、これ以上カタギに手ぇ出すな)

(”上”にどやされるぞ)

(狩るのは“犬”だけにしとけ)


(はぁ?ちっとくれぇいいだろう?)

(あいつぁ”脳無し”みたいだしな!)


(……まだガキだぞ?)


(うるせぇ!兄貴のオキニだからって、リーダー気取ってんじゃねえぞ!!)

(テメェも楽しめよっギャッハー♪)


(……)



…バイクの群れが、こっちに殺到してくる。


…ルナは、構わず声を響かせていた。



助けてあげて

それが

キミ

だよ



(なんだってんだ……?)

(耳障りだ)

(やめろよ……)


(でも)

(なんで……)

(くっそ! 何でなんだよ!?)

(ちくしょう……!)



ねえ

”キミ”はまだ

そこに

いる?





…その問いだけが

場に残った。

お読みいただきありがとうございます。


今後もルナ達を見守っていただければ幸いです。


ブックマークや評価をいただけると、とても励みになります。


はやく世界征服、させてあげたいにゃぁ。

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