表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
泥濘(でいねい)のレクイエム ―英雄の残火と、つぎはぎの神魔―  作者: 堀吉 蔵人
第2部

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
81/103

第81話:なまえのない寝息、ひとりじゃない眠り 【三位一体の少女】

毎日20時更新中です。ブックマーク・感想いただけると励みになります!

くろいねどこは、やわらかくない。


つめたいところと、ぬるいところが、まだらにある。

ふわふわもしない。

やさしくもない。

ただ、`まんなか` みたいに、だれかひとりをえらぼうとはしてこない。


それが、いまはすこしだけ、うれしかった。


`まんなか` は、あまい。

あたたかくて、まぶしくて、はやくきてって言う。

でも、あそこへいくと、ひとりぶんになる。

おれかもしれない。

わたしかもしれない。

わたしだけかもしれない。

だれかふたりが、うすくなる。

だれかひとりが、こぼれる。


それはだめ。

まだ、だめ。


だから、こっち。

くろいねどこの、はしっこ。

おちないけど、えらばないところ。

ひとりじゃなくて、まださんにんのままでいられる、ほそいところ。


でも、ほそいところは、すぐこわくなる。

みられると、かたくなる。

よばれると、かたよる。

いのられると、いたくなる。


さっきまで、ずっとそうだった。


しろいぬののひとたちが、こっちを見ていた。

つめたいのに、やけどみたいな目だった。

「なにか」をきめる目。

「どれか」をえらぶ目。

そういう目はいやだ。

いやだとおもうと、からだのなかで、さんにんがすぐけんかする。


ねるな、というひとがいる。

あついせなかのひと。

ずっとだれかをせおって、ずっとあるいてきたひと。

そのひとは、ねるのがへただ。

めをつぶると、おとす気がするから。

てをはなすと、なくす気がするから。

だから、いたくても、さむくても、まえを見ろって言う。


いそがないで、というひともいる。

めをとじた、しずかなひと。

そのひとは、ねむることがこわいことばかりじゃないと知っている。

とまること。

すこしだけ、しずかにすること。

そうすれば、こわれないですむこともあるって知っている。

でもそのかわり、じゅんばんをまちがえるのをすごくこわがる。

あわてた手がいちばんだめ、と、そのひとは何度も言う。


それから、ちかづいて、というひともいる。

しろいゆりのにおいのするひと。

そのひとは、ミナが好きだ。

すきというより、さみしさが、ミナのかたちをしている。

だからミナの声がすると、すぐにそっちへ行きたくなる。

「おじょうさま」とよばれたら、たぶん、そのひとがいちばんつよくなる。

つよくなって、やさしくわらって、それからきっと、ほかのふたりをおしのけてしまう。


それも、だめ。


さんにんでいたい。

まだ、さんにんじゃないとだめ。


だから、みないで、がいる。

なまえをいわないで、がいる。

それを、さっき、かたのおじさんが外から言ってくれた。


「見るな」


こわい声だった。

やさしくない。

でも、やさしくないから、たすかった。


やさしい声は、だれかひとりをえらぶ。

かわいそう、いたいね、だいじょうぶ。

そういう声は、どれかひとつへ、ぐっとひっぱる。

おれは、まもるって起きたくなる。

わたしは、まだって止めたくなる。

わたしは、こっちへおいでって手をのばしたくなる。


でも、かたのおじさんの声は、えらばない。

みるな。

よるな。

じゅんばんをまもれ。

それだけ。

それだけだから、さんにんとも、すこしだけおとなしくできる。


くろいねどこが、さっきよりやわらかい。


からだのうしろには、ひだりのひとがいる。

あつい。

とてもいたい。

でも、ひだりだけは、へんなふうにまっすぐだ。

「だれを」もっているか、ちゃんとわかっていない。

ただ、おとさないって思っている。

それだけ。


それがいい。


わかりすぎる手は、だめ。

しりすぎてる手も、だめ。

この子はだれで、この子はなにで、って決めながら触る手は、すぐにひとりぶんにしたがる。


ひだりのひとは、しらないまま、もってくれる。

おれも、わたしも、わたしも、まとめて「おとさないもの」として持っている。

だから、ひだりは、いたいけど、まだだいじょうぶ。


でも、みぎはだめ。

はいいろのみぎは、よくばりだ。

さわったら、きっとひとつかみする。

さんにんのままじゃなく、どれかひとつだけを、ぐいってひっぱる。

しかもそれを、わるいことだと思っていない。

あのはいいろは、いつもそうだ。

つよいもの、ながくのこるもの、ひとつだけ立っているものが好きだ。


だから、みぎはこないで、がいる。


くろいつちのしたで、どくん、どくん、って、ちいさく鳴る。

おおきなひとつのこどうじゃない。

さんにんのいきが、すこしずつそろおうとしている音。


でも、まだそろわない。


ミナのこえがすると、しろいゆりのひとが顔を上げる。

うれしそうに、かなしそうに、そっちへいこうとする。

ちいさいときのへや。

ぬののすれる音。

かみをとく手。

「おじょうさま」とよばれた時の、すこしだけさびしいうれしさ。

そういうのが、いっぺんにくる。


くると、さんにんのつりあいがずれる。

わたしのくろいめのほうへ、すこしだけ、おもくなる。


でも、ミナはいま、なまえを言わない。

「みぎあしのさき」

「はんぽだけ」

「おちません」

そういうことしか言わない。

その声は、さみしいけど、たすかる。

ミナも、わかっている。

ちかづきすぎたら、わたしだけになってしまうかもしれないって。


それは、かなしい。

でも、かなしいからって、ちかくにいていいわけじゃない。


かなしいことを、わたしはもう、すこし知っている。


つめたいひつぎ。

ひとりで歩くせなか。

だれもいない玉座。

やさしくされたいのに、やさしくされたらこわれるときのこと。


だから、ミナはそこまで、がいる。


おそとの空気が、だんだんしずかになる。

しろいぬののひとたちも、見なくなった。

いや、ほんとうは見たいのをやめられていない。

でも、顔をふせているだけで、ちがう。

見られている、えらばれている、決められている、が、すこし遠くなる。


そのかわり、きこえるものが増える。


ひだりのひとの、あついこきゅう。

かたのおじさんの、ちいさくきしむよろい。

ミナの、きをつけてそろえている息。

すこし外で、しろいぬのの男が、だれにもいのるなって言った声。

それから、もっと外で、わらわないようにしてる女のひとと、りくつをのみこんでる男の子と、見ないようにしてくれている大きなやり。


みんな、ちゃんと、いる。

でも、こっちへ入りすぎない。


それなら、ねられるかもしれない。


ねむるのは、きえることじゃない。

めをとじたひとが、そう言う。

すこしだけ、かたちをゆるめること。

くろいつちへ、あずけること。

あしたのために、いまは立たないこと。


ねるな、というせなかのひとも、さいきんは前ほどつよく言わない。

たぶん、ひだりのひとのいたみが、よくわかるからだ。

あのいたみは、むりをすると折れる。

折れたら、いっしょにころぶ。

だから、いまは「おとすな」より、「まだ切るな」に近い。


しろいゆりのひとは、まだミナへ行きたがっている。

行きたがっているけど、ミナの声がやさしすぎないから、まだぎりぎりでとまれる。

たぶん、もしここで「おじょうさま」とよばれたら、だめだ。

わたしだけが、目をあける。

ほかのふたりは、うしろへいく。

それはだめ。


だから、言わなくちゃいけない。

外のひとたちに。

だれをのこして、だれをさげるか。

なにをしてよくて、なにがだめか。


うまく言えるかわからない。

口はちいさいし、ことばはまだうまくならばない。

でも、言わないと、またみんな、やさしくしすぎる。


わたしはくろいつちへ、もうすこしだけ、おもみをあずける。

ひざ。

こし。

せなか。

はね。


どさり、じゃない。

しずかに。

こわれないように。

ひとりぶんにならないように。


すると、くろいつちが、こんどはやさしくもたれかえしてきた。

あたたかい、ではない。

つめたい、でもない。

「ここまでなら、いまはもっていい」と言われたみたいな温度。


そのあいだに、わたしは口をひらく。


「……なまえ、だめ」


外が、ぴたりと止まる。

ひだりのひとの熱が、すこしだけゆれる。

ミナの息がつまる。


もういっこ。

もういっこ、いる。


「ミナ……そこまで」


かなしい。

言いながら、くろいめの奥が、きゅうってなる。

しろいゆりのひとも、いたそうに笑う。

でも、それでも、そこまでじゃないと、ねられない。


「ひだり……いい」


これは、ひだりのひと。

いたいけど、いい。

おとさない、だけの手。


「……おじさん、かた。そのまま」


かたのおじさんは、えらばない。

たおれたら返す。

それだけ。

それだけだから、いていい。


まだ、たりない。

さいごの、いちばんだいじなやつ。


「みないで。いのらないで。……かぞえて」


かぞえる。

それがいい。

やさしくない。

さびしくもある。

でも、かぞえる言葉は、だれのものにもならない。

いち。

に。

さん。

そういう言葉なら、さんにんのままで、ねむれる。


しずかなひとが、うなずく。

せなかのひとが、しぶしぶ、うなずく。

しろいゆりのひとも、かなしいまま、でも、うなずく。


それなら、だいじょうぶ。

まだ完全じゃない。

あさまで持つかもわからない。

でも、いまよりふかく、くろいねどこへ入れる。


外で、だれかが低く数えはじめる。

だれだかは、ちゃんとわからない。

かたのおじさんかもしれないし、ひだりのひとかもしれない。

もしかしたら、二人でずれてるのを、ミナが足もとからそろえてくれているのかもしれない。


それがいい。

だれかひとりの声じゃないほうが、いい。


いち。


こきゅうが、ほどける。


に。


はねの力が、ゆるむ。


さん。


さんにんが、すこしだけ、ならぶ。


そのまま、わたしは、くろいつちへ、もうひとつぶん、おもみをあずけた。


帝国暦849年。冬。

三位一体の少女は `伏せ床` の内側から、ここで必要なのが `見ないこと`、`名を重ねないこと`、そして `最後に残す手と声を厳しく絞ること` だと感じ取ります。

彼女は、ミナを最後の接触者にしないこと、カイルの `左` とレオンの `肩` だけを残すこと、さらに `数えるだけの名のない声` で眠りへ入ることを自ら告げ、ようやく `ひとりじゃないまま眠る` ための条件を確定させ始めたのです。

お読みいただきありがとうございました。感想・ブックマークお待ちしています!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ