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泥濘のレクイエム ―英雄の残火と、継ぎ接ぎの神魔―  作者: 堀吉 蔵人
第3章 黒土の祈りと、泥濘の帝都

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第31話:泥濘に咲く、最後の抱擁 【リノ】

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「勝手なこと言わないでよ、アレン!」


私は我慢できずに、二人の間に割って入りました。

頬を煤で汚したまま、私はアレンの胸ぐらを掴もうとして――そのあまりの細さに、また涙が出そうになりました。


「あんた、自分のことしか考えてない!

自分の罪を片付けたいだけでしょ!? 残される側の気持ち、少しは考えなさいよ!

エリスさんを一人にして、自分だけカッコつけて死ぬつもり!?」


私の叫びに、アレンは悲しそうに目を細めました。


「リノ。

……今まで、ありがとうな。お前の明るさに、俺は何度も救われたよ」


「お礼なんていらない! 欲しくない!」


私はアレンを突き飛ばしました。

彼が私に向けるのは、いつだって「感謝」だけ。


その奥にある特別な場所には、最初から最後まで、一ミリだって私は入れなかった。


「リノさん。……ありがとう。この人を支えてくれて」


エリスさんが、私を静かに見つめました。

その瞳には、私への嫉妬なんて欠片もありませんでした。ただ、同じ人を愛してしまった者同士の、ひどく悲しい連帯感。

彼女はアレンに向き直り、今度は泣かずに、凛とした声で告げました。


「アレン。

……私、許さないわよ。

あなたが帰ってこなかったら、一生、あなたのことを呪ってやるんだから。

……私を一人にして、自分だけ聖女様のところへ行くなんて、絶対に許さない」


アレンは、一瞬だけ目を見開きました。

そして、彼はゆっくりとエリスさんを抱き寄せました。

泥だらけの腕で、数年間、ただ触れることさえ叶わなかった、その温もりを確かめるように。


「ああ。……必ず、戻る」


それは、嘘つきな元英雄の、人生で最後になるかもしれない誓いでした。


アレンはエリスさんを放すと、一度も振り返らずに、燃える帝都の街並みへと歩き出しました。

その隣には、短剣を弄ぶゼクスさんと、骨槍を担いだガルドさん、そして「付き合ってやるよ、大馬鹿野郎」と悪態をつくセト君。


泥だらけの戦士たちの背中。

それを見送る私の隣で、エリスさんは崩れ落ちるように膝をつきました。


「リノさん。私、怖いの」


彼女が、私の手を握りました。その手は、驚くほど冷たかった。


「アレンは、自分を許してほしいなんて思ってない。

あの子……魔王シオンに、自分を殺させて、罪を終わらせようとしている気がするの」


「させないよ」


私は、エリスさんの手を強く握り返しました。


「あの馬鹿は、アタシが何度も死の淵から連れ戻したんだもん。

……エリスさんの呪いを解くために、何万回も泥水を啜ってきたんだもん。……あんなところで、簡単に終わらせてたまるもんですか」


私は、背嚢からタンバリンを取り出しました。

叩く気力なんてなかった。けれど、これを持っていないと、私はただの「置いていかれた女の子」に戻ってしまう気がしたから。


帝国暦846年。12月。

帝都の中央、アレンの銅像が建つ広場では、魔王となった聖女が、愛する男の到着を待っている。


「行こう、エリスさん。……アレンが帰ってくる場所、私たちが作っておかなきゃ」


私は空から降る黒い雪を見上げました。

恋は終わった。

けれど、私の「相棒」を救うための旅は、まだ終わっちゃいない。


私はエリスさんを支えて立ち上がりました。

泥だらけの愛の、本当の結末を見届けるために。

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