【絢音】運命を超えて【瞳中の夢】
「少しコツが掴めてきたかも。やっぱりバランスが大事だね」
絢音はザコ敵を斬り伏せながら、エネルギーゲージの残量を確認する。
「特殊個体はたくさんエネルギーをくれるけど、そのぶん倒すのも大変なんだよね」
艦砲のエネルギー不足を防ぐには、ある程度の雑魚敵を確実に倒す必要がある。
とはいえ、特殊個体を完全に無視するわけにもいかない。
あちらは船体へのダメージも大きいからだ。
最初の二回は、絢音はこれまで通り【異星の洗礼】を選択し、自身の戦闘能力を強化した。
「うん、いい感じ。かなり順調かも」
次のウェーブでは、さすがに少し苦戦した。
二体同時に現れた特殊個体を相手取るのは、結構大変だった。
「これで決めるっ!」
最後の一撃で、カニのような甲殻を持つ特殊個体を撃破する。
「よし、エネルギー800まで溜まった!」
その直後、巨大なタコが触手を振りかざして襲いかかってきたが、
艦砲の一撃によって海水へと還り、轟音とともに沈んでいった。
「よくやった! もうすぐ嵐を突破できるぞ!」
豪雨の中、金髪の男が豪快に笑いながら叫ぶ。
「おっ、ついに!?」
今回【禁忌の過負荷】で艦砲を強化した絢音は、気合を入れ直して次のウェーブへ挑んだ。
最初に特殊個体が一体現れるのはこれまでと同じだったが、
明らかに雑魚の数が少ない。
「……ってことは、そのぶん後ろが危ないってことだよね」
予感は的中した。
後半、一気に二体の特殊個体が同時出現する。
だが、ここまでの経験を積んだ絢音は、冷静に対処していった。
そして――
前方の海面に、いくつもの巨大な渦が出現する。
次の瞬間。
複数の蛇の頭が海面を突き破り、船に向かって一斉に牙を剥いた。
「来たっ!」
絢音が発射ボタンを押す。
だが今回、照準が捉えていたのは頭部ではなく海面そのものだった。
「頭が多すぎるから、胴体をまとめて撃ち抜くのよ」
金髪の男の後ろで、赤髪の女性が片目を閉じ、指で銃の形を作る。
白い閃光が海面を貫いた。
多頭蛇はそれぞれ異なる悲鳴を上げながら崩れ、
やがてすべてが海水へと還っていく。
「次が最後のウェーブですわ。これを越えれば、嵐を抜けられます」
ナイアが紫煙をくゆらせながら、ゆったりと告げた。
「えっ、もう?」
絢音は少し名残惜しそうな声を漏らす。
この防衛戦のシステムは、思った以上に楽しかった。
「でも最後ってことは……絶対すごいのが来るよね」
前回は第四ウェーブで敗北している。
この先の展開は、彼女にとって完全に未知の領域だった。
ここまでの戦いで、船の耐久値もかなり削られている。
「安全のために、ここは修理かな」
絢音は【旧支配者の時戻し】を選択した。
淡い光が船体を包み込み、耐久値が一気に最大まで回復する。
「よし……来い!」
水を一口飲み、絢音は気持ちを整えた。
そして、ついに最終ウェーブが始まる。
「うそ、いきなり二体!?」
開幕から、これまで登場した甲殻型の特殊個体が二体同時に出現した。
だが、すでに対処法は身についている。
落ち着いて撃破。
「まだいるの!?」
続いて四本腕のナーガと双頭のサメ。
さらに、それを倒した直後。
追加で二体の特殊個体が出現した。
「えぇっ!?」
:製作者の殺意高すぎw
:特殊個体六体!?
海面が大きく盛り上がる。
次の瞬間。
船よりも遥かに巨大な腕が、水の中から現れた。
正確には、海そのものが形を成した巨大な手が船を掴もうとしていた。
「させるか!」
金髪の男が高く跳び上がる。
いつの間にか右手には鋼鉄の拳甲が装着されていた。
巨大な手と、拳を振るう一人の男。
まるで蟻が象に挑むような、常識外れの光景。
しかし、勝ったのは蟻の方だった。
轟音とともに巨大な手が弾き飛ばされ、海面へと叩きつけられる。
その衝撃で生まれた大波に、船体が激しく揺れた。
「気をつけろ! 本命が来る!」
金髪の男が叫ぶ。
直後、巨大な手が海面を押し支えた。
まるでそこに見えない大地でもあるかのように。
海水が際限なく上昇し、やがて空の大半を覆い尽くす。
海そのものが、人の姿を取っていた。
威容を誇る上半身が、船の行く手を塞ぐ。
暴風が唸りを上げる。
雷光が双眸となり、巨人の目に宿る。
そして、大きく口を開き――
世界を揺るがす咆哮を放った。
【海の主 不息嵐神 降臨】
「でっか!? これ……神様なの!?」
絢音は目を輝かせた。
絶望するどころか、その瞳には挑戦への高揚が宿っている。
嵐神は右拳を高々と振り上げ、
山のような質量を伴って叩きつけようとする。
「ここは私たちにお任せください!」
赤髪の女性が叫ぶ。
無数の円形魔法陣が空中に展開し、鎖となって巨人の右腕を拘束した。
「凍れ」
灰髪の少女が静かに囁く。
小さな手がひらりと動く。
瞬間、指先から肩まで、右腕全体が氷に閉ざされた。
「すごい!」
絢音が思わず声を上げる。
嵐神は右腕を動かせないと悟り、左腕を振り上げた。
「だから言っただろ、させねぇって!」
金髪の男が両拳を打ち合わせる。
次の瞬間、全身を精巧な動力鎧が覆った。
右拳を大きく引き――
放つ。
圧倒的な衝撃波が、巨人の左腕を再び弾き飛ばす。
「今ですわ、星野様」
ナイアの声とともに、赤い照準が巨人の顔面を捉えた。
「わかってる!」
絢音は迷わず発射ボタンを押した。
滅びの白光が奔る。
だが、巨人の前には暴風の防壁が展開されていた。
激しく拮抗し、光の残滓が四方へと飛び散る。
嵐神が咆哮する。
それでも、ついに防壁が砕け散った。
巨人の頭が大きく仰け反り、動きが止まる。
その瞬間、絢音は理解した。
「今です!」
星野光を操作し、凍りついた右腕を駆け上がる。
双剣を構え、高く跳躍。
閃光のような斬撃が、巨人の眉間を貫いた。
――ピシッ。
小さな亀裂が生まれる。
それは瞬く間に全身へと広がっていった。
嵐神は最後の咆哮を上げる。
そして次の瞬間――
神の巨躯は轟音とともに崩壊し、
遮天蔽日の海となって一気に崩れ落ちた。
「勝ったーっ!」
絢音は歓声を上げた。
気づけば、風も雨も完全に止んでいた。
眩しい陽光が降り注ぐ。
穏やかな海の上を、船は静かに進んでいく。
遠くには、うっすらと陸地の影が見えていた。
【実績解除:運命を超えて】
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