宿の修繕費ってどのくらい?
初めて「その後」的なのを下部に入れてみましたが、こんな感じでいいのだろうかと悩みました。。
宜しくお願いします!
宿への帰り道。
「……一人ついてきているか」
「そうみたいだねぇ」
「?」
「まあ監視だろうな」
「捕まえる?」
「いや、問題ないだろう」
「はーい」
「?? え、何?」
ヒースさんとオリちゃん二人で会話が完結してるけど何?
監視て?
「屋敷から我々の跡をついてくるものがいる」
「え、跡をつけられているなら撒いた方が良くないです?」
「いや、恐らく我々の宿も既に知られているだろうから問題はないな。この街を出てもついてくるようならば対処すれば良いだろう」
「ああ、そうか、イユーさんを人質にとかも言ってましたもんね。結界張ってあるから大丈夫だと思いますけど」
と言うことで、ついてくる監視は無視して宿に向かっていると、どんどん人が増えているような気がする。
終いには、宿の方角から薄煙が上がっている。
まさかね……イユーさんを捕らえる為に宿を壊したりなんてしないよね、良識ある兵士だったら。
「……」
「今日寝るところが大変だ!」
「オリ、今はそこではないな。それと、我々の部屋は隣だ」
良識なかったみたい。
だって、宿の二階から煙が上がってるもん、しかも私たちの隣の部屋から。
木窓も壊れてるし、隣の部屋の宿泊者は大丈夫かな……
周りにいる沢山の野次馬を掻い潜り宿に辿り着くと、入り口は壊されており、中が丸見え状態に。
一階が酒場になっているそこには、防具を付けた冒険者らしき人達が何人か倒れていて、その人達を手当てしている人がいた。
そして奥のカウンター付近には。
「お父さん、しっかりして!! 誰かポーションを下さい!!! 誰かっ!」
私たちが宿に来た時受付をしてくれた十代前半位の赤毛の女の子が、倒れた体格の良い男性の胸元に布を当てて、手で押さえながら叫んでいた。
横たえられた男性の周りは血溜まりで、胸元の布は真っ赤だ。
「っ! 関係ない人までこんなに巻き込んでッッ!! オリちゃんはそっちの男の人達をお願い! ヒースさんはイユーさんの所へ!」
「はーい!!」
「承知した」
急いで二人に指示して、私は赤毛の女の子の所へ。
倒れている男の人はもはや意識はなく、顔面蒼白で呼吸は浅くとても速い。
ヤバそうな容態である事は一目で分かったから、エリクサーを取り出す。
「ごめんね、迷惑かけて。これ」
「っ!? ポーション!? あり、ありがとうございます!!」
エリクサーを受け取った女の子は素早く蓋を開け、押さえていた布を取り胸元の傷口に勢い良くかけた。
剣で刺されたような傷口は、エリクサーを掛けるとキラキラ光りながら徐々に塞がっていった。
それと同時に男性の顔色も明るくなり、呼吸が正常に戻る。
何度見ても神秘的で信じられない光景だ。
「え……な、に、これ……上? え、ど、」
「中級だよ」
「え、う、え? 中級? え?」
「うん、中級だよ。もう大丈夫そうだね、お父さん」
「え、あ、おと、え? あ、お父さん……」
赤毛の女の子が、とても現実だとは思えないような顔をして、私の顔と親父さんの顔を交互に見て混乱している。
その混乱に乗じて中級ポーションと言い張る私。
親父さんの出血量から見ても中級でこれまで回復するわけがないのは明らかだけど、ここは堂々として言えばいける気がする。
「誰か手の空いてる男の人にお父さんを運んでもらってね」
「うぇ? おか、お金、」
「トコ様、こっちは終わったよ!」
「あ、オリちゃんありがとう! ヒースさんのところに行こう」
「うん!」
まだ状況を理解出来ていない女の子を置いて二階への階段を上がると、廊下にブラッハムさんの屋敷で見た紋章と同じものが描かれた騎士服を着た男性が四人倒れていた。
ヒースさんの姿は廊下に見当たらないから、イユーさんのいる部屋に入っているのかも。
私達はちゃんと入れるように設定してるからね!
私たちの部屋は二階の中央あたりだったけど、私たちの奥の部屋の扉が粉々になっていてそこから煙が出ている。
私たちの部屋は無傷だ。
流石“予定”スキル様。
そして、ガチャっという音と共に私たちの部屋の扉が開くと、ヒースさんにお姫様抱っこされたイユーさんが出てきた。
まさに姫だ、うらやま……なんて思ってない。
「……王子感が強いなヒースさんは」
「なんだ?」
「いや、なんでも」
「ユエ様、申し訳ございません」
「!? イユーさん謝らないで! 自分が居た堪れないから!」
イユーさんに謝られると何だか自分が痛々しく感じるからやめて!
何も気にしてないったらない!
「ヒース様は悪い男なんだね」
「? 何の事だ? それよりオリ、つけてきたやつを捕らえてくれ」
ヒースさんを悪い男認定したオリちゃんだけど、どんな意味で悪い男認定したのかな?
それでもヒースさんに監視役を捕まえてと言われると素直に「はーい!」と言って消えた。
本当消えた。
そして、一階方面からドゴッて鈍い音と「つっかまえたよー」って聞こえたけど、瞬間移動でもできるのかね、オリちゃんは。
何だか前以上にオリちゃんの戦闘力が上がってる気がする。
「ヒースさん、今更ですけどオリちゃん強過ぎません?」
「……考えてもみろ、あの瘴気に覆われていたロッテントークで暮らしていた種族だ、瘴気の影響が少ないこの大陸では数倍の力を発揮出来ても不思議ではない」
「あぁ……そうだ……ロッテントークには、他の大陸の人は上陸すら出来ませんもんね……忘れてた」
そうだすっかり忘れてた。
瘴気に囲まれて生活するって、常に体に負荷をかけた状態で生活してるって事だよね。
しかも、他の大陸の人では耐えられない程尋常でない負荷。
レベルもそうだけど、そもそも敵いっこないんだ、ヒューマニア大陸の人達じゃ。
「ヒースさん、私壊された隣の部屋見てから行くので、先にオリちゃんと合流していて下さい」
「わかった」
廊下に転がった兵士たちを避けて、壊された隣の部屋を確認したけど、幸い怪我をした人は居なかった。
でも、所々壁が焼けてたり、設置されてた家具類は壊されてたりと部屋の中は酷い有様。
これ、入口の修理も含めたら直すのにお金かなりかかるよね?
この宿は三階建てで、まあまあ部屋数もある。
このくらいの宿を建てるとなるといくらくらいかかるんだろう。
宿一軒の値段なんてわからないし、修繕費の見当なんて全くつかない。
建て替えじゃなくて修繕で済むなら、大金貨十枚あれば平気かな?
うーん、もしかしたら足りないかも?
砦でもらった分から出せば良いから、二十枚にしとくか。
それでも不安だから、前にヤヴォン国王を助けた時にもらった宝石一つ入れておこう。
ストレージから小さな巾着を出し、そこに大金貨二十枚と別の小袋に水色の宝石「アクアマリン」を一つ入れた。
一階に行くと、オリちゃんの横に転がった人と、ヒースさん、イユーさんが待っていてくれた。
私が一階に降りると同時ぐらいに、この町の衛兵と思われる人達が入ってきたので、慌てて“隠匿操作”を自分にかけ、二人に私に触れてもらい気配を消す。
イユーさんは私が触れているから大丈夫。
間一髪でバレなかったっぽい。
「オリちゃん、その転がった人運んでもらって良い? ヒースさんはイユーさんをもう一度抱えてもらえますか? 一旦宿から出よう」
小声でそう指示して、人を抱えてくれた二人の背中に触れ、そーっと宿を出た。
これが今日一番ヒヤヒヤしたわ。
人気のない所について“隠匿操作”を外す。
「ちょっと、私宿の人に迷惑かけちゃったから修繕費払ってくるね」
「わかった。私は今から出られる馬車があるか調べよう」
「アタシはー?」
「オリちゃんはイユーさんの護衛と、この人が目を覚さましたらまた眠ってもらって」
「はーい」
「ユエ様、ご迷惑おかけして申し訳ございません」
「あ、全然、寧ろ私のせいだと思うんでごめんなさい。ちょっと待っててくださいね」
そう言って、“隠匿操作”で気配を消して急いで宿に戻ると、赤毛の女の子の親父さんが目を覚ましたようで、座りながら衛兵に事情を聞かれている。
女の子は心配そうな顔をしながら親父さんの横に立っている。
流石に声を掛けたら衛兵達や親父さんにもバレてしまう距離だから、“予定”スキルに女の子に宿の裏へ来てもらうよう入力した。
名前は“鑑定”スキルで確認済みだ。
「あ、貴方は、あれ? わたし何しに来たんだっけ?」
「宿に迷惑をかけてごめんなさい。私達はもう街を出るから、これ、足りないかもしれないけど、修繕の足しにしてもらえれば」
「え? え、でも、さっきポーションを」
「うん、あれの代金もいらないから、本当にごめんね、じゃ」
「えっ!? ちょ、ちょ!? えぇぇぇ!!!」
もう無理矢理ね、話も聞かずにね、渡すもん渡して“隠匿操作”発動したから、女の子はめちゃくちゃ驚いて、咄嗟に渡された巾着の中身を見てまた大絶叫してた。
最後に耳元で「盗まれないようにね」と言うと、「ぎゃーーーっ!」ってまた叫んで宿の中に駆けて行った。
いっぱい驚かせて、迷惑かけてごめんよ少女と親父さん。
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その後の宿にて
「おと、おと、お父さーーーーん!」
「ん? なんだ?」
親父に話を聞いていた衛兵と親父が、赤毛の女の子に顔を向ける。
「あ、いや、ごめ、後でいい、かな」
「そうか。悪い、話を遮った。で、宿泊客に男一人、女二人、子供一人で部屋を取った奴がいるだろう、その部屋の番号を教えろってその一点張りでよ。知らんと突っぱねてたら急に慌て出して俺に切り付けて来たんだよ」
「ああ、ひどい出血だった様だな。しかし、傷はどうした?」
「あー、それが俺も良くわかんねーんだ。胸を剣で突かれたのは覚えてんだが、起きたら治ってた。突かれた時は死んだと思ったんだがなー」
「ポ、ポーション……を……」
「あ? ああ、そんなこと言ってたな」
「ポーションでその血溜まりの状態を?……その下の血はあんたのだよな?」
「……ああ、その血も、このシャツと布の血も俺のだな……」
「何かのスキルか?? ありえない出血量だろうこれは」
「鍛えてはいるが、運が良かったのか、日頃の行いかねえ……」
「「……」」
自分で言った言葉にどこか納得いかない様子の親父と衛兵だが、その後一通り事情聴取を終え、衛兵達は騎士服を着た人たちを連れていった。
「命が助かっただけマシだが、どうすっかなあ、これから。襲った奴ら見る限り、貴族が関わってそうだしよう。金を巻き上げられる気がしねえ。はぁ、あいつと二人で手に入れたこの宿が……」
「……お父さん」
「なんだ? さっきから」
「これ……」
「ん? なんだこの袋。って、ジャラジャラ音がするがお前のへそくりか? いらねーよ、ちゃんととっとけ」
「違うの!!! これも、お父さんを助けてくれたポーションも、同じ女の人から貰ったの!!!」
「貰っただあ? ……お、おい、何だこの金貨、いや初めて見るが、だい、大金貨な、の、か? ……なんだこの量……それにこのちっせぇ布。お、おま、これ、宝石じゃねーか……」
「最後に盗まれないでって言ってどっか行っちゃったの」
「……」
「多分、あの襲って来た人達が探してた部屋の人だと思うっ」
「……こりゃ、部屋と入り口の修理どころじゃねえ、借金も返せちまうよ……」
「おと、と、うわーーーーん!!! 一人になるのかと思ったよーーー! 無事で良かったよーーーー!!」
「泣くの我慢してたのか。心配かけて悪かったな……しかし、これ、どーすっかなあ……良いのかよ使って……でも誰に返していいかわかんねぇしなあ。うん? ちょっと待てよ? こんな量の大金貨をポンと渡すようなやつが飲ませたポーションって……ッ!?」
親父に抱き着いて泣きじゃくる女の子と、出血多量の時よりも一層蒼い顔の親父との感情の温度差は計り知れない。
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