混乱させられてたようだ
毎度遅くて申し訳ないです。。
「落ち着きました、ごめんなさい」
そう言って口をハンカチで拭きながら、茂みから出てきた私。
目の前には無惨な姿のキュクロープスと、傍に満面の笑みのオリちゃん、毛繕いをしているグンちゃん、無表情のヒースさん、苦笑いのナージンさん、それと見た事のないローブを着た男性が手足を拘束され地面に転がっている。
キュクロープスの無惨な姿と言ったが、そっちは未だ直視出来ないので、目を細め視界を薄ぼんやりさせている。
そんな状態でキュクロープスの近くまで行き、軍手をし、かの死骸をストレージに収納した。
なかなかの苦行だ。
「うっぷ……で、その転がってる人がもしかして?」
「ああ、ナージン殿が見つけ、捕縛した」
「流石……」
「恐らく、キュクロープスをその場に留めるような魔法を張り続ける必要があったんでしょうな。キュクロープスが倒され、逃げようとしていた所を捕縛した次第です」
「普通、追い付くのも大変だと思うのに……今のナージンさんの姿からはなかなか想像できないですが……」
「ハッハッハ、この姿は仮ですからな。まだまだ現役ですぞ」
ナージンさんは見た目小太りな商人風だ。
その何処にも機敏さは伺えないのに、あっさりと敵を見つけ捕縛するとは、捕まった敵兵もビックリだろう。
でも以前見た、商人に変装してないナージンさんの姿はシュッとして凛々しかったなと思い出した。
どうやって違和感なく変装しているかなどは、企業秘密と教えてはくれなかったけど。
「トコ様、お腹すいたよー」
魔道具のランタンで照らしているが、もう辺りは真っ暗である。
グンちゃんに乗って帰ればすぐ砦に辿り着けるが、砦内の物資が足りない状況を先に改善したい。
流石に医療物資が足りなくなるのは由々しき事態だと思うんだよね。
「オリちゃん、もう少し我慢できるかな? 近くの街まで行って、この敵兵を引き渡したいの。それと足りない物資も運びたいんだ」
「うん、わかったぁ、でも……トコ様、チョコ、食べたいなぁ……」
「ふふふ、ありがとうオリちゃん。頑張ってくれたもんね。今出すね」
「やったぁ〜!」
なんて聞き分けのいい子なのか。
そして、あざとくも上目遣いでチョコを食べたいと強請るオリちゃん。
めちゃくちゃ可愛いんですけど!
ご飯前にお菓子はと思ったけど、砦に帰るのはもう少し時間がかかりそうだし、頑張ってくれたからあげないわけにはいかないね。
「ユエさん……またそのような物も……」
「あっ、ハハハ……見なかった事に」
ストレージから何かを出す度にナージンさんの鋭い視線が刺さる。
そんなナージンさんの視線は一旦置いておき、グンちゃんに近くの街まで運んでもらう事になったが、流石に大人四人とオリちゃんを運ぶのは厳しいから、二回に分けて運んでもらった。
オリちゃんとナージンさんが先に街へ行き、敵兵を引き渡す手続きをしてくれる。
次に私とヒースさん。
グンちゃんには街の近くで下ろしてもらった時に、お肉をまた奮発して出してあげたら喜んでくれていたように感じた。
毎度ありがとうね、グンちゃん。
街の入り口は既に閉門の時間で閉められていたが、先に行ったナージンさんが門兵に話をつけてくれていたから、身分証を提示するだけで中へ入れてもらう事が出来た。
それから、門にいた兵士にナージンさんが居るところまで案内してもらい、合流。
ここでも既にナージンさんが滞っていた物資類を砦へ全て運びますよと交渉済みで、スムーズに倉庫へと案内してもらえる事になった。
しかし、ちょっとスムーズ過ぎないかい?
普通ただの商人をここまで信じるかな?
いや、実際ただの商人ではないんだけど、表向きは名の知れない商人のはず。
モジンバル帝国側の人間と疑われても仕方ないのに、兵士達の態度からはそんな感じが一切しない。
ナージンさんの交渉を見ていないから何とも言えないが、敵兵を捕縛したって言うのも大きいのかな?
あ、倒したキュクロープスを街の外で確認してもらってるってのもあるのかも?
出した時みなさん絶句してたし。
しかも、大き過ぎるから確認だけで、引き取りは拒否されちゃった。
あのグロい状態を出すのも嫌だったのに、また仕舞う羽目に。
またこの苦行が待っているのか……
まあでも、落ち着いたらメズラム国王都で引き取ってもらわないとな。
そして、案内された倉庫には沢山の物資が置かれていた。
食糧や医療系、武器、防具など必要なものを、手当たり次第にストレージへ詰め込んでいたら。
「あ、あの! 流石にこれ以上は……」
「え? 全部いけますけど?」
「へっ? そんな、まさか……ま、街の防衛分もありますので、そこまでにしていただけますでしょうか……」
案内してくれた内勤っぽい職員さんに止められてしまった。
全部はダメだったらしい。
じゃあ、そろそろ砦にとみんなの方を向いたら、オリちゃん以外の二人に冷めた目で見られていたのはもう気にしない。
メージー砦に戻り、初日同様砦の倉庫に案内してもらい、物資をこれでもかと放出し、兵士がまた顎を外すぐらい驚いているけど、これも気にしない。
後ろでナージンさんが兵士に口止めらしき事を言ってるのは聞こえたけど、聞こえないふりをしておいた。
ご迷惑おかけします。
ついでにキュクロープスは討伐されている事も伝え済みだ。
物資が届いたという知らせを聞いた医療班の人も来て、これで暫くは保つと感謝された。
役に立てて良かった。
ようやく私たちは食堂の席につき、一息つく。
時刻は夜九時を回っていた。
今日は食糧の補給もされた事から、食堂のご飯を頂ける事になった。
遅い時間ではあるが、ありがたいことに用意してくれて、定食のようなワンプレートタイプのものを頂いた。
オリちゃんは「お腹ぺこぺこだよー!!」と言いながら勢いよく食べていた。
いや本当にごめんよ、オリちゃん。
大人の事情に付き合わせてしまった挙句、ちゃんとした時間にご飯を提供できなくて。
明日からは夕食が遅くならないようにします。
それから、各自部屋に戻り就寝となったが、私はオリちゃんが眠りについてから【買い付け】アプリで大きめのソーセージが挟まれたホットドッグやサンドイッチ、コンビニおにぎりを大量購入した。
ついでにコンビニ肉まんも。
コンビニ弁当系も購入できるが、容器がこの世界にないものだから流石に自重した。
これだけ買えばいつでも軽食が取れるから良いかな。
今日は時間がなかったが、今度街に行ったらシチューやスープ系をまた大量に購入しよう。
明日以降余裕ができれば自分でも作ります、多分。
モジンバル側からの襲撃も無いからか、今夜も砦内は静かだった。
♢♢♢
「ユエさん、何かしましたね?」
「へっ?」
翌日、食堂で昼食を取っていた時にそう言ってきたのは、鋭い目つきをしたナージンさんだ。
私とオリちゃんは、午前中医療班のお手伝いで怪我をした人たちを治療していた。
ヒースさんは兵士と共に砦周辺の見回り。
ナージンさんは言わずもがな情報収集をしていたはずだ。
「それを召し上がられたら、部屋でお話があります」
「……ゴクン。はぃ……」
勘付かれたか。
ナージンさんの顔が怖すぎる。
「それで、何をしたのですか?」
「……」
「トコ様、おじさんのお顔怖いね……」
「んん?」
オリちゃん、いつも空気読んでくれるんだから、是非とも今もお願いしますよ。
この部屋が土足でなかったら、床に正座しててもおかしくないくらいナージンさんからの圧がすごい。
「え、えと、敵の本陣に……連絡手段を断ち、敵兵が出入り出来ないように結界を……ナージンさんが怒ってるって事は、成功してたって事ですよね?」
「ユエさんあなた、自分がした事の異常さをわかっていませんね!!」
「え、いえ……わかってはいるんですが……はい、すみません」
「なんですか、今の条件の結界は! そんな結界などあり得ないんですよ!! 攻撃のみを防ぐ結界ですら習得出来る者は少ないと言うのにあなたは!!」
「は、はぁ……」
「はあ、ではありませんぞ! 馬や鳥は本陣を行き来出来るのに、兵士や馬に括り付けた書簡は通れず。敵陣は今大混乱となっています」
「おおぉ……希望通り……流石神様」
「はあぁぁ……」
深いため息を吐くナージンサン。
どうやら私が結界を張った時、敵本陣では指揮官の将軍や副官、隊長レベルの人達が集結して軍議をしていたそうな。
軍議が終わっても戻って来ない隊長たちを心配した兵が来てみると、既に近寄れない様になっていたんだと。
結界は半透明らしく、将軍や隊長の無事は確認出来たものの、声は届かず、読唇しようとすると見えなくなるとか。
もちろん紙に書いても無意味。
隊長クラスの人達と連絡の取れない一般兵は大混乱で、攻めるに攻められない状況に陥っているそうだ。
無策で挑んだところで負けは見えてしまってるよね。
しかし、今更だけど、“予定”スキル半端ねぇわ。
実際見てはいないけど、聞いただけでも異常である事は理解したよ。
それにしても……
「ナージンさん、そんな細かい情報をどうやって……?」
「秘密です」
「あ、はい……そうですか」
まあ、聞いても私にはできない芸当だろうし。
きっとナージンさん以外にもヤヴォン国の諜報員がいて、連携をとっている可能性が濃厚かな?
ため息をつかれ呆れられ、怒られながらも敵の本陣の状況を聞けて良かった。
暫くはと言うか、今こちらに向かっているカジさん達が到着するまではどうにもできないんじゃないだろうか。
きっとこの事はメズラム国側メージー砦の指揮官も得ているよね。
これからメズラム側がどう動くかは私にはさっぱりわからない。
でも、少しは犠牲者を出さずに済むかな?
ここまで、お読みくださりありがとうございます!




