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連続性

 再編纂稿の目次を開いた。


 古代認証技術。


 復興期。


 現代認証制度。


 三つの見出しは、すでに分けてある。


 問題は、その間に残っている文章だった。


 古代の認証器は、現在の門番へ発展した。


 以前の原稿には、そう読める記述がある。


 研究者は、その一文を外した。


 古代の認証器は人工物だった。


 利用者本人の確認を行い、秘密鍵を保持し、必要な処理を行う。


 現在の門番は、その機構を受け継いだものではない。


 一方で、復興期の記録には、古代資料から読み取られた本人確認の機能を、既存の門番へ配置した経緯が残っている。


 技術的な継承は確認できない。


 制度形成への影響は確認できる。


 そこまで書いて、次へ進んだ。


     *


 公開鍵の節は短くなった。


 古代側では、認証器が保持する秘密鍵によって署名し、相手方が登録された公開鍵を用いて検証する。


 現在の認証済票は、その仕組みではない。


 復興期には、本人確認の結果を後段へ渡す既存の運用と、古代資料の公開鍵が機能上対応づけられた。


 似た機能はある。


 配置が違う。


 以前なら、その間を一つの系譜としてつないでいた。


 今は分けて書ける。


 物理鍵も同じだった。


 古代の Physical Security Key は、利用者が保持する物理的な認証器。


 現在の物理鍵は、資格を持つ王族による直接認証制度。


 王城には、復興事業以前から高位区画での直接確認があった。


 復興期に両者が対応づけられた記録はある。


 同じ技術であることを示す記録はない。


 登録の節では、さらに境界がはっきりした。


 古代の Registration では、後の認証に用いる資格情報が生成され、公開鍵資格情報が相手方へ登録される。


 現在の初期認証では、認証担当者へ業務権限が委任され、資格と実施可能範囲が登録される。


 何を生成し、何を登録し、誰が保持し、誰が検証するかまで書けば、別の処理だった。


 研究者は、その二つを同じ段落から外した。


     *


 すべてを古代側と一つずつ比較する必要はなかった。


 代理口。


 保護。


 第三認証。


 成立経路は、すでに確認している。


 代理口は、復元した認証運用を実際に回す中で、通常方式を利用できない者への経路として整備された。


 保護は、認証制度成立後に安全技能として加わり、標準化された。


 第三認証は、復興期の資料検討で残された別方式の候補から、試行と運用を経て制度へ入った。


 その成立時に参照された成人向け出版物十二点については、出典評価を更新した。


 真正な古代資料である。


 複数の著者による。


 刊行時期にも幅がある。


 だが、同一所有者に由来すると判断できる。


 この十二点だけから、同種の表現が古代社会に広く共有されていたとは判断できない。


 それ以上は書かなかった。


 その後の試行と制度形成は、別の資料で確認できる。


 成立時の史料評価を変えても、後に起きた出来事まで変わるわけではない。


 逆も同じだった。


 後に制度として定着したことが、成立時の史料解釈を正しかったことにはしない。


     *


 午後、再編纂稿の冒頭へ戻った。


 最初に書いた問いが残っている。


 現在も妥当か。


 その下に、しばらく何も書かなかった。


 古代認証技術との一致だけを見るなら、答えられる。


 現在の認証制度は、古代のFIDO2をそのまま再現したものではない。


 古代の認証器。


 公開鍵。


 Physical Security Key。


 Registration。


 それぞれについて、現在の制度との機能上の対応や名称の継承は確認できる。


 復興期に古代資料が参照され、制度形成へ影響した記録もある。


 しかし、技術の配置と責務は一致しない。


 研究者は結論欄に書いた。


 古代FIDO2と現代認証制度の間に、技術的連続性は確認できない。


 読み返す。


 その下へ一行加えた。


 復興期における古代認証資料の参照と、機能的対応づけによる制度形成への影響は確認できる。


 二つを並べた。


 矛盾はしない。


 もう一度、最初の問いを見る。


 現在も妥当か。


 その問いには、注記を付けた。


 現在の制度の妥当性は、古代認証技術との技術的連続性のみからは判断できない。


 安全性。


 必要性。


 利用者の権利。


 運用条件。


 代替手段。


 それらを評価するなら、別の資料と別の検討が要る。


 今回の再編纂の範囲ではなかった。


 研究者は、最後の頁まで読み返した。


 古代認証技術。


 復興期の再構成と制度形成。


 現代認証制度。


 以前は一つの線で結んでいた。


 今は、それぞれの間に何があるかを書ける。


 修正箇所を一つ戻った。


 語を直した。


 もう一度読む。


 問題はなかった。


 再編纂稿を閉じた。


     *


 帰宅した。


 翌日は別の仕事をした。


 その次の日も、再編纂稿は開かなかった。


 数日後、最初から読み直した。


 語をいくつか直す。


 注記を短くする。


 出典番号を確認する。


 一箇所戻り、表現を直した。


 提出日までの日数を見る。


 翌日も、もう一度読んだ。


 結論は変えなかった。


 提出原稿を閉じ、研究院へ向かった。


     *


 王城第三門には、朝から列ができていた。


 勤務表を見る。


 リゼットの列は、隣より長い。


 列の途中で、二人の男が話していた。


「あれ、おまえ、こっちリゼットさんの列だぞ。ハンナさんはあっちだ」


「今日はリゼットさんに認証してもらおうかと思って」


「どうした。混んでても、いつもハンナさんだっただろ」


「衛生管理が強化されてさ。ハンナさん、全部剃ったんだよ」


「ああ。それは、まあ」


 前の者が少し進んだ。


 研究者は勤務表へ目を戻した。


 リゼットの列は、隣より長かった。


 提出原稿を抱え直した。


 最後尾に並んだ。


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