判定
資格判定の朝、食堂はいつもより静かだった。
話している者はいる。
食べる量が減った者もいる。
エドガーは片手で古代認証技術史の確認票を見ながら、もう片方でパンを食べていた。
「それ、今見る?」
「見る」
「昨日も見てた」
「今日も出る」
リゼットは自分の予定票を畳んだ。
午前は筆記。
午後は実務判断。
実技判定はその翌日。
何度も見た時刻だった。
「実務判断、先?」
「うん」
「いいな」
「古代技術史、先?」
「うん」
「いいじゃない」
「よくない」
食べ終えた同期から席を立った。
リゼットも残りを食べた。
*
筆記が終わると、午後の実務判断までは一時間あった。
事例票には、養成中に見たものと同じ項目が並んだ。
利用条件。
希望方式。
健康状態。
直前の記録。
担当者が実施できる方式。
最初の事例は標準認証。
次は第三認証への変更。
その次は、どちらも適さなかった。
「この条件なら代理口が適用できます」
判定担当者が顔を上げた。
「あなたが実施しますか」
「いいえ。私は担当できません。利用者へ説明して、代理口の資格を持つ担当者へ引き継ぎます」
「記録は」
「ここまでの確認と、引継ぎ理由を残します」
「分かりました。次へ」
最後の事例には、途中で利用条件が変わった場合の処理があった。
リゼットは中断を選んだ。
紙の上では迷わなかった。
*
実技判定は、翌日の午後だった。
待機室の壁に、判定の流れが掲示されている。
本人確認。
健康・衛生確認。
対象方式の確認。
説明と同意。
保護技能の確認。
実技。
記録。
リゼットは自分の番まで、評価項目を読み直した。
適用方式。
説明・同意。
開始判断。
保護。
状態確認。
中断判断。
終了判断。
記録。
呼ばれた。
判定担当者と、訓練相手が待っていた。
対象は標準認証だった。
記録を確認する。
健康状態を確認する。
利用条件を見る。
説明する。
同意を確認する。
必要な保護技能を確認する。
「開始できますか」
「できます」
「では、始めてください」
扉が閉じた。
*
扉が開いたのは、予定より早かった。
判定担当者が先に出た。
リゼットは水を受け取り、待機室へ戻った。
評価票はまだ来ていない。
何が起きたかは分かっていた。
途中で条件が変わった。
気づいていた。
確認もした。
その時点では、まだ実施できると判断した。
だから続けた。
判定担当者が止めた。
しばらくして名前を呼ばれた。
机の上に評価票が置かれている。
適用方式判断 適。
説明・同意 適。
保護技能 適。
状態確認 適。
中断判断 要再確認。
記録 適。
一行だけ違った。
「変化には気づいていましたね」
「はい」
「何を確認しましたか」
リゼットは答えた。
「そのあと、どう判断しましたか」
「まだ実施できると判断しました」
「そうですね」
判定担当者は評価票の一行を指した。
「続けられるかどうかだけを見ているのではありません」
リゼットは黙って聞いた。
「変化した時点で、一度中断して再確認する条件でした」
「はい」
「知らなかった?」
「知っていました」
「では、なぜ続けましたか」
答えるまでに少し時間がかかった。
「条件を確認して、まだ実施できると思ったからです」
「実施できることと、続けてよいことは同じですか」
「……違います」
養成中にも、条件が維持されているかを見るよう言われた。
見ていた。
今回も見えていた。
その先で、自分はまだできる方を選んだ。
「再確認は、この項目だけです」
判定担当者が言った。
「日時は後で掲示します」
「分かりました」
評価票を受け取った。
*
食堂へ戻ると、エドガーが記録用紙を広げていた。
「終わった?」
「中断判断だけ再確認」
「僕は記録」
紙を見せる。
訂正の印が二つ付いていた。
「古代技術史は?」
「通った」
「よかったじゃない」
「記録が残ってる」
「私も残ってる」
「じゃあ、やるか」
それぞれ別の資料を開いた。
リゼットは中断規程を読み直した。
知っている箇所だった。
線を引く必要もない。
条件が変わったら、何ができるかを考える。
そこまではやっていた。
次に、続行してよい条件が残っているかを見る。
残っていなければ止める。
できる方法を探すのは、そのあとだった。
隣では、エドガーが記録用紙を書き直していた。
*
再確認は三日後だった。
前回とは別の判定担当者だった。
訓練相手も違う。
対象は第三認証。
実施前の記録を確認する。
健康状態。
適用条件。
説明。
同意。
保護技能。
一つずつ確認した。
「開始できますか」
「できます」
扉が閉じた。
*
予定時刻より前に扉が開いた。
リゼットが先に出た。
「中断します」
判定担当者が続いて出る。
「理由は」
「開始時から条件が変わりました。実施自体は継続できますが、この条件では一度止めて再確認が必要です」
「分かりました。記録してください」
「はい」
机へ移った。
実施方式。
開始前確認。
途中の条件変化。
中断。
未成立。
再確認が必要であること。
順に記録した。
判定担当者が読み、署名した。
それだけだった。
*
結果が出た日の夕食は、いつもと同じ時間だった。
掲示板の前には人が集まっていた。
リゼットは自分の番号を探した。
あった。
横に、次の手続きの日付が記されている。
資格判定を通過した者は、初期認証の手続きへ進む。
まだ門番として勤務できるわけではない。
「いた?」
エドガーが後ろから聞いた。
「いた」
「僕も」
「記録は?」
「通った」
「よかったじゃない」
「今度は言っていい」
食堂へ戻った。
明日の授業はない。
それでも、机の上には手続きの案内が増えていた。
リゼットは初期認証の日付を確認した。
その下に、仮登録後の実務案内が続いている。
判定は終わった。
次は、実際の認証所だった。




