門番
初期認証の日、リゼットはいつもより早く目が覚めた。
起床時刻までは、まだ少しある。
机の上には手続き票が置いてあった。
氏名。
資格判定結果。
初期認証日時。
その下の業務欄は、まだ空いている。
判定には通った。
けれど、今の自分が持っているのは、認証業務を学び、判定を通過したという記録までだった。
昨日までの実技では、相手も指導員も、訓練としてそこにいた。
今日の手続きが終われば、その先にいるのは利用者になる。
自分が選んだ方式も、中断した理由も、引き継いだ先も、業務の記録として残る。
リゼットは手続き票を裏返した。
まだ早い。
もう一度寝るには短かった。
*
朝食のあと、寄宿舎の受付で手紙を受け取った。
両親からだった。
判定を通ったと知らせた返事が、ちょうど届いたらしい。
母の字で、おめでとう、とあった。
父の字で、まだ手続きがあるんだろう、と続いていた。
最後に二人の名前が並んでいる。
リゼットは読み終えて、封筒へ戻した。
「今日?」
エドガーが後ろから聞いた。
「うん。午後」
「僕、明日」
「知ってる」
「そうだった」
彼の手にも同じ形式の手続き票があった。
「緊張する?」
「する」
「試験終わったのに」
「試験じゃないから」
エドガーは少し考えた。
「それはそう」
昼まで、それぞれ別の準備をした。
*
初期認証の待機室には、同じ日に手続きを受ける候補者が並んでいた。
係官が一人ずつ書類を確認している。
名前。
判定記録。
健康確認。
実施される認証種別。
委任予定の業務範囲。
リゼットの番になった。
「記載内容を確認してください」
渡された紙には、自分の名前があった。
標準認証。
標準認証(第三認証)。
それぞれに必要な保護技能。
訓練中に何度も見た項目だった。
今までと違うのは、それが自分の訓練範囲ではなく、初期認証後に委任される業務の範囲として書かれていることだった。
「相違ありません」
「では、こちらで待ってください」
紙が回収された。
前の候補者が呼ばれる。
扉が開き、係官が名前を呼んだ。
候補者が立ち、入っていく。
扉が閉じた。
リゼットは膝の上の手続き案内を見た。
初期認証後、登録内容を確認すること。
仮登録中は指定された認証所で指導下実務を行うこと。
知っている。
養成中に何度も確認した制度だった。
それでも、自分の名前が入った書類を見ると、少し違って見えた。
認証を受けること自体は初めてではない。
境界を越えるたび、自分も利用者として門番に認証されてきた。
今日は、そのために来たのではなかった。
次に名前を呼ばれたあと、自分の名前には、他人を認証してよい範囲が記録される。
その範囲から外れたときに止めるのも、自分になる。
「リゼット」
顔を上げた。
扉が開いている。
第二王子殿下が待っていた。
リゼットは立った。
判定の日より、少しだけ緊張していた。
中へ入った。
扉が閉じた。
*
再び扉が開いた。
係官に案内され、隣の窓口へ移る。
登録票が置かれていた。
初期認証実施者。
日付。
認証種別。
委任された業務範囲。
仮登録。
自分の名前。
「内容を確認してください」
リゼットは上から読んだ。
標準認証。
標準認証(第三認証)。
保護技能の登録。
代理口はない。
三名並列もない。
間違いではなかった。
「相違ありません」
「署名を」
署名した。
係官が登録票を受け取る。
「仮登録を確認しました。指定された認証所へ、記載の日から出勤してください」
「はい」
勤務案内を受け取った。
紙の上に、自分が担当できる範囲と、最初の出勤日が並んでいた。
*
最初の指導下実務では、利用者を呼ぶ前に毎回確認が入った。
「記録は」
「確認しました」
「この条件なら?」
「標準認証で対応できます」
「説明は」
「これから行います」
「では、どうぞ」
リゼットは利用者を呼んだ。
説明する。
同意を確認する。
必要な確認を終える。
扉が閉じる。
開いたあと、記録を書く。
指導担当者が読む。
「確認しました」
次の利用者を呼ぶ。
最初の数日は、その繰り返しだった。
第三認証が適する利用者もいた。
開始前に条件が変わり、方式を選び直したこともあった。
記録の書き方を一度直された。
説明の順番を戻されたこともある。
日が進むにつれて、利用者を呼ぶ前の質問は減った。
「この条件なら?」
「第三認証で対応します」
「理由は」
答える。
別の日には、記録を見せるだけになった。
その次には、指導担当者は少し離れた席で別の記録を確認していた。
*
ある日の午後、利用者の記録を確認した。
希望方式は標準認証。
開始条件に問題はない。
説明する。
同意を確認する。
保護技能を確認する。
扉が閉じた。
*
扉が開いた。
予定より早い。
リゼットが先に出た。
「ここで中断します」
利用者へ必要な説明をする。
受付へ振替を伝える。
記録欄に、開始後の条件変化と中断、未成立であることを書いた。
指導担当者が来た。
「確認した条件は?」
リゼットは答えた。
「判断は」
「継続自体は可能でした。ただ、この条件では一度中断して再確認が必要です」
指導担当者は記録を読んだ。
「確認しました」
署名が入る。
リゼットは次の記録を取った。
*
別の日には、受付から一人の利用者が回ってきた。
記録を確認する。
標準認証は適さない。
第三認証へ変更しても条件を満たさない。
利用者は今日中の通過を希望していた。
「確認しました。この条件では、こちらの方式では対応できません」
リゼットは代理口について説明した。
利用者の同意を確認する。
勤務表を見る。
代理口を担当できる門番が、別の認証口に入っている。
受付へ連絡した。
「代理口へ引き継ぎます」
利用者を案内し、ここまでの確認と引継ぎ理由を記録した。
指導担当者は記録を読み、引継ぎ先を確認した。
「はい」
それだけだった。
*
指導下実務の終わりが近づくころには、朝に渡される担当表の見方も変わっていた。
最初は、自分がどの認証口に入るかを探した。
今は、その日の担当者と、それぞれが実施できる方式も見る。
自分で対応できない利用者が来たとき、誰へ引き継げるか。
休憩で担当が変われば、もう一度見る。
ある日の終業後、指導担当者に呼ばれた。
机の上には、それまでの実務記録がまとめられていた。
適用判断。
説明と同意。
保護技能。
中断。
記録。
引継ぎ。
健康・衛生管理。
更新された記録を、担当者が順に確認する。
「ここ」
最初の週の記録だった。
説明順を直された印がある。
「はい」
「その後は?」
「同じ指摘はありません」
「そうですね」
中断した日の記録。
代理口へ引き継いだ日の記録。
第三認証を担当した記録。
いくつか確認して、紙が閉じられた。
「単独配置へ進めます」
リゼットは一度だけ息を止めた。
「はい」
「正式登録の手続きは明日です。登録内容を確認してください」
「分かりました」
新しい試験票はなかった。
机の上にあるのは、これまで自分が残した記録だった。
*
正式登録の日、確認した内容は仮登録のときと大きく変わらなかった。
標準認証。
標準認証(第三認証)。
必要な保護技能。
業務上の判断と記録。
代理口の実施登録はない。
三名並列の登録もない。
それでも、登録欄の一つが変わった。
正式登録。
係官が書類を渡した。
「配属先はこちらです」
リゼットは開いた。
王城第三門。
出勤日。
担当時間。
持参する書類。
読み終えて、もう一度配属先を見た。
「確認しました」
*
初勤務の朝、第三門の勤務表に自分の名前があった。
リゼット。
まだ新しい札だった。
隣には、その日の担当時間と実施できる方式が記されている。
引継ぎを受ける。
記録を確認する。
最初の利用者が受付を終えた。
リゼットは名前を呼んだ。
利用者が来る。
記録を確認する。
条件を見る。
説明する。
同意を確認する。
必要な保護技能を確認する。
「では、こちらへ」
利用者を案内した。
扉が閉じた。




