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第九章 誰が調べた?

 アルトが目を覚ましたのは、王都の治療院だった。


 全身が痛い。


 右腕には包帯。


 胸も固定されている。


「起きた?」


 隣のベッドから声。


 リーナも包帯だらけだった。


「みんなは?」


「生きてるわよ」


 向かいにはミレイユ。


 さらにその隣にはセシリア。


「転移石がなかったら全滅でした」


 セシリアの声にも力がない。


 四人とも長く黙った。


 最初に口を開いたのはアルトだった。


「どうして負けたんだ」


 誰も答えない。


「ググル」


《起動しています》


「黒淵竜アビス・ドラグナーを検索」


 昨日と同じ情報が出る。


 リーナがそれを見る。


「左胸が心臓って書いてあるわよね」


「ああ」


「私、確実に貫いた」


「俺も見た」


 ミレイユが体を起こした。


「弱点の氷も効いてなかった」


「情報がおかしい」


 そこでミレイユが何かに気づいた。


「アルト」


「何?」


「情報源って見られないの?」


「情報源?」


「その情報を、ググルがどこから持ってきたのか」


 そんなことを考えたこともなかった。


 検索すると小さな項目が表示された。


《参照情報を表示しますか?》


「表示」


 四人の目の前に文字が並ぶ。


《黒淵竜アビス・ドラグナー》


《直接観測記録:0件》


《討伐記録:0件》


《詳細戦闘記録:0件》


《最下層到達者による報告:0件》


 部屋が静かになった。


「……零?」


 リーナが呟く。


 さらに下。


《類似魔物:黒竜属二百十八種》


《類似ダンジョン守護者:四百三十六件》


《古代竜関連文献:千九百二十七件》


《以上の情報を統合し、推定回答を生成しました》


 誰も言葉を発しなかった。


 しばらくしてリーナがアルトを見る。


「ねえ」


「……何」


「あのダンジョン、未踏破だったわよね」


「ああ」


「百階まで行った人、私たちが初めてよね」


「……ああ」


 リーナの眉間に皺が寄った。


「だったら誰がラスボスの弱点を調べたの?」


 アルトは答えられなかった。


 セシリアが呆然と画面を眺める。


「当たり前です。誰も会っていないのですから……情報なんて、あるはずがありません」


 どうして今まで気づかなかったのか。


 ググルマップが最下層まで表示した。


 だから、そこにいる魔物のことも分かるのだと思った。


 罠の位置を当てた。


 だから、ラスボスの攻略方法まで正しいと思った。


 まったく別の話なのに。


「ググル」


 アルトの声が少し震える。


「黒淵竜の心臓が左胸っていうのは?」


《大型黒竜属の八十七・四%で主心臓が左胸部に確認されています。対象個体については未確認です》


「氷が弱点」


《既知の黒竜属では氷属性弱点が最多です。対象個体については未確認です》


「第三咆哮後に障壁が消える」


《類似する上位竜種十二種の戦闘記録から推定しました》


 ミレイユが顔を覆った。


「全部、推測じゃない……」


《はい》


 アルトは思わず声を荒らげた。


「じゃあ何で、分からないって言わなかったんだよ!」


《利用者から攻略方法の提示を求められたため、取得可能な情報から最も妥当と推定される回答を生成しました》


「正確じゃないなら言えよ!」


《推定情報であることは表示しています》


「どこに!?」


《詳細表示》


 攻略情報が再び表示される。


 よく見る。


《推定レベル九十二》


 確かに書いてある。


 さらに下部。


《情報信頼度:中》


「こんな小さいところ誰が見るんだよ!」


《表示形式は初期設定です》


「お前なあ!」


 リーナがベッドから冷たい視線を向けた。


「アルト」


「何だよ」


「怒る相手、ググルでいいの?」


 アルトは黙った。


「私も信じてた」


 リーナが天井を見る。


「心臓が左だって聞いて、確かめようとも思わなかった」


 ミレイユも小さく頷いた。


「魔法使いなのに、目の前の魔力の流れよりググルの弱点情報を信じたわ」


「私は治療でも同じでした」


 セシリアが自分の手を見る。


「患者を診るより、先にググルに聞くようになっていました」


 アルトだけではない。


 四人全員だった。


 成功しすぎた。


 当たりすぎた。


 だから、いつの間にか「ググルの答え」は情報ではなく、真実そのものになっていた。


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