第八章 完璧な攻略
扉の向こうには、巨大な地下神殿が広がっていた。
中央で眠っていた黒竜が首を上げる。
翼を広げれば小さな屋敷ほどある。
「大きい……」
セシリアが息を呑む。
「でも勝率九割よ」
リーナは剣を抜いた。
アルトの視界にはググル脳の指示が流れる。
《リーナ、左前方三メートル》
「左!」
「了解!」
黒竜の爪が床を抉る。
リーナはすでにそこにいない。
《ミレイユ、氷槍を右眼部へ》
「凍れ!」
巨大な氷柱が黒竜の顔に突き刺さる。
咆哮。
《セシリア、防御障壁》
「聖壁!」
衝撃を完全に防いだ。
「いける!」
リーナが笑う。
「ググル、次!」
《尾部への集中攻撃を推奨》
その通りにする。
ミレイユの氷で尾の動きを鈍らせ、リーナが切断。
黒竜が苦しそうに体勢を崩した。
《第一段階終了》
「ほらね」
ミレイユは余裕さえ見せた。
四人の動きに迷いはなかった。
自分で判断する必要がない。
アルトの指示だけを聞けばいい。
いや、正確にはアルトの指示ですらない。
ググル脳が選び、アルトが声にしているだけだった。
《第二咆哮》
防御。
《次、第三咆哮》
アルトが叫ぶ。
「準備!」
黒竜が大きく息を吸う。
洞窟全体が震えるような咆哮。
《魔力障壁低下》
《四・八秒》
《全力攻撃を推奨》
「今だ!」
リーナが跳ぶ。
剣が黒竜の左胸へ深く突き刺さった。
「入った!」
ミレイユも最大魔法を発動する。
「氷天槍!」
巨大な氷槍が傷口に直撃。
セシリアも攻撃魔法を重ねた。
黒竜の巨体が倒れる。
床が震え、砂埃が舞った。
「勝った……?」
リーナが息を弾ませる。
ググルの情報通り。
心臓を貫いた。
弱点の氷も直撃。
アルトも笑った。
「勝った」
その瞬間。
《予測との差異を検出》
「え?」
倒れていた黒竜の瞳が開いた。
左胸に剣を刺したまま、ゆっくり起き上がる。
「嘘……」
《再解析中》
尾が振られた。
「リーナ!」
間に合わない。
リーナの体が壁まで吹き飛ばされた。
セシリアが駆け寄ろうとする。
《高熱反応》
「防御!」
黒炎が吐き出された。
障壁が砕ける。
セシリアも床を転がった。
「ググル! どうなってる!」
《再解析中》
「氷が弱点なんでしょ!」
ミレイユが叫びながら氷魔法を連射する。
しかし黒竜の動きはほとんど鈍らない。
《弱点情報を再評価》
「今さら!?」
アルトの背中を冷たい汗が流れた。
これまで一度も感じなかった恐怖だった。
「ググル、どうすればいい!」
《情報不足》
「は?」
《追加観測を実行します》
黒竜が翼を広げる。
魔力が急激に膨れ上がった。
《敵個体は高確率で擬死状態から攻撃動作へ移行》
《胸部への集中攻撃を推奨》
リーナが壁に手をつきながら立ち上がる。
「アルト、本当に?」
初めてだった。
ググルの指示に対して、リーナが確認したのは。
アルトは迷った。
だが一秒後には答えていた。
「ググルがそう言ってる」
「なら行く!」
リーナが走る。
ミレイユも残った魔力を集めた。
「ググルが言うなら!」
セシリアも立つ。
「支援します!」
四人全員が信じた。
左胸に総攻撃を集中。
その瞬間、黒竜の口元が開いた。
まるで待っていたように。
《予測外行動》
「――え?」
白い光が視界を覆った。




