第七章 未踏破ダンジョン
王都から北へ五日の場所に《奈落の塔》と呼ばれる巨大ダンジョンがある。
発見されて三百年以上。
数え切れないほどの冒険者が挑戦したが、誰一人として最下層へ到達したことがない。
最高記録は四十八階。
四十九階より先へ進み、帰還した者はいなかった。
その攻略依頼が、Sランク目前となったアルトたちへ持ち込まれた。
「どうする?」
依頼書を読みながらリーナが聞く。
「ググル」
もはや誰も笑わない。
《攻略を推奨します》
「理由は?」
《現在のパーティ構成で攻略成功率九十一・二%》
ミレイユが眼鏡を上げる。
「九割以上なら行くべきね」
「私も賛成です」
「じゃあ決まり」
誰一人、自分で攻略可能性を考えなかった。
準備期間は一週間。
必要な薬、食料、装備の種類までググル脳に聞く。
奈落の塔へ入ると、その能力はさらに異常なほど役に立った。
《十五メートル先、床面に落とし穴》
「止まって」
リーナが足を止める。
石を投げると床が崩れた。
《右壁内部に空間》
壊すと隠し部屋。
《宝箱に毒針》
解除。
《次の魔物、腹部に魔核》
リーナの一撃。
まるで攻略本を読みながら歩いているようだった。
二十階。
三十階。
四十階。
これまで幾百人もの冒険者が命を落とした場所を、四人は散歩のように進んだ。
「アルト」
五十二階でミレイユが笑った。
「未踏破って何だったのかしら」
「先人にはググルがなかったんだろ」
「ずるいですね、私たち」
セシリアも楽しそうだった。
六十一階。
初めてググルが小さな間違いをした。
《扉に罠なし》
アルトが扉を開ける。
細い矢が飛び出した。
リーナが剣で弾く。
「罠あるじゃない」
「ググル?」
《類似構造における罠設置率三・七%。予測誤差を確認》
「珍しいな」
アルトは笑った。
ミレイユも気にしない。
「百回に四回くらいなら仕方ないでしょ」
セシリアがリーナの頬についた小さな傷を治した。
「怪我もこれだけですし」
そのまま進む。
七十階。
八十階。
九十階。
ググルマップは、誰も歩いたことのない通路まで表示していた。
魔物の位置も、罠も、隠し部屋も分かる。
四人は疑わなかった。
むしろ、六十一階で一度だけ罠を外したことさえ、忘れていた。
そして百階。
巨大な黒い扉の前に到達する。
《最終階層》
四人が顔を見合わせる。
「本当に来ちゃったわね」
リーナが笑う。
「帰ったらSランク確定ね」
「王様から勲章も貰えるかもしれません」
「それより中にある古代資料よ」
ミレイユまで浮かれている。
アルトは扉に手を置いた。
「ググル。中に何がいる?」
《最終守護者を確認》
情報が表示された。
《黒淵竜アビス・ドラグナー》
《推定レベル九十二》
《弱点:氷属性》
《主心臓:左胸部》
《第三咆哮後、四・八秒間魔力障壁消失》
《尾部切断により機動力七十一%低下》
《推奨攻略手順を表示しますか?》
「当然」
《攻略手順を生成します》
その言葉を、四人の誰も気に留めなかった。
検索ではなく。
生成します。
確かにそう表示されていた。




