第六章 ググル脳
再結成から半年後、〈ググル〉に新しい機能が現れた。
《ググル脳β版を利用できます》
「何だ、これ」
説明を開く。
《検索情報を統合し、状況に応じた最適な行動を提案します》
「便利そうね」
ミレイユが興味深そうに覗き込む。
最初に使ったのは、Aランク魔物である甲殻大蜥蜴との戦闘だった。
《リーナ、二歩右》
アルトが伝える。
「二歩右!」
リーナが動いた直後、大蜥蜴の尾が元いた場所を薙ぎ払った。
《ミレイユ、雷撃を左脇腹へ》
「雷ね」
魔法が命中。
硬い甲殻の隙間から煙が上がる。
《三秒後、口腔を開きます》
「三、二、一!」
口を開けた瞬間、リーナの剣が突き刺さった。
勝利。
「何これ」
リーナが笑う。
「反則じゃない?」
以後、四人はググル脳を使うようになった。
最初の頃、リーナは自分の勘とググルの提案が食い違えば確認した。
「私は右から来ると思うけど」
《左後方からの攻撃確率八十三%》
「じゃあ左ね」
実際に左から来た。
ミレイユも最初は魔力の流れを読んでいた。
「火が効きそうだけど」
《雷属性を推奨》
雷を撃つ。
一撃で倒れた。
セシリアも患者を診察してから治療していたが、ある日ググルが彼女より先に病気を言い当てた。
《外傷ではなく毒。先に解毒を推奨》
その通りだった。
それが何十回も繰り返された。
一年後。
「アルト、こいつ何で倒す?」
リーナが尋ねる。
昔なら、自分で敵の構えを読んでいた。
「待って。ググルに聞く」
「お願い」
ミレイユも魔物の魔力を観察しなくなった。
「弱点属性は?」
「氷」
「了解」
セシリアまで、
「この方の症状を調べてください」
とアルトに頼むようになる。
ググルの答えは外れない。
冒険でも、商売でも。
《今週中に小麦を売却》
「全部?」
《九割を推奨》
売る。
二週間後、価格が暴落。
《鉄を購入》
買う。
三か月後、隣国で戦争が起きて鉄価格が倍になる。
アルトの財産は膨れ続けた。
気づけば、四人の生活は何でもググルに尋ねるようになっていた。
「今日どこの店で食べる?」
「ググル、四人で夕食を食べるなら?」
《銀鹿亭を推奨》
「じゃあそこ」
「明日休みだけど、どこ行く?」
《郊外の湖を推奨》
「決まりね」
ミレイユが本を選ぶときでさえ、
「この本、読む価値ある?」
と聞くようになった。
ある日、酒場でアルトたちの会話を聞いていた老冒険者が笑った。
「お前たち、自分の頭で何も決めねえのな」
「ググルに聞いた方が正確だから」
リーナが笑って答える。
老冒険者は肩を竦めた。
「便利すぎる道具ってのも怖いもんだ」
四人とも気にしなかった。
なぜならググルは、これまでほとんど一度も間違っていなかったからだ。




