第四章 世界を検索する
ベルグへ戻ったアルトは、まず自分の能力を徹底的に試した。
「この周辺で俺でも倒せる、一番報酬の高い魔物」
《候補を検索します》
表示されたのは、岩角猪というCランク魔物だった。
通常ならDランク冒険者が単独で挑む相手ではない。
「弱点」
《右前脚。過去の負傷により可動域低下》
「個体まで分かるのかよ……」
半信半疑で森へ向かう。
ググルマップには岩角猪の位置が表示されていた。
接近し、木の上から弓を射る。
右前脚。
命中した瞬間、巨大な猪の体勢が崩れた。
「本当に弱い!」
次の矢を目に撃ち込み、短剣で首を刺す。
人生で初めて、一人でCランク魔物を倒した。
それからアルトの冒険は変わった。
《この洞窟で最も価値のあるもの》
《二百十三メートル先に月光茸》
《安全な経路》
《右の通路を推奨》
希少薬草を採り、鉱石を見つけ、討伐対象だけを効率よく狩る。
冒険者ギルドの受付嬢が不思議そうに尋ねた。
「最近、随分と成績がいいですね」
「まあ、ちょっとスキルの使い方が分かってきた」
二か月後、アルトはCランクへ昇格した。
それだけでは終わらなかった。
ある日の昼、酒場で商人たちが小麦価格について話していた。
「今年は豊作だ。まだ下がるぞ」
「倉庫を空けるためにも売るしかないな」
何となくアルトは検索してみた。
「一か月後の小麦価格」
《予測価格を表示します》
現在、一袋銀貨三枚。
一か月後、銀貨八枚から九枚。
「は?」
理由を調べる。
《北部大河流域で長雨。十二日以内に大規模氾濫が発生する可能性八十七%。主要穀倉地帯への被害予測あり》
アルトは翌日、預金のほぼすべてを小麦に変えた。
馴染みの商人にまで止められた。
「馬鹿なことをするな。今が一番安いんじゃない。これからもっと下がる」
「俺は上がると思う」
「何を根拠に?」
「まあ、勘」
一か月後。
北部で大河が氾濫した。
小麦価格は三倍近くまで跳ね上がった。
アルトは買った小麦を売り、銀貨を金貨へ替えた。
次は塩。
次は鉄。
港へ運ばれる香辛料。
隣国の羊毛。
ググルは価格だけでなく、天候、街道状況、戦争の危険、各国の政策まで調べられた。
半年後、アルトは小さな屋敷を買った。
一年前まで四人部屋の宿代を割り勘していた少年が、使用人を二人雇うほどの資産を持った。
もちろん冒険者も続けている。
Bランクへ上がった頃には、アルトの名はベルグの冒険者なら誰でも知っていた。
そして、その噂は当然、三人の幼馴染の耳にも届いた。




