↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
3/11

第三章 ググルマップ

 翌日から、アルトは一人で依頼を受け始めた。


 当然、受けられる仕事の種類は大きく減った。戦闘能力の低いDランク冒険者が単独で受けられるのは、薬草採取や荷物運び、弱い魔物の討伐程度である。


 それでも冒険者を辞める気にはなれなかった。


 故郷を出た日の約束に未練があったのかもしれないし、三人の言葉を認めたくなかっただけなのかもしれない。


 一か月ほど経った頃、アルトは国境近くの森に増えたゴブリンの討伐依頼を受けた。


 数は五匹程度。


 弓と短剣を使えば、自分でも何とかできる相手だった。


 問題は討伐後に起きた。


「……どこだ、ここ」


 ゴブリンを追って森の奥へ入り過ぎた。


 戻ろうとした頃には日は傾き、どちらから来たのか分からなくなっていた。


 何度歩いても似たような木ばかりが続く。


 アルトは大木の根元に座り込んだ。


「街へ帰る道が知りたい」


 何気なく呟いた。


 いつもの鑑定と同じように〈ググル〉を意識する。


 その瞬間、視界いっぱいに半透明の図形が広がった。


《目的地を設定します》


「……何だ?」


 森を上から見下ろしたような地図が浮かんでいる。


 中央に青い点。


《現在地》


 南西にベルグの街。


 その間に一本の線が引かれた。


《徒歩三時間四十二分》


 アルトはしばらく口を開けたまま地図を眺めていた。


「地図……?」


《ググルマップ》


 知らない機能だった。


「こんなの使えたのかよ!」


 思わず立ち上がる。


 さらに地図に意識を集中すると、周辺の魔物まで点で表示された。


《ゴブリン 三》


《森狼 二》


《大牙熊 一》


「……すごい」


 アルトは笑った。


 笑ったのは久しぶりだった。


 地図に従って歩けば、魔物を避けながら街へ帰れる。


 そう思ったのだが、途中で一つ問題が起きた。


《より短い経路があります》


「そっち」


 アルトは何の疑いもなく選んだ。


 確かに道は短かった。


 ただし、途中にあった石柱に刻まれた紋章を見落としていた。


 二時間ほど歩いたところで、突然茂みから武装した男たちが飛び出してくる。


「止まれ!」


 聞いたことのない言葉だった。


 鎧の紋章も王国軍のものではない。


 アルトはゆっくり両手を上げた。


 どうやら国境を越えてしまったらしい。


 兵士が何か叫ぶ。


 意味が分からない。


「いや、俺は怪しい者じゃなくて――」


 そこでまた視界に文字が浮かんだ。


《翻訳しますか?》


「……はい?」


《ググル翻訳を起動します》


 次の瞬間。


「所属と目的を答えろ」


 兵士の言葉が、はっきり理解できた。


 アルトは目を見開いた。


「俺の言葉、分かるか?」


「分かるから質問に答えろ」


 通じている。


 それから一時間後、単なる越境冒険者だと理解してもらったアルトは、国境の町へ連れて行かれた。


 宿に入り、興奮のまま様々なことを試す。


「この国の名前」


《エルデン王国》


「国王は?」


 王の名、年齢、即位した年、家族構成が表示された。


「最近何かあった?」


《北部三州で豪雨。王都で宰相交代。東方との通商交渉開始》


 アルトは椅子から立ち上がった。


「待て。俺が知ってるわけないだろ、そんなこと」


 鑑定ではない。


 目の前に存在しないものまで調べられる。


「百年前の戦争」


 出る。


「この国で一番高い山」


 出る。


「今日、王都で起きたこと」


 出る。


 アルトは夜が明けるまで質問を続けた。


 二年間、自分も、三人も、ギルドの誰も〈ググル〉を鑑定スキルだと思っていた。


 違った。


 これは鑑定ではない。


 知りたいことを調べる能力。


 アルトは窓の外が明るくなっていることに気づき、ゆっくり笑った。


「……やっと分かったぞ」


 自分のスキルは、外れではなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。