第二章 外れ一人
王国南部の都市ベルグへ出た四人は、予定通り冒険者ギルドへ登録した。
剣聖、聖女、大魔法使い。
三つの希少スキルを持つ新人パーティの噂は、登録したその日のうちにギルド中に広がった。
四人が受けた最初の依頼は、街の近くに現れた角兎十匹の討伐だった。
「右の草むらに三匹いる」
アルトが〈ググル〉で調べる。
リーナが駆け込み、一匹を斬り、二匹を剣の腹で吹き飛ばした。ミレイユの小さな火球が逃げようとした一匹を仕留める。
傷を負ったリーナには、セシリアが治癒魔法を使った。
アルトは魔物の素材を見分けた。
最初の頃は、それでよかった。
毒茸の種類を調べたり、魔物の弱点を確認したり、価値のある鉱石を見分けたりする能力は便利だったからだ。
だが、半年、一年と時間が経つにつれ、四人の間には少しずつ差が生まれ始めた。
リーナは剣聖の能力を開花させ、巨大なオークの首を一太刀で落とせるようになった。
セシリアは傷だけでなく毒や病も治せるようになり、冒険者ギルドだけでなく街の教会からも声がかかる。
ミレイユは次々と新しい魔法を習得し、二年目には十数匹のゴブリンを一度の炎魔法で焼き払った。
それに対してアルトの〈ググル〉は、相変わらず鑑定しかできなかった。
「アルト、あれ何?」
「森狼。二歳くらいの雄。牙に毒はない」
「見れば分かるわよ」
リーナが苦笑する。
「じゃあ弱点は?」
「腹」
「狼なら大体そうでしょ」
悪意のない言葉だった。
だからこそ、アルトには余計に堪えた。
二年目の冬、四人はCランク依頼である岩巨人討伐を受けた。
巨大な岩の塊が腕を振り回す中、アルトは後方から叫ぶ。
「胸の中央に魔石がある!」
「分かってる!」
リーナが岩巨人の腕をかわす。
ミレイユの風魔法で外殻を砕き、露出した魔石をリーナが一撃で貫いた。
戦闘は三分もかからなかった。
アルトは一度も武器を抜いていない。
帰路、三人の前を歩いていたアルトは、後ろの会話が聞こえていないふりをした。
「次の依頼、三人ならもっと難しいのでもいけるわ」
ミレイユの声だった。
「でもアルトがいるじゃない」
セシリアが言う。
「だからよ」
そこで会話が途切れた。
その夜、宿の一階にある食堂で、とうとう話が切り出された。
「アルト」
リーナが珍しく正面からこちらを見なかった。
「四人のパーティ、ここで終わりにしない?」
アルトは持っていたスプーンを皿に置いた。
「……俺が邪魔だから?」
「そういう言い方しないでよ」
「でも、そういうことだろ」
ミレイユが小さく息を吐いた。
「私たち、もうすぐBランク試験を受けるの。これから相手にする魔物は、少し判断を間違えれば死ぬ相手ばかりになる。戦えない人を守りながらでは難しいわ」
「俺は鑑定ができる」
「ギルドにも鑑定士はいる」
反論はできなかった。
セシリアが悲しそうに手を握っている。
「アルトなら、商人になっても成功できると思います。珍しい品物を見分けられますし……」
「冒険者を辞めろって?」
「そういう意味では……」
「同じだよ」
リーナがようやく顔を上げる。
「二年間、待ったのよ」
その声には、怒りより疲労が滲んでいた。
「最初は、きっと〈ググル〉にも何かすごい能力があるって思ってた。でも何も変わらなかった。アルトだって分かってるでしょ」
分かっていた。
分かっているからこそ、何も言えない。
「……分かった」
アルトは席を立った。
「今までありがとな」
セシリアが名前を呼んだが、振り返らなかった。
二年間続いた四人の冒険は、その夜に終わった。




