表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神ごっこ ―俺はこのデスゲームを拒絶する―  作者: 水無月いい人


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/7

第2話「初戦」

いつもご覧頂きありがとうございます!


本編の前にまだブクマや評価をされてない方はどうぞポチッとしてやってください!

無料で作者のモチベを上げることが出来ます!


「てめぇ……!」


 男は膝をつきながらも、血走った目で仁を睨んでいた。


 片腕はだらりと垂れ下がり、あり得ない方向へ曲がっている。それでも男は笑っていた。まるで痛みなど感じていないかのように。いや、痛みを楽しんでいるようにさえ見えた。


 仁は思わず一歩後ずさる。


 全身が痛かった。


 肩も、腕も、脚も。呼吸をするだけで胸の奥が軋む。頬を流れる血が、妙に冷たく感じた。


 だが、それ以上に怖かった。


 あれだけ吹き飛ばしたのだ。


 建物に叩きつけた。人間なら立ち上がれるはずがない。少なくとも、仁の知っている普通の人間なら、あんな状態で笑っていられるわけがない。


 それなのに、この男はまだ仁を見ていた。


 獲物を逃がすまいとする獣の目で。


「なんなんだよ……お前」


 震える声でそう言うと、男は口元の血を親指で拭った。


「それはこっちのセリフだ」


 男はゆっくりと立ち上がる。足元がふらついているのに、笑みだけは消えない。


「覚醒したばかりのガキがここまでやるとは思わなかったぜ」


 仁は答えなかった。


 いや、答えられなかった。


 頭の中がぐちゃぐちゃだった。


 神。


 覚醒。


 鬼ごっこ。


 どっちかが死ぬまで終わらないデスゲーム。


 意味が分からない。理解できない。理解したくもない。


 それでも、一つだけ分かることがあった。


 この男は自分を殺そうとしている。


 そして、自分も戦わなければ殺される。


 それだけだった。


「俺はな」


 男が笑う。


「三人殺してる」


 仁の身体が強張った。


 三人。


 その数字が、妙に現実味を帯びて耳に残った。


 ニュースで聞くような遠い数字ではない。目の前の男が、自分の手で、三人の命を奪ったと言っている。


「最初は吐いた。手も震えた。夜も眠れなかった。まあ、俺にもそういう時期があったってわけだ」


 男は楽しそうに語った。


 まるで昔の失敗談を笑っているみたいに。


「でも慣れる」


「……慣れる?」


「ああ」


 男は笑った。


「人を殺すことにも、人が死ぬことにもな」


 仁は奥歯を噛み締めた。


 聞きたくなかった。


 そんな言葉。


 そんなものに慣れてたまるかと思った。


「慣れるわけないだろ」


「あ?」


「そんなものに慣れるわけないだろ!」


 気付けば叫んでいた。


 恐怖をごまかすように。震えそうになる自分を、怒りで無理やり立たせるように。


 男は一瞬だけ目を丸くした。


 そして、腹の底から笑った。


「みんなそう言うんだよ。最初はな」


 男の目が細くなる。


「でも最後には同じだ。生き残るために殺す。殺されないために殺す。そうやって、だんだん普通じゃなくなっていく」


 その言葉には妙な重みがあった。


 ただの脅しではない。


 経験から出た言葉だった。


 だからこそ怖かった。


 仁は自分の手を見た。


 震えていた。


 この手で、さっき男を吹き飛ばした。この手で、目の前の相手を傷つけた。


 仕方なかった。


 殺されそうだった。


 生きるためだった。


 そう言い聞かせても、胸の奥の気持ち悪さは消えなかった。


 その時、不意に昼休みの光景が脳裏をよぎった。


『神山ー! 明日の数学、小テストらしいぞ』


 教室の後ろから、親友の高橋が声をかけてくる。


『マジかよ』


『お前どうせノー勉だろ』


『うるせぇ。お前もだろ』


『俺はノー勉でもなんとかなるタイプだから』


『一番なんとかならない奴のセリフだな、それ』


 くだらない会話だった。


 高橋が笑って、周りの友人たちも笑った。誰かが購買の焼きそばパンが売り切れていたと騒ぎ、誰かがスマホゲームのガチャで爆死したと机に突っ伏していた。


 何も特別なことはない。


 ありふれた昼休み。


 それが当たり前だった。


 今日も、明日も、来週も。


 ずっと同じような日々が続くのだと思っていた。


 今朝だってそうだ。


『仁、帰りに牛乳買ってきて』


 母親の声が蘇る。


『えー、めんどくさい』


『じゃあ朝ごはんのシリアル、明日から水で食べる?』


『それは嫌だな……』


『なら買ってきなさい』


『はいはい』


『はいは一回』


『はい』


 呆れたような顔。


 いつもの朝。


 いつもの会話。


 その時は何とも思わなかった。


 むしろ少し面倒だとさえ思った。


 でも今になって、その何でもないやり取りがやけに胸に刺さった。


 帰ったら牛乳を買ってきたか聞かれる。


 夕飯の匂いがして、母親に「制服ちゃんと掛けなさい」と言われる。


 部屋に戻って、スマホを見て、明日の小テストのことを思い出して少しだけ焦る。


 そんな普通の日常。


 退屈で、平凡で、何の変哲もない毎日。


 それが今、たまらなく遠かった。


 どうして自分がこんな場所にいる。


 どうして命を懸けて戦っている。


 どうして殺されそうになっている。


 どうして――目の前の男は笑っている。


「ふざけるな……」


 仁は拳を握った。


 男が眉をひそめる。


「あ?」


「ふざけるなって言ってんだよ!」


 腹の底から声が出た。


 恐怖も、混乱も、怒りも、全部ぶつけるように。


「俺はただ帰ってただけだ。学校から帰って、コンビニ寄って、牛乳買って帰るだけだったんだよ! それを勝手に巻き込んで、勝手に殺し合えって……そんなの、認められるか!」


 男は黙って仁を見ていた。


 そして、ゆっくりと口元を歪める。


「いいねぇ」


 その笑みは、さっきまでよりも深かった。


「そういう顔が見たかったんだよ」


 男が片手を上げる。


 次の瞬間、商店街全体が震え始めた。


 街灯が軋む。


 店先の自転車が浮く。


 鉄製の看板がガタガタと音を立てる。


 シャッターが歪み、工具店の中からスパナやドライバーが飛び出す。無数のネジや釘までもが、男の周囲に集まっていった。


「俺が得た神の力は“引き寄せる神”」


 男は両腕を広げる。


「全部、俺のところへ来る」


 空中に浮かぶ大量の金属。


 その全てが、ゆっくりと仁へ向きを変えた。


 背筋が凍った。


 さっきまでとは数が違う。


 威力も、殺意も、まるで違う。


「避けられるかな?」


 男が笑う。


「死ね」


 一斉に放たれた。


 弾丸のような速度だった。


 仁は咄嗟に両手を突き出す。


「来るな!」


 空気が歪む。


 飛来した金属が次々と弾かれた。


 しかし止まらない。


 一つ弾けば二つ。


 二つ弾けば十。


 数が多すぎる。


「ぐっ……!」


 鉄片が肩を掠めた。


 釘が頬を切り裂く。


 熱い。


 痛い。


 血が流れる。


 それでも仁は手を下ろせなかった。下ろした瞬間、全身を貫かれる。


 こんなのゲームじゃない。


 本当に死ぬ。


 自分が。


 ここで。


 死にたくない。


 まだ帰りたい。


 高橋たちがいる教室に。


 母親が待っている家に。


 牛乳を買って帰るだけの、くだらない日常に。


 だから――。


 負けられない。


「う、ああああああ!」


 仁は力を込めた。


 見えない壁が広がる。


 金属の雨が弾かれ、周囲の壁や地面に突き刺さる。


 だが、男も止まらない。


「粘るなぁ!」


 さらに金属が集まる。


 仁の腕が痺れ始めた。


 限界が近い。


 このまま守っているだけでは押し切られる。


 逃げても追いつかれる。


 なら、どうする。


 仁は荒い呼吸を繰り返しながら、足元を見た。


 自分の力は弾く力。


 触れたものを拒絶する力。


 さっきは男を弾いた。


 金属も弾けた。


 なら。


 地面を弾いたらどうなる。


 考えるより先に、身体が動いていた。


 仁は片膝をつき、右手をアスファルトに叩きつける。


「吹っ飛べ!」


 地面を拒絶する。


 瞬間、凄まじい反発が生まれた。


「なっ!?」


 男の目が見開かれる。


 仁の身体が砲弾のように前へ飛んだ。


 風が顔を打つ。


 景色が流れる。


 制御なんてできない。


 止まり方も分からない。


 だが、それでよかった。


 今はただ、前へ進めればよかった。


「終われぇぇぇぇ!」


 仁は男の胸へ手を叩き込んだ。


 空間が大きく歪む。


 男の表情が初めて恐怖に変わった。


「ま、待っ――」


 轟音。


 男の身体が吹き飛ぶ。


 一つ目の建物を貫き、二つ目の壁を砕き、三つ目の建物に激突して止まった。


 仁自身も勢いを殺しきれず、地面を転がった。


「がっ……!」


 全身を打ちつけ、視界が白く弾ける。


 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


 骨が折れたかもしれない。


 そう思うくらいの衝撃だった。


 それでも仁は、震える腕で地面を押した。


 立たなければ。


 まだ終わっていないかもしれない。


 あの男は、何度も立ち上がった。


 だから確認しなければならない。


 仁はふらつきながら立ち上がる。


 商店街は静まり返っていた。


 先ほどまで宙を舞っていた金属は、地面に散らばっている。


 男の声は聞こえない。


 笑い声もない。


 仁は瓦礫の方へ歩いた。


 一歩進むたびに、身体が悲鳴を上げる。


 怖かった。


 近づくのが怖かった。


 もしまた立ち上がったら。


 もしまだ笑っていたら。


 次こそ自分は殺されるかもしれない。


 それでも足を止めなかった。


 瓦礫の中。


 男は倒れていた。


 動かない。


 胸も上下していない。


 口元から血を流し、目は虚ろに開かれている。


「……勝った、のか」


 呟く。


 実感はなかった。


 達成感もない。


 嬉しさもない。


 ただ、生きていた。


 自分が生きていた。


 それだけだった。


 もし立場が逆だったら。


 今ここに倒れていたのは自分だ。


 死んでいたのは、自分だった。


「は……はは……」


 笑いが漏れた。


 笑いたかったわけじゃない。


 頭が追いつかなかった。


 死ぬところだった。


 本当に。


 あと少しで。


 そう思った瞬間、胃の奥から何かが込み上げてきた。


 仁は口元を押さえ、その場に膝をつく。


 吐きそうだった。


 怖かったからなのか。


 痛かったからなのか。


 それとも、自分が人を殺したかもしれないからなのか。


 分からなかった。


 分かりたくもなかった。


「俺が……やったのか」


 声が震える。


 殺されそうだった。


 仕方なかった。


 そう言い聞かせても、目の前の現実は消えない。


 自分を殺そうとした相手だ。


 それでも人間だった。


 喋っていた。


 笑っていた。


 生きていた。


 その男が、今はもう動かない。


 勝ったのに。


 生き残ったのに。


 胸の奥が重かった。


 その時だった。


 男の胸から赤黒い光が溢れ出した。


「……え?」


 光はゆっくりと宙へ浮かぶ。


 血のように赤く、影のように黒い。


 気味が悪いはずなのに、どこか神々しくも見えた。


 仁は動けなかった。


 逃げることも、目を逸らすこともできない。


 光を見た瞬間、頭の奥で声が響いた。


 ――勝者を確認。


 ――神格権能の継承を開始します。


「権能……?」


 聞いたことのない言葉だった。


 だが、なぜか意味は分かった。


 神の力。


 目の前の男が持っていた力。


 “引き寄せる神”。


 それを自分が受け継げる。


 そういうことなのだと、本能が理解していた。


 仁は赤黒い光を見上げる。


 これを手に入れれば、強くなれるのかもしれない。


 次に襲われた時、生き残れる可能性が上がるのかもしれない。


 だが同時に、あの男の笑顔が脳裏に浮かんだ。


 人を殺すことに慣れる。


 生き残るために殺す。


 その言葉が耳に残っていた。


「……いらない」


 仁は小さく呟いた。


 声が震えていた。


 強くなりたくないわけじゃない。


 死にたくない。


 生き残りたい。


 でも。


 あの男と同じになりたくなかった。


「こんなの……いらない」


 その瞬間、赤黒い光が揺れた。


 ――継承を拒否しますか。


 また声が響く。


 仁は唇を噛む。


 拒否したらどうなるのか。


 分からない。


 分からないが、これだけは受け取ってはいけない気がした。


「ああ……いらない」


 ――確認しました。


 ――権能を放棄します。


 赤黒い光は仁の体へ入ることなく、空へと昇っていった。


 そして、商店街の上空で弾けるように消えた。


 まるで、どこか別の誰かを探しに行くみたいに。


 その直後。


 男の身体が光の粒になって崩れ始めた。


「おい……」


 仁は思わず声を出した。


 男はもう死んでいるはずだった。


 それなのに、最後に唇が微かに動いた。


「次は……もっと強い奴が来るぜ……」


 そして、男は消えた。


 完全に。


 最初から存在しなかったみたいに。


 仁はその場に立ち尽くした。


 勝った。


 生き残った。


 だが、何も終わっていない。


 むしろ今、始まったばかりなのだと分かってしまった。


 神ごっこ。


 神の力。


 どちらかが死ぬまで終わらない戦い。


 そして自分は、その参加者になってしまった。


 もう、ただの高校生には戻れないのかもしれない。


 そう思った瞬間。


 世界が大きく揺れた。


 静まり返っていた商店街に、遠くから人の声が戻ってくる。


 車の音。


 自転車のベル。


 どこかの店から流れる音楽。


 当たり前の世界の音。


 仁はゆっくりと顔を上げた。


 戻る。


 日常が戻ってくる。


 でも。


 自分だけは、もう戻れない。


 その事実だけが、胸の奥に重く沈んでいた。

最後までご覧いただきありがとうございます!

良ければ評価、感想を頂けると嬉しいです!

まだブックマークしてない方も良ければ是非!


モチベに繋がり投稿頻度も上がります( ˙꒳˙ )


ではまた次回!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ