第14話 レベルアップ!
「さて、お待ちかねのレベルチェックですね。ニョグタを倒した皆さんのレベルは上がっているでしょうかっ」
「まぁ、これで上がってなかったらどうしようって話だけどね」
水晶玉に手を当てよう……としたところで、ピタリと止まる。
「……ちゃんと拭いてある?」
「大丈夫ですよ」
ニッコニコのマスターさん。
結構トラウマなんだから頼むぜ、あのネチャっと感。
「では……いざっ!」
「はいはいっと」
水晶玉から写されたステータスを紙に写す。
そして、俺の目の前に出される。
そこには……
種族 転生者
クラス ノービス
性格 中立
レベル 7
力 D
知力 C
信仰心 E
生命力 C
敏捷性 C
運 B
スキル 無し
ユニーク 超強化
「うおおおおおおおお!!」
「あらあら、すごいですね。レベルも然ることながら、能力が3つも上がってます」
超ハイテンションな俺を後目に、ハルナがその紙を見ながら。
「……もしかして、ノービスって、とてもレベルが上がりやすいのでは?」
「さすがハルナちゃん、ご名答」
「えっ?」
俺は思わず言葉に詰まる。
「もしかして、ノービスって……また悪い部分が出てきちゃうじゃないのかっ?!」
「いえいえ、むしろ良いことですよ。確かに、他のクラスと比べると弱いと思われがちですが、レベルの上がりはとても早いことで知られています。それは、むしろ長所ですね」
「おお、良かった」
「でも、気になるのは、やはりスキルですね」
「うっ、やはり何かあるのか……」
ハルナの言葉に一喜一憂する俺。
何とも情けないが、しかし、どうしても気になってしまう。
「普通、レベル7にもなれば、それなりのスキルを閃くものなんですが、それが全くないんです」
「というと?」
「例えばウォーリアなら、レベル3にもなればスマッシュというスキルを取得します。要は、体重をしっかり乗せて攻撃するっていうパッシブスキルなんですけど。大抵は戦いの中で「閃く」か、教えてもらうことで簡単に習得出来ます。でも、ユウジにはそれがない」
「えー、つまり、わかりやすく言うと?」
「ノービスの弱点。それはつまり、このスキルの閃きが無い。また、教えて貰うことでの習得が非常に困難。そういうことではないですか?」
「はい、ハルナちゃん、大正解♪」
マスターが拍手する。
ハルナのほうは、複雑な表情を浮かべていた。
「あまりめでたくない気がします……ステータスは多少上がりやすいというだけで、スキルが得られないというのは、何ともまずい気がしますが」
「そうですね。ですが、ハルナちゃん。ノービスの特性、まだ忘れていることがありますよ?」
「特性……? あまり目を見張るものが無い気がしますが」
その一言は、俺の心をえぐるには充分なものだった。
正直、かなり来た。
思わず膝を折ってガックリしてしまう。
「あ、すまないユウジ……傷つけるつもりは無かったんだ」
「ハルナさんって、さりげない一言で傷つけますよね」
何やら口元を歪ませるリザ。
ハルナが、小さく舌打ちしつつも、身を震わせて我慢している。
そんな彼女を余所に、リザがマスターの問いに答えた。
「ノービス最大の特性。それは、どんなスキルも使えるようになる、ということでしょう?」
「はい、リザちゃんご名答♪」
マスターの言葉に上機嫌のリザ。
思わず単眼も見せつけ、上から目線でハルナを見つめる。
ハルナは、そんな視線を受けてもぐうの音も出ず、悔しそうに歯を食いしばっている。
「そう、ノービスはレベルによってスキルは得られません。ただし、どんなスキルも習得出来ます。それはつまり……」
「スクロールさえいっぱいあれば、凄まじい可能性を秘めていますね!」
「……そうか、そこで出てくるのがスクロール!」
「す、スクロール?」
俺の知らない単語が出てきて思わず言葉が上擦る。
「スキルスクロールというものです。一枚の紙に、スキルを封じ込めたもの、とでも言いましょうか」
そう言いながら、マスターが丸められた紙を紐で閉じた、巻物のようなものを取り出す。
「これも当ギルドで販売中です。この流れでは、ユウジ様御用達みたいなものですね」
「へぇ……これを買えば、俺もそのスキルが使えるようになるってこと?」
「そういうことですね。このスクロールは、そのスキルの使用する際の身体の動きや魔力の錬成方法などを封じ込めたもの。それを、身体に覚えさせるということです。同じ人間なら、同じ動きが出来ないはずがない、というのを前提においたやり方ですね」
「なるほど。だから、ステータスが重要になるわけか」
「飲み込みが早いですね。素晴らしいです」
つまりはこういうこと。
例えば、スマッシュの身体の動きを会得したとしても、基礎体力が追いついていなければ意味がない。
もっとかみ砕いて言えば、普通の人間が、仮に体操のオリンピック選手の動きが完全にトレース出来たとしても、相応の筋力や体力が無ければ再現は出来ない。
言いたいところはそういうことだ。
「まぁ、当ギルドは、スクロール販売もしていますので、是非ご一考くださいねー。さて、じゃあ、次はハルナちゃんかな?」
「はい、お願いします」
そして出てきたステータスは。
種族 ヒューマン
クラス ウォーリア
性格 中立
レベル 8
力 B
知力 C
信仰心 C
生命力 B
敏捷性 A
運 D
スキル スマッシュ トランスファー
ユニーク ダブルソード クロスブレード
「レベルが上がってますが……ステータスは変わらないですね。トランスファーって何ですか?」
「魔術師系統のスキルですね。スキル使用で消費するSPは分かりますよね? そのSPを、生命力を消費してSPに置換する能力のことです。余程無理しない限り、ウォーリアで会得するなんて無いですよ」
「あはは、さすがにあの状況は……」
苦笑いしながら答える。
なるほど、ハルナは、あの極限状態の中でスキルを閃いていて、それを無意識のうちに使っていたらしい。
それが、結果として俺達の命を救った。
感謝しなければ。
「さて、次は私です」
ハルナを腰でポンと押して水晶玉の前を陣取る。
何というか……
リザは性格の割には、なかなかに変なところで豪快なところがあるな。
「さてさて、リザちゃんはー……」
種族 デミヒューマン
クラス プリースト
性格 善
レベル 15
力 S
知力 D
信仰心 A
生命力 S
敏捷性 E
運 E
スキル プリースト9
ユニーク ブリューナク パラゲイザー
「うお……リザってもうレベル13越えてるのか!」
「えへへー」
俺の驚嘆に、素直に喜ぶリザ。
頬を両手で押さえ、ブンブン首を振る。
「ステータスも、Sとかあるし……お前、凄すぎだろ」
「逆に言うと、それしか取り柄無いんですけどね」
「いやいや、そんなことないだろ。これはすげぇ」
「そ、そんなに褒められても、何も出ないですよ」
顔を真っ赤にして、照れっこぶりっこしているリザを余所に、ハルナが怪訝な顔でマスターに質問する。
「えっと、ブリューナクは、ニョグタを倒したあれですよね」
「そうですね。ブリューナクなんて、顕現出来るプリーストそのものが稀です。ただ、リザちゃんのブリューナクは、確かに強力ですが、あまりに小さかった。その分、消費SPも少ないですが、威力も無かったわけですけど……」
「俺の強化スキルで、ニョグタを一撃で倒せるほどになったわけか」
「ご名答♪」
小さく拍手するマスター。
上機嫌のリザに対し、ハルナは更に不快な顔を露わにして続ける。
「このパラゲイザーって何ですか?」
「あー……それは、私の口からはちょっと」
苦笑しながら言うマスター。
いつもなら、面白そうに何でも言うところなのに。
何というか、こんなマスターはちょっと珍しい。
「……ま、何となく想像はつきました」
何やらほくそ笑むハルナ。
悪くなりそうな空気を変えるべく、俺がマスターに質問する。
「な、なぁ、他のスキルの詳細も教えて。プリースト9って何だ?」
「はいはい、お安いご用ですよ」
紙に指をさしながら、マスター楽しそうに解説する。
「プリースト9っていうのは、神聖魔法の第9位階までの魔法が全部使えるという意味です。例えば……ヒールは、まあ分かりますよね。生命力の回復で、傷を治します。キュアーは毒や麻痺といった異常を治療を。ディスペルは、アンデッドやデーモン系のモンスターを帰依させるスキル。ブレスはすごいですよ。すべてのステータスをおよそ1ランク上げることが出来ます。神の祝福ってやつですね」
「まじか。すごいな……」
「ただし、それだけのスキルですから、その分だけSPを消費します。普通のプリーストでも、4回も使えば限界です」
「リザであれば、それこそ1回が限度。そう言いたげですね」
若干、優越感に浸るハルナ。
リザを横目で見つつ、笑いを堪えている。
「まぁ、リザちゃんだとそうなるでしょうね。でも、信仰心Aクラスのブレスは、それこそ2ランクくらい上がりそうです」
「……確かに、冒険者で信仰心Aなんて、そういるもんじゃないですよね。ましてプリーストなんて」
「そうですね」
複雑な顔のハルナと、苦笑しながら言うマスター。
この空気はよく分からないが……
何か思うところがあるんだろう。
空気を再び変えるべく、質問していく。
「あとはどんなのが?」
「そうですね。例を挙げればホーリーライトとか? 神聖魔法、唯一の攻撃魔法です。武器にエンチャントすることも出来ますよ」
「エンチャント?」
「武器に属性をつけるっていうことですね。ゴーストなんかは、属性がついた武器じゃないと攻撃が当たらないです」
「なるほどなぁ」
……ゴーストとかいるのか。
やっぱりちょっと怖いな。
「それにリザレクション。蘇生魔法ですね。ただし、死後3日以内であることが条件ですね。それを過ぎると、もう可能性は0です。まぁ、そうでなくても蘇生出来る確率は低いんですけどね」
「……失敗したら?」
「灰になります。一応、その状態でも蘇生魔法は効きます」
「じゃあ、それで失敗したら……?」
「完全に、この世から消滅します」
「な、なるほど……」
思ったよりあっさりと言い放つマスター。
俺の背筋にゾクリと冷気が走った。
「まぁ、リザレクションを使うような状況にならないでくださいね」
「そ、そうだな。要は、死なないようにすればいいんだ」
強がりを言うように、俺はからっからの言葉を捻り出す。
そんな俺を支えるように、右手にハルナ、左手にリザが寄り添う。
「その通りです。私がいる限り、ユウジを死なせたりはしません」
「そうです。私がユウジさんのお側につきますから」
「あらあら、お熱いですね」
心底嬉しそうな顔をするマスターに、俺達もつられて笑った。
ひとしきり笑ってから、マスターが提案してくる。
「さて、今日はお買い物を楽しんできてはいかがです? お金も手に入ったんですし、ハルナちゃんにしても、リザちゃんにしても、足りないものがあるようですし」
チラリと2人を見る。
すると、思い出したように俺におねだりしてきた。
「そうです、ユウジ。是非そのお金で買って貰いたいものがありますっ」
「わ、私も欲しいものが……!」
ぎゅっと腕に絡みつく女の子2人。
片方はステータス表でも確認出来るほどの怪力で冷や冷やしているが……
だがしかし、この状況。
男、冥利に尽きる!
「よし、この金はパーティーの財産にしよう。お前たちの好きなもの買ってやるぞ!」
「わーい!」
大喜びの2人。
マスターは、満足そうに俺達の背中を見送った。




