第13話 この人怖いんですけど
今回は都合上、短めです
「はい、どうぞ」
「あ、俺の財布……」
俺に手渡されたもの。
それは、生前に使っていたものと同じ財布だった。
マジックテープ式であることに、何度笑われたことか。
バリバリ。
「昨日、君がポーチから摺られたんだよ。それを拾ってあげたんだ。でも、渡しそびれちゃってねー。謝礼は一割貰えるかな?」
何やら期待を込めた眼差しを向けられる。
真っ白な肌が印象的。
髪の1本1本が細いのだろう。
さらさらとした、腰まである長い髪が揺れる。
目はつり上がっている感じだが、どこか優しげにも見える。
そんな彼女の手首を、ハルナが掴んだ。
「相変わらず、手癖が悪いようですね、メル」
「えっ、何、知り合い?」
「知り合いでは無いですね。私もあなたも、色々と有名ですから」
「私もハルナちゃんのことは知ってるわよ。いろんな名前があるけど、トカゲちゃんっていう方がいいのかしら?」
「……それはどうも」
明らかに怒気を含んだ声をあげるハルナ。
対して、メルと呼ばれた女性は、飄々と言葉を避けているように見える。
俺は、すぐ横にいるリザに耳打ちする。
「な、なぁ。あれって誰なんだ?」
「メル、と呼ばれています。フルネームは聞いたことが無いです。商才があって、かなりの商売上手とか。そのおかげか、かなりお金を持ってるっていう噂です。ただ……」
「ただ……?」
「手癖の悪い盗賊とも噂されます。組んだパーティーメンバーのお金を掠めとったとか、お金のためにパーティーを全滅に追いやったこともあるとか。悪い噂をあげるとキリがないですね」
「なるほど……」
ハルナが噛みつくわけだ。
しかも、今まさに俺の財布には、安くない金が入っている。
狙われるのも、無理はないということだ。
「相変わらずですね、メルさん」
「はぁい、マスター。ご機嫌いかが?」
「おかげさまですこぶる良いですよ。メルさんのほうはいかがです?」
「まぁ、この通りってね。私を取り巻く環境は、常に厳しいわ」
にんまりと笑いながら言う。
一方、笑顔のマスターが、声色だけ少し変えた。
「とりあえず、ユウジ様のお財布を返してもらえますか?」
「あら、ごめんね。お姉さん、イジワルするつもりは無かったのよ?」
そう言って、俺に財布を戻してくれる。
しかも丁寧に、両手で差し出してくる。
「次からは気をつけなさいよ、カタガミユウジ君♪」
俺の背中に悪寒が走った。
思わずひったくるように財布を受け取る。
それを、ニヤニヤしながら見つめてくるメル。
なぜこいつは、俺の名字を知っている?
大体、この世界では、俺が片上勇二というフルネームを知っているのは、俺とマスターだけのはずだ。
っていうか、ハルナに捕まれたままだったはずの腕を、いつの間にか元に戻しているし。
本当に、ただ者じゃない。
「メルさん、いい加減にしてください」
「あらら、マスター。随分この子の肩を持つんですね」
「正確には、今のメルさんの肩を持てない、というほうが正しいですね」
「あらあら、じゃあ仕方ない。ここは撤退ね」
髪をふわりとなびかせて背を向け、そのままギルドを出て行った。
ハルナは威嚇するように、歯を食いしばり、息を荒らげている。
リザも、何やら訝しげにその背中を見ていた。
「ま、まぁ。返してもらったんだし、それは良しとしようぜ。とりあえずは、レベルのチェックだっ!」
「……はい、そうですね」
「私も、なんだか強くなった気がします……!」
空気を変える意味で、俺は少し声を大きくして言った。
小さく息を吐いて、ハルナも首を縦に振る。
リザも、俺に合わせるように明るい声を出してくれた。
「はい、それではどうぞ。ころっけちゃんのみなさん!」
改めてパーティー名を言われてずっこけてしまうが、それもマスターの狙いだと分かったのは、悪戯っぽい笑みを浮かべているからだった。




