第15話 莫大報酬でお買い物!
まず俺達が向かったのは、鍛冶屋だった。
リザの武器を作りに来ているのだ。
ニョグタとの戦いの際、溶かされてしまったらしい。
どうにも特注品のようで、普通の武器屋には置いてない様子。
リザが受付の女性に声を掛けると、明らかにひきつった笑顔を見せて対応してくれた。
……やはりというか、何というか。
リザにしても、ハルナにしても、招かれざる客という感じなのだろうか。
「い、いらっしゃいませー。修理ですか? それとも注文ですか?」
「以前作ってくれたことのあるメイスを作って欲しいんです」
「承知しました。ちょっと履歴を調べますね」
パラパラと帳簿をめくる。
あるページに差し掛かった瞬間、目がまん丸になった。
リザと帳簿を交互に見て、信じられないという文字を表情に張り付けていた。
「あ、あの。贈答用……あ、いや、儀式用ですか?」
「私が使います……」
恥ずかしそうな、消え入るような声で返事をする。
しかし、何だかんだと細かく条件はつけているようで、何やら必死に伝えており、受付の女性も、必死にメモをとっている。
ハルナが帳簿をのぞき込むと、ひきつった笑いを見せて、俺に耳打ちしてくる。
「総重量100キロのメイス。それは驚きます」
「あぁ、なるほど……」
確かに、そんなもんは市販などされていまい。
特注もいいところだ。
「ちなみにいくらくらいするんだ?」
「履歴だと、5万リム……って高すぎです!」
「いやでも、あの力で、でっかいメイス振り回してくれれば、かなり頼りになるんじゃないかな。これはいい投資だと思おう」
「むぅ~……なんかユウジ、リザには甘くないですか?」
「そんなことないと思うぞ。それに、次はお前のだしな。リザの注文が終わったら行こうぜ」
「絶対買ってくださいよ?」
「あぁ、約束する」
そっぽを向きながら、こっそりと小指を差し出してくる。
俺は、それに小指を絡めてやった。
やはりそっぽを向きながら、ハルナは嬉しそうに笑った。
◆ ◆ ◆
「えぇっ!? 買われてしまったんですかっ?!」
「残念だったねぇ。どうしても買いたいってお客さんがいたもんだからさぁ」
ニヤニヤしながら言う親父。
その顔からは、悪徳商売人の香りしかしない。
親父の表情を見て、ハルナは拳を震わせ、怒りを露わにしていた。
俺達が来たのは、リルガの町唯一の質屋だった。
ここに来る少し前のやりとりがこうだ。
「私が、とにかく食うに困って、断腸の思いで質屋に入れた刀があるのです」
「へぇ、なるほど。ハルナが買いたい、というか買い戻したい物ってのはそれなのか」
「はい。とてもよくしていただいたお爺様から戴いた、名匠が仕上げた刀です。銘はオニギリマルと言います」
「オニギリマル……」
なんか、某大将みたいだな。
やっぱり、オニギリと言われると、ついご飯のオニギリを想像してしまう。
「ここしばらく、私はオニギリマルを買い戻すために頑張ってきました。その悲願が、今叶うのです!」
目を輝かせるハルナ。
相当に嬉しいのだろう。
子供のようにはしゃいでいる。
「そんな大事な武器を、何で質屋に入れたんですか?」
リザが最もな、それでいて、俺が敢えて聞かなかったことを質問する。
「……うるさいですね。他の刀では値段がつけられないと言われたのです。きっと、私だからと足下を見られたのでしょう」
ドスンと音がした。
どうやら3本目の腕で地面を叩いたらしい。
思いだし怒りというやつだろうか。
でも、気持ちは分かる。
恐らくは、かなり不当な扱いを受けたに違いない。
「まぁ、これで私も本調子になれるというものです。見ていてください、ユウジ。きっと、もっとお役に立ちますよ!」
と、そんな見栄を切ったあとの、この状況。
証文に書かれた保存期間は、確かに過ぎている。
この親父のやることに間違いは無い。
無いのだが……
「期間が10日は短すぎないか?」
「そう思うなら質入れなんてするもんじゃねぇぜ、坊主」
「くっ」
口八丁手八丁な親父に、俺がかなうはずもない。
何か言いたい気もするが、言葉が出てこない。
「まぁ、金があっても物は流れた。あとは、その買い主から取り戻せるか交渉してくれや。流れた先のこたぁ知らねぇよ」
「……この親父の言う通りです。出ましょう」
「あ、ハルナっ!」
引き留めようと思うが、肩すかしされる。
俺は、親父の方に向き直る。
「じゃあせめて、買い主の名前と住んでる場所を教えてくれよ」
「おいおい、冗談も程々にな。商売は信頼が第一だ。顧客情報なんざ、そう教えてやるもんか」
「くっ……」
さっきの、買い主を探せという言葉も、単なる挑発だったというわけか。
この狸親父め。
「ま、急な入りようがあったらいつでも来いよ。待ってっからな」
卑下た笑いを浮かべて、俺達の背中を見送る親父だった。
「仕方ないです。新しい刀を一振り購入してもらえますか? 武器屋に一本だけ在庫があるはずです」
怒りを露わにしつつ、武器屋へ向かう俺達。
その感情に比例するように、ハルナの歩みは速まる。
俺もそうだが、何よりリザが追いつかない。
敏捷性Eは伊達ではないようで、懸命に追いついてくる姿が妙に愛らしく見える。
「なぁ、ふと思ったんだけど……その刀、もしかしたら売れてる可能性もあるんじゃないか?」
「それは無いですね。刀なんて使ってるのは私くらいのものですから」
「あぁ、確かに……」
俺もそうだが、この世界の人間は、みんな西洋風の諸刃剣だ。
ハルナのような片刃の日本刀は珍しい。
「ほら、ありましたよ!」
武器屋について早々に、ハルナが展示品を持ってくる。
しかし、よくも置いてるな、そんなニッチなもの。
「お、ようやく不良在庫が売れたか」
「それはよかったですね。在庫一掃っていうことで、もっと値段下げてください」
「悪いが、お前にしか売れないが、お前には確実に需要がある代物だ。おいそれと値段は下げねぇぞ」
なんてこった。
こっちもこっちで、悪徳商売人の顔をしてやがる。
「だからって1万リムは高すぎます」
「嫌なら他で買えってんだ」
「…………」
こう言われてはぐうの音も出ない。
武器屋はここ1カ所だけだ。
残念ながら、売ってくれなければ買えない。
値段の交渉なんてあったもんじゃない。
それは、ハルナやリザからすればなおさらだ。
「いいよ、1万リム。出せばいいんだろ?」
「ゆ、ユウジ?!
「いよっ、さすが兄ちゃん、気前がいいねぇ」
俺は、素直に金を渡す。
その様子に不服なのか、ハルナが声を荒らげる。
「こんな法外な値段で買う必要なんてありませんよ!」
「いや、俺はそうは思わない。お前は、ニョグタとの戦いで刀を1本失った。それはつまり、刀1本で俺達を救ってくれたってことだ。金で買えるんなら安いと思わないといけないぜ」
「そういう問題では……」
「いやー、兄ちゃん良いこと言うわ。俺はちょっとばかし感動したぜ」
ハルナに割り込むように親父が口を挟む。
「その気概に惚れたぜ、兄ちゃん。そんな兄ちゃんに、とっておきの掘り出し物を紹介してやろう」
と、言いながら倉庫から取り出してきたのは、何てことのない普通の剣のようだった。
「これが掘り出し物?」
「あぁ、そうだ。本当はな、こいつは爺さんの代から受け継いできた剣なんだ。余程の奴が現れない限りは売るなってな。だが、その時が来たみてぇだ」
俺は、その剣を持ってみる。
すると……
(ユウジ)
剣から呼びかけられた。
そんな気がした。
「……何か特別なのか?」
「特別も特別さ。昔、魔王を倒したという聖剣って聞いてるぜ」
「何でそんな貴重なものがあるんだ?」
「簡単な話さ。俺の爺さんは、その魔王を討伐した勇者様の仲間だったんだ。この町を去るときに、爺さんに託したらしい」
「そんな大事なもんを、何で俺に?」
「言ったろ? お前に渡すべきなんじゃないかって、俺の勘が言ってるんだ。本来なら100万リムって言いたいところなんだがな。特別価格、50万リムでいいぜ?」
「なっ……!?」
大きく反応したのはハルナ。
リザも、小さく肩を震わせた。
そして、同時にまくし立てる。
「ユウジ、行きましょう! こんな戯れ言につきあってる暇なんてありません!」
「わ、私も同感です……!」
「あらそう? じゃあ私が貰おうかなー?」
横入りしてきた、いつのまにか現れた女性。
それは、さっきギルドで会ったメルだった。
あの剣を手に取り、品定めするように見ている。
「これ、結構なものよね。いらないってんなら、私に50万リムで売ってよ」
「ほう、姉ちゃんが欲しいってんなら別にいいぜ」
「あら、早くも交渉成立?」
「そりゃまぁ、先約が買うってんなら、さすがに売れねぇけどよ」
チラリとこちらを見る親父。
一方のメルは、にやりと笑い、俺にあきらめろと言うような表情を浮かべている。
だから、俺はついこう言った。
「よし、買うぞっ!」
「えぇっ!?」
ハルナとリザが心底驚く。
俺は、放心状態の2人を余所に51万リムを支払い、刀と剣を受け取った。
「というわけだ姉ちゃん。悪いが諦めてくれや」
「あら、残念」
俺は、彼女を横目に見ながらすれ違う。
向こうもまた、じっとこっちを見つめていた。
「よし、行こう2人とも」
「あ、は、はい」
2人の手を引っ張ると、店から出ていった。
◆ ◆ ◆
「よ、メル。いつもありがとな。カモが迷ってるときは、お前がいると本当に助かるぜ」
ここは、さっきユウジたちがいた武器屋。
親父とメルが、何やら悪い笑みを浮かべている。
「いいえ、おやすいご用よ」
「いやぁー、ようやく倉庫の肥やしが売れたぜ。最近は、こいつの偽物もいっぱい出回っちまって、そこらの冒険者ひっかけようにも見向きもされねぇ。たまに転生者をおだてては買わせるように仕向けても、肝心な金がねぇからなぁ」
「言ったでしょ。丁度良いのがいるって」
「あぁ、ありがとな。まぁ気の毒だが、爺さんも騙されたに違いないし、あの剣だって、きっと偽物だろうよ」
卑下た笑いを浮かべる親父。
そして、思い出したように金庫からお金を取り出した。
「それじゃ、いつもの礼だ。5100リム受け取れ」
「毎度」
親父から金を受け取ると、上機嫌な表情を浮かべて外へ出る。
だが、それも一瞬。
メルは、難しい顔をして考え込んでいる。
(あれは……ちょっと興味あるわねぇ)
内心呟くと、町中へと消えていった。
ブクマ評価いただけると励みになります。
というか、ポイント低いので、いい加減持たなくなってきました。
よければお願いします。




