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時空の三連星 第5章  第8話 完結

第5章 第8話:安住の時空へ(後編)

旅立ちの準備は、執事セル・サブライムの神懸かり的な差配によって、迅速に進められた。


「想定内、想定内、時空の引越しなど、サブライム家の執事にとっては完全に想定内の職務にございます……!」


セルは老体に鞭打ち、長い上着の裾を激しく翻しながら、屋敷内のすべての遺物や財産の次元圧縮手続きを完了させていった。その顔には、一族の壮大な未来へ同行できることへの、無上の誇りと喜びが満ち溢れている。

カイルとガイもまた、手足を激しく動かしてセルの雑務を手伝い、それぞれの妻と子供たちを守るための強靭な結界の準備を整えていた。

夜。屋敷の中庭には、一族全員が集結していた。

正妃シズを中心に、シエルと大きなお腹を愛おしそうに抱くリリ。サクラを抱くアオイとカイル、そして神の眼を持つミコを抱くハルとガイ。

ハルが指先をタクトのように小さく弾くと、空気中に幾何学的な魔力数式がドロリと広がり、空間に巨大な「時空の歪み」が発生した。

それは、現世のいかなることわりにも縛られない、未知なる次元への扉であった。

次元の嵐が吹き荒れ、屋敷の木々が激しく揺れる。

普通の人間であれば、その精神圧だけで発狂し霧散してしまうような極限の空間。しかし、サブライム家の面々の瞳には、恐れも迷いも一切なかった。なぜなら、その嵐の向こう側から、彼らを呼び寄せる「最も懐かしく、最も愛おしい温もり」が確かに伝わってきたからだ。


「――見守ってるよ、いつでも」


その瞬間、一族全員の脳内に、かつて肉体も精神も霧散したはずの神王・駿の『思念』が、どこまでも優しく、そして鮮烈に響き渡った。

時空の隙間から溢れ出た駿の絶対的な守護結界が、次元の嵐を瞬時になぎらせ、一族を包み込む。

シズはその温かい愛の残り香を肌に感じた瞬間、網膜を潤わせ、その美しい瞳からきらりと光る一筋の涙を流した。だが、その顔には、最愛の夫と再び完全に溶け合えることへの、至上の微笑みが浮かんでいた。


「貴方……今、私達がそこへ往きます」


シズが静かに手を掲げると、一族の総魔気が一つに結合し、眩いばかりの純白の光の柱となって天空へと突き抜けた。

シエルの純白の魔気、リリの異界の魔力、アオイの無駄のない武の結晶、そしてハルとガイの紡ぐ神域の結界。それらすべてが完璧に調律され、一族の肉体はゆっくりと、現世という次元の檻から解き放たれていく。

カイルはアオイとサクラを強く抱きしめ、ガイはハルとミコをその胸に引き寄せる。シエルはリリの肩を優しく抱き、その未来の命の鼓動を感じていた。

一族の結束は、時空の壁をも容易くさばき、因果の彼方へとその足跡を進めていく。

光が収まったとき、そこには静寂だけが残されていた。

サブライム家の広大な屋敷は、主たちを失い、ただの静かな空箱となって現世に佇んでいる。

しかし、次元を越えた遥かなる彼方――。

そこは、現世の因果も、魔界の闘争も届かない、どこまでも高く、澄み渡った青い空が広がる「安住の時空」であった。

新しい世界の柔らかな陽だまりの中で、シズは一人、テーブルに置かれた紅茶のカップを優雅に傾けていた。

その視線の先では、シエルとリリが仲睦まじく未来を語り合い、アオイとカイルがサクラの成長に目を細め、ハルがガイの隣で、相変わらず真っ赤な顔で「ばーか」と呟きながらも、神の眼を持つミコを愛おしそうにあやしている。セルもまた、「これぞ想定内の大団円」と言わんばかりに、誇らしげに控えていた。

シズはカップを音もなく戻すと、そっと横に視線を向けた。

そこには、肉体を持たずとも、確かに自分を優しく包み込み、隣で微笑みかけてくれている最愛の夫・駿の『思念』が、確かな形を持って遍在していた。


「私達の、新しい始まりですね、貴方……」


時空を栽いて互いの交流はどこまでも続き、サブライム家の至高の血脈は、永遠の絆と共に、この安住の地でどこまでも深く、美しく紡がれていくのだった。


            (第5章・完 / 《時空の三連星》大団円



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