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時空の三連星 第5章 あらすじ 第1話

             《時空の三連星》


第5章:至高の血脈と安住の時空あらすじ



カイルとガイがそれぞれアオイとハルの伴侶となってから一年の月日が流れた。日々に重ねる濃厚な「調律(営み)」を経て、夫たちから緊張感は消え去り、二人きりの時間はごく普通の睦まじい夫婦の会話が交わされるようになっていた。妻たちもまた、夫へ深い愛と礼節を敷く、穏やかな日常がサブライム家には根付いていた。

そんな中、長女アオイが最初に新しい命を身ごもる。母シズの時とは異なる安産で生まれた待望の女の子に、鉄面皮のハルまでが大はしゃぎするほど屋敷は歓喜に湧く。しかし、神王・駿しゅんの血脈を宿す初産の負荷は凄まじく、アオイは激しく魔気を削られて立つこともできないほどの肥立ちの悪さに直面する。決死の覚悟で挑んだアオイを支えるため、夫カイルは顔を緩ませながら甲斐甲斐しくケアに奔走し、執事セルも幸せな苦労に爆走する。春に因んで『サクラ』と命名された初孫を祝い、シズは庭園で青空を見上げ、時空の隙間から見守る駿の「思念」に語りかけながら、一筋の涙を流すのだった。

続いて、次女ハルにも待望の兆しが訪れるが、かつて駿との闘争で覚醒したハルの肉体には、胎児の成長と共に過酷な高負荷がのしかかる。ハルが気を失うほどの難産に対し、今度はシズが陣頭指揮を執り、困難を極める分娩と治療解析を担当。魔王の娘リリス(リリ)が強治癒魔法と身の回りの世話で支え、夫ガイはリリスの仕事を負担しながらハルへ命懸けの愛を囁き続ける。生死の境でいちゃつく二人の念話パルスを特等席で浴びたシズが、かつての駿との日々を少し羨む一幕もありながら、セルが「想定内」と叫んで老体に鞭打つ中、二人目の女の子が誕生。ムズがる瞬間にその眼を一瞬だけ発光させるという凄まじい神域の資質を持つその子を、シズは『ミコ(神子)』と名付けた。

また、このミコの誕生を機に、シエルがシズを「母様」と甘えて呼んだことから、次期当主としての自覚と礼節を叩き込むための「母様禁止令」が下される。同時に、これまで一族の序列を守るため厳格に『リリス』と呼ばれていた魔王の娘には、「シエルの子を懐妊したその時に、親しみを込めてリリと呼び、シズを本当の母様と呼ばせる」という未来の約束が授けられるのだった。

アオイが授乳できるまで回復し、ハルが絶対安静となる中、屋敷の危機を救ったのはリリスの爆発的な活躍だった。全員のケアから家事雑務までを人知を超えたスピードと完璧な作法でこなす異界の王女の働きに、かつて最上流貴族に仕えたセルさえも驚嘆し、シズも一目置く。さらにリリスは、カイルとガイが妻たちと抱擁し合える時間と余白まで計算して動いていた。その献身に応えるように、シエルとリリスは夜の調律で深い命の対話を重ね、ついにリリスは念願の懐妊を果たす。一同から親しみを込めて『リリ』と迎え入れられた彼女は、真の家族となった。

リリの懐妊と、彼女の背後にある駿の絶対的な思念の恐怖を悟った魔王は、現世との完全和解と永久友好関係を受諾。しかし、三つの至高の因果(サクラ、ミコ、そしてリリの胎内の命)が揃ったサブライム家の総魔気量は、もはや現世の次元許容量を遙かにオーバーヒートさせていた。一族の結束を以て、シズたちは新たな希望に向けて、誰にも邪魔されない「安住の時空」へと旅立つことを決意する。

セルの完璧な引越し差配のもと、現世を離れる一族を、時空を栽いて届く駿の温かい『思念(絶対的守護結界)』が優しく包み込む。現世の因果も魔界の闘争も届かない新世界で、サクラやミコの成長を見守りながら、シエルとリリはまだ見ぬ「名もなき未来の命」の鼓動を愛おしそうに育む。シズの隣には、確かに駿の思念が遍在していた。至高の血脈は、永遠の絆と共に、この安住の地でどこまでも美しく紡がれていく。

                 (第5章・完結)





第1話:至高の初孫、サクラ誕生



カイルとガイの二人が、正妃シズの手によってそれぞれアオイとハルへ伴侶としてあてがわれてから、早いもので一年の歳月が流れようとしていた。

日々に一、二回、本能の赴くままに濃密な交わりを重ねるという、常人であれば身も心も溶け去ってしまいそうな、甘美で過酷な夜の調律。  しかし、それを狂おしくも実直に続けてきた結果は、二人の夫たちの心境に、自然で確かな変化をもたらしていた。

今や、あの底冷えするような緊張感はどこへやら。  広大な屋敷の片隅、二人きりの私室に戻れば、彼らはごく普通の、どこにでもある睦まじい夫婦の会話を交わすようになっていた。  妻であるアオイもハルも、ただ男たちを調教し支配するだけでなく、日々の営みを通じて彼らを心から愛し、慕うようになり、そこには夫婦としての確固たる「礼節」と「敬意」が美しく敷かれていたのである。

そんな、穏やかで満ち足りたサブライム家に、大いなる奇跡が訪れる。  姉妹の中で、最初に新しい命を身ごもったのは、長女アオイであった。

かつて母シズがシエルを出産した際の、世界を揺るがすような過酷な霊障れいしょうとは打って変わり、アオイの分娩ぶんべんそのものは極めて順調な、いわゆる「安産」であった。  産声うぶごえを上げたのは、透き通るような肌を持った、待望の『女の子』。  この至高の血脈に加わった初めての姫君の誕生に、サブライム家の一同は、かつてないほどの歓喜に湧き上がった。

普段は冷徹な鉄面皮を崩さないあのハルでさえ、この時ばかりは、


「生まれた……! わたくしたちの、初めてのめいっ子です……!」


と、我を忘れて大はしゃぎしてしまう始末であった。

しかし、安産であったとはいえ、神王・駿しゅんの濃厚な血脈をその胎内に宿し、産み落とすということは、尋常な人間の身に収まるものではなかった。  初めての出産を終えたアオイの肉体は、想像を絶するほどに疲弊ひへいしきっていた。  シズの時ほどではないにせよ、その体内の膨大な『魔気まき』の大部分を、生まれたばかりの我が子へと削ぎ取られてしまったのだ。  顔色からは生気が失われ、しばらくの間はベッドから立ち上がることすら叶わない。(産後の肥立ち)が極めて悪いことは、戦う肉体を持つアオイ自身が一番よく分かっていた。  だが、彼女の瞳に後悔はなかった。母シズがそうであったように、アオイもまた、最初からこの命を繋ぐために「決死の覚悟」で出産に臨んでいたからである。

生まれた季節――春にちなんで、その愛らしい赤ん坊は、 『サクラ・サブライム』 と命名された。

サブライム家にとっての初孫の誕生により、静かだった屋敷は一転して、てんやわんやの大慌てとなった。  育児の準備、特権階級としての各種手続き、お祝いの差配。あまりの目まぐるしさに、普段は冷静沈着な執事セルまでもが、長い上着の裾を振り乱して廊下を駆け回る始末であった。  だが、セルの顔には、これ以上ないほどの幸福な笑みが浮かんでいる。まさに、これぞ「幸せな苦労」というものであった。

アオイの私室。カーテンが引かれた柔らかな光の中で、カイルはつきっきりでアオイのケアに奔走ほんそうしていた。


「アオイ、無理をしないで。ほら、温かいスープを淹れたから、少しだけでも口にしておくれ」


カイルは、細いスプーンで丁寧にスープをすくい、横たわるアオイの唇へと運んでいく。  普段のバイオレンスな力関係などそこには無い。動けない妻の身体を優しくき、髪を整えるカイルの心は、愛する妻を支えられる喜びと、我が子を授かった嬉しさで、もうたまらなくなっていた。  どれほど引き締めようとしても、その顔は緩みっぱなしで、締まりのない笑みがあふれ出てしまう。

そんなカイルの様子を、部屋の入り口から眺めていたシズは、可憐かれんに、そしてひどく楽しそうに目を細めた。


「フフ……カイル、本当に良い夫、そして良い父親になりましたね。アオイをよろしく頼みますよ」


「はっ、シズ様……! 必ずや、我が命に代えても!」


シズにとって、サクラは目に入れても痛くない「初孫」である。その愛おしい存在が、一族に新たなる光をもたらしてくれたことが、嬉しくて仕方がなかった。

その頃、ハルはアオイの枕元で、手慣れた手つきで医療解析いりょうかいせきの術式を展開していた。  彼女の細い指先が空中に複雑な魔力の軌跡を描くたび、アオイの体内の魔気の欠損部分が、精密に補完されていく。

「お姉様、安心なさい。わたくしの解析管理に抜かりはありません。数日もすれば、またわたくしにまさる、その美しき肉体を取り戻せますから。……今はただ、カイルに甘えていれば良いのです」


ハルの言葉に、アオイは弱々しく、しかし幸せそうに微笑んだ。

午後。  にぎやかな屋敷の喧騒けんそうから少し離れた、美しく手入れされた庭園。

シズは一人、ガゼボ(東屋)の陽だまりの中に置かれた白いテーブルセットに腰掛け、優雅に紅茶をたしなんでいた。  白磁のカップを持つ彼女の指先は、いつも通り完璧な美しさを保っている。

ふと、シズはカップをソーサーへと戻し、遮るもののない、どこまでも高く、澄み渡った青い空を見上げた。

流れる雲。心地よい風のそよぎ。  その空間のすべてに、肉体も精神も霧散したはずの、あの人の優しく温かい気配――『思念』が、確かに満ちている。

シズは、愛おしそうに目を細め、静かに、優しく呟いた。


「貴方、ご覧になってる……? 私達の、アオイの、可愛いサクラが……生まれましたよ」


その美しい横顔。  慈愛に満ちたシズの瞳から、きらりと光る一筋の涙が、流れるような優雅さでその頬を伝い、落ちていった。

時空を栽いてなお続く、夫・駿との永遠の交流。  新しい命を迎えたサブライム家は、その大いなる愛の思念に見守られながら、さらなる幸福の未来へと歩みを進めていく。


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