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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき


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検察審査会の人々31 

本編です。

本日2回目の投稿。


審査会やりますよ~。

「第七回審査会を始めます」


向井さんの開会宣言があった。


「はい。申し立て第二五八号暴行被疑事件の審査会議を始めます」


波野さんが向井さんの開会の声で事務局の仕事を始める。


「除斥事由の確認をします。事務局、被疑者、被害者の情報をお願いします」


「はい。被疑者、大阪府大阪市淀川区東養父町○丁目▢ー△、会社員、西山雄太。被害者、大阪府大阪市平野区北川原▢丁目○ー▽、無職、三波市郎」


「今読み上げてもらった当事者と身分的関係のある方はいますか?」


向井さんが司会進行していく。


誰も反応しないので次に進む。


「除斥事由がないようなので、臨時審査員の選定をします。事務局おねがいします」


「本日は一条さんが欠席ですので補充員の北口さんに臨時審査員をお願いします」


「は、はい! よろしくお願いします!」


「そんなに緊張しないでいいですよ? いつものように思った事考えた事を話して疑問がないようにしてくだされば大丈夫ですから」


「はい~。分かりました。でも議決カードは初めてなのでそこは緊張してしまいます……」


皆で微笑みあってしまった。


「それでは事務局、審査申し立てに至るまでの経過を説明してください」


「はい、分かりました、説明します」


それから波野さんが今回の会議の話が始まった。


今日の事案は暴行事件だ。


前回の会議の後に予告はしてもらっていたので、これから詳しい説明を聞くことになる。


被疑者の自宅の敷地内の駐車場に一台のバイクが止めてあった。


そのバイクを盗られそうになったと思った被疑者が被害者を押し倒して怪我をさせた。


というのが今回の出来事だ。


被害者はバイクを見ていただけと証言をしていて、被疑者はバイクを触ろうとしていたのを家の中から目撃していて慌てて飛び出し、「盗もうとしていた」「してない」の言い争いからもみ合う内に誤って怪我を負わせたと証言をした。


怪我は押し倒された事による左側の臀部と肘の強打と顔面を殴られた時の左ほお骨の打撲。


勢い任せに喚いて腕を振っていたら運悪く手が顔に当たってしまって、怪我を負わせてしまったのは悪かったと反省しているが、バイクを盗られそうになったからそういう結果になったのだと、被疑者はそれには反省はしていない。


被害者はその態度が納得できず起訴してほしいと訴えているのだ。


「まず、被疑者の自宅付近でバイクの盗難が相次いで発生しており、被疑者は自宅に駐輪しているバイクも狙われるのではないかと心配していた矢先の出来事です。そして被害者は境界線が分かりにくいとはいえ、被疑者の自宅の敷地内に入っているので場合によっては不法侵入になります。それから、被害者はバイクに触っていませんがバイクの盗難防止のチェーンから指紋がとれています。検察はこのチェーンロックについた指紋からバイクの盗難の被疑者ではないかと疑っているとのことです。が、物的証拠がないので立件していません」


波野さんが分厚い捜査資料の中から俺たちに必要な情報を抜き出して簡単にまとめて教えてくれた。


これから証言調書を読んでいき、分からない事や気になる事を話しあっていく。


「それでは思ったことを話していきましょう」


「波野さんが言ってたバイクの盗難の犯人はまだ捕まっていないんですか?」


「はい、その報告はされていません」


「うーん。この被害者が犯人やと思って話を進めたらこの事件は簡単に議決出来るんやな?」


「そうですけど、事件現場付近のバイク盗難の手口はチェーンロックを工具のカッターで切ってバイクを運んでいく、かなり強引なやり方だそうです」


「素人の犯行やなぁ。今はバイク盗まれるんがイヤやったら頑丈なチェーンロックが出て盗難防止の役に立つのがあるから、そっちに移行してると思うで。

カッター使ってるの見られたら一発やし、持ち歩いてるだけでも怪しまれるから主流やないわ。

もしこの被害者が泥棒する目的でバイクに近づいたんやったら、チェーンロックの鍵穴をいじって外すと思う。て、ことで、所持品の中にチェーンカッターが無ければ針金とかの細いもの、例えば安全ピンがあれば限りなく被害者は泥棒目的でバイクに近づいたと言える」


「渡辺さん詳しいですね」


俺は渡辺さんに突っ込みを入れた。


「だって、バイク盗難の被害者ですから!」


そう言って渡辺大介さんは涙声で叫んだ。


「あ、そうなんですか……。その時の犯人は捕まったんですか?」


波野さんが気づかわし気に話の続きを促す。


「はい、直ぐに。もう昔の話なんですけどね。駅の駐輪場に止めていたんですが捕まったのが中学生でした。バイクに興味を持ったけど触らせてもらえる知人がいなかったからチェーンロックを切って運び出したらしいんです。

大人びた顔の子やったみたいで、駐輪場の管理員も中学生やと思わんかったらしい。オレのMT誘拐事件の犯人が子供で初犯で逮捕されて判決が保護観察処分! 被害者からしたら判決軽ッ!って思ったけどそれが法曹界の妥当な判断やって言われてしもたら納得するしかなくて、悔しいかったわ……。思い出すと腹が立つ!」


と渡辺さんは鼻息を荒げた。


「ふうぅ……。で、所持品の中にそれらしいものはあるんですか? 窃盗事件が起きてからはカッターで簡単には切られへんように頑丈なチェーンロックで鍵はディンプルに買い換えたし。俺のMTの防犯は最強やで!」


「えーと、被害者の所持品の写真の中にはありませんねぇ」


「ホンマに? バイクに指紋なくてチェーンロックの鍵穴にあるんやったら窃盗犯やと思うねんけどなぁ」


「私も写真見せてもらえますか?」


速読してしまう河野さんが波野さんの所に置いてある記録を見せてもらえるように席を移動する。


写真のページをパラパラと捲って針金や安全ピンの代用になりそうなものを探していく。


そのページを捲るスピードがやはり速い。


「……見当たりませんねぇ。……あ、痛そうな顔やなぁ」


河野さんが被害者の顔写真を見つけて、もみ合った時に偶然手が当たって怪我をしてしまった時の具合を記録したものの感想を言った。


「あ、ほんまや」


波野さんも顔を顰めて同意を示す。


「折角のイケメンが台無しやな……」


波野さんの被害者の顔写真を見た感想だろう。


「え、イケメン!? 見たい!」


独身の平野さんがイケメンに反応して、完璧アイメイクの瞳がきらりと光る。


「怪我して台無しやって」


「それでも見る!」


「くくくッ……。どうぞ?」


「やった」


食い気味に返事をして席を移動する平野さんはウキウキとして記録を覗き込んだ。


「おぅッ! 勿体ない顔! ……偶然当たったにしては偉い腫れあがってる?」


「そういえばそう、かな?」


みんな気になったようで記録に集まっていく。


「うわ、すごい腫れてる!?」


「痛そうやなぁ」


「なんでこんなに?」


「んー……この怪我がなければ確かにイケメンやなぁ。元の顔の写真ある?」


「ちょっと小林さん、話が違うトコ行ってますよ!?」


「あ、ごめん。……でも、こんなに腫れあがるのっておかしいわ。偶然手が当たったにしては打撲創が出来るほど酷い衝撃やったん? 硬い物で殴った? 手で殴るくらいではこんなにボコッと腫れたりせーへんで?」


河野さんは写真のページから証言のページに移動する。


「証言では二人とも地面に顔をぶつけたとは言ってませんね。被害者は押し倒された時にお尻と肘を強く打ってるけど、手が顔に当たったと一致してます。被疑者は軽く振り払った、被害者は振り払われた時に強い衝撃があった」


調書を素早く捲りながら同時に証言の中から言葉を抜き出してくる河野さんは、記録の綴じ方を熟知している。


「河野さん速い」


「凄いですね」


松田さんと北口さんが別の事に関心を示す。


「被疑者の指にゴツいリングがあったらメリケンサックみたいに威力がでるけど?」


「あ、そうやな。メンズの指輪やとありえるわ。そんな写真あるんかな?……えーと、全身映したのがあるけど」


「あった! 写真に映ってる。これちゃう? こんな指輪ついてる手で振り払われたら怪我するん当たり前やな」


「当たったのが目やなくて良かったと思ったほうがええな」


「ファッションで指輪するんはええけど、凶器にされるのは恐ろしいで? 」


「なんか……不良マンガの世界?」


「ホンマやな……」


「これでこんな痛々しい怪我させられたら訴えたくなるわな~。わざとやなくても怒りが湧く」


「でも検察官は、バイク用ロックの鍵に被害者の指紋があるからバイク泥棒を疑っていて、被疑者を不起訴にした……」


「そもそも被害者がバイクに近づいて誤解させるような行動をしたから、って?」


「うーん。どうする?」


「被害者納得するか?」


「ドロボーの物的証拠ないしなぁ」


「んー……?」


「?」


向井さんと望月さんが今日も仲良く二人で記録を眺めている。


いつもの光景だ。


記録の写真のページで望月さんが被害者の腫れあがった顔写真をじっくりと見ているのだが、向井さんが何か思いついて望月さんよりも真剣に写真を凝視し始めた。


「なになに? 誠一さん? やっとスプラッタな写真に興味出た?」


「いや違う。なんか気になって」


「何が?」


「ピアス」


「ピアス?」


「長さが違うなって」


「えーと? 別に普通にファッションとして長さが違う物とかあると思うけど?」


「そうやねぇ。左右別のデザインのピアスつけることもあるし、片方にしかつけないとかもあるし。穴の数も違う事あるで?」


「そうやねんけどな? でも、さっき言うてたやん。針金とか安全ピンに似たものがあればって。で、思ったんやけどこれで代用出来へんか?」


被害者の顔写真に指さして左耳についているピアスのデザインに注目させた。


「男性でピアスしてる人が随分増えたけど、揺れるタイプて……言うたら悪いけど被害者に似合ってないなぁて、さっき写真見た時思ったわ。この顔やったら飾りのないシンプルなフープピアスの方が似合ってるのに。イケメンやのに勿体ない」


松田さんがズレた事を言っている。


「松田さん、イケメンから離れましょうか……」


「あ、すいません、そうでした。えーと、今気になってるのはこのピアスの飾りになっている棒なんですよね……」


「スティックですよ~」


「このスティック?が鍵穴に入れば犯行に及んだ可能性が強くなる?」


「で、そのタイミングで持ち主が見つけて、盗もうとした・いやしてない、の争いが始まったと……」


「検察の不起訴のストーリーが出来上がってきたなぁ?」


「服装もわざわざ顔が分かりにくい量販店のキャップ被って?少しでもご近所の防犯カメラに顔が映らんように?」


「あらら。もう疑いの目しか持てんようになってきた」


物的証拠がピアスの可能性があることから皆の推理ショーが白熱してきた。


「敷地内に勝手に入ってきてバイク見てるわチェーンの鍵穴触ってるわで、持ち主に疑われても仕方のない行動や」


「いくら自分が怪我してても起訴は無理なんちゃう?」


俺もみんなも同情出来なくなってきた。


「そろそろよろしいですかね……?」


向井さんが波野さんに議決カードを用意してもらえるように声掛けをする。


「はい、分かりました。皆さん席に戻りましょうか」


記録の周りに皆で頭を突き合わせるような会議になってしまっていた。


集中具合が凄まじい。


わらわらと自分の指定席に戻り、落ち着いた。


「では議決カードを配布しますね」


「お願いします」

今回は暴行事件を取り扱ってみました。

物的証拠がなくても状況証拠(指紋)があるので被害者が不利。


次の投稿がいつになるんだろう?

4000字を超えたら(おまけは例外)投稿しようと決めてます。


誤字がありましたらよろしくお願いします。

他人任せにしないで自力でチェックしろよ!とのツッコミが聞こえてきそうです……。

が!本当にありがたいので見捨てないでくださいませ~。

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