検察審査会の人々おまけ 高山君のお仕事
書店内の高山君のお仕事を書いてみました。
「え、なにそれ。先輩、確実に巻き込まれ体質なんちゃいます?」
「まきこまれたいしつ?」
何語?
「揶揄われてるだけやと思ってたら狙われてたって事っしょ? 他にも主人公補正、不幸体質とかいろんな言い方があるんっす。これはコミック担当ではよく取り扱う言葉っす」
何やら九条君が心配そうな声で、俺の相談事を聞いてくれた後の台詞だ。
少年系コミックによくある設定らしい。
「被害者になる前に自衛するっすよ?」
「俺被害者になるん? ただ居酒屋で働いてるってだけで……?」
どうやったら被害者になるんだ?
「たぶん。とはいえ、はっきりしてへんし、まだ様子みるくらいしか出来へんと思うっす」
なんともあやふやな表現するなぁ。
「その世界がどうなってんのか俺全然分からんしなぁ。なにがあったらヤバイ? 多分危機的な状況の判断が出来んかも」
「それはすんません、分からんっす……。先輩の周りにこうゆう話に詳しい人いてないんすか?」
「今日の審査会で心配してくれるメンバーもいてたけど、どうなんやろ……詳しいんかは不明やな。BL担当の野々村さんがいてくれたら教えてもらえたかもしれん。俺タイミング悪ッ!」
「そっすね……」
「出版社に頼んでその道のプロでもある編集者に助言をもらうか……?」
ここは本屋だ。
どんな情報でも編集部に問い合わせてみれば何かあるかもしれない。
ネット検索より俺が知りたいことがちゃんとわかるかも。
「あ、ここにBL本あるっす」
返本用のカートの中から一冊の商品を九条君が手に取って俺に渡してきた。
手渡された小説に視線を落とす。
綺麗な顔の男キャラクター二人が微笑みあっている表紙カバーのタイトルは、恋愛要素たっぷりな甘い単語が踊っている。
「明日ここに電話してみよか……。どんなジャンルなんか研修の一環やて説明して教えてもらえるように説得してみる」
「仕事熱心て思われていろんな事を話してくれそうっすね?」
「だといいな……。てゆうか、俺はそういう目で見られてるんか、見られてるんやったら見られんですむ方法があるか知りたい」
「難しいと思うけど頑張ってくださいっす?」
「うーん……」
「ほい、これでここの作業は終わりっす。手伝ってくれてありがとっす」
「あー、終わった? お疲れさん」
「早く終われたっす。先輩の棚整理手伝うっすよ」
「おぅ。なんかよくわからんけど梶さんが店の全部の棚整理やるって言うてたから、頑張ろ~」
返本作業のバックヤードから売り場に戻るために移動する。
「そういえば、梶さんが売り場入ってすぐに『棚が美しくない』って泣いてたっすよ」
「は? 泣いた?」
「っす。正しくは泣き崩れてた?」
「泣き崩れ……。でも俺が見た時にはご機嫌で整理してたけど」
「まぁ、本に囲まれてたら機嫌ええんすから、あの人」
「そやな」
売り場につながるドアを押し開けて棚整理をしている梶さんを探す。
「いらっしゃいませー」
「いらっしゃいませー、こんばんは。いつもご利用ありがとうございます」
俺はすぐ近くにいたお客さんと目が合って、笑顔で声掛けをしながら近づいて行く。
「先に梶さんトコにいって作業してるっすよ?」
「うん、頼む」
ここの常連の橋本さんが来ていた。
電車通勤の帰宅途中でほぼ毎日書店に寄ってくれるので、自然に顔を憶えてしまった。
お取り寄せをしてまで本を買って行ってくれているので、名前も把握している。
「橋本さん今日もきてくれたんですか、ありがとうございます。今日は何の本を探しているんですか?」
「あ、高山君。こんばんは。別に探している訳や無いんやけど、仕事終わりに寄るのが日課やし。てゆーか、帰り道に店があるから入ってきてしまうねん」
「あー、それは……すんませんでした。橋本さんの帰宅を邪魔してしまってたんですか~。本が誘惑してしまってますね」
「ホンマに困るわー、って、冗談やで」
「分かってます。ははは」
「でも高山君がこうやって、僕との挨拶に付き合ってくれるんが嬉しいから寄り道してしまうのは事実やねん。許してくれるか?」
「構いませんよ。ついでに買い物してくれたら?」
「あはは。僕の小遣いに余裕があればな。本を眺めてるだけでも楽しいからついつい吸い寄せられてしもて。……高山君、何かのフェロモン出してるんか?」
「ええッ!? 何のフェロモン!? 俺お客様吸い寄せてしまってるんですか!?。あー、だから今でも客足が絶えない書店なんかなここは?」
するとそこに梶さんがやってきた。
「高山君~、手伝って~……っとと。橋本様がいらしてたんですね、いらっしゃいませ」
「ああ、すみません。すぐ行きます」
「ごめんな、仕事の邪魔してしまって。今日はこれで帰るわ」
「そうですか。ありがとうございました。またのご利用お待ちしております」
梶さんが極上の笑顔で橋本さんを送り出す。
「さて高山君、仕事しような。外国語の棚やってくれるか? 九条君も入ってきてくれたし作業もスピードアップするで」
「はい、分かりました。九条君が手伝ってくれたらまた少し楽になるかも。早く終わって帰れます!」
「あー! そうか! 早く終わってしまう! ゆっくりやろ!」
梶さんはゆっくりと移動しようとペースを落とす。
「ちゃう! 早く終わらせて早く帰る! 仕事終わってるのに帰らんっておかしい! 俺見張ってますからね!」
ゆっくり歩こうとする梶さんの背中を押している俺。
梶さん担当はちょっと体力が必要だ。
「えー……。高山君に見張られるて、ストーカー」
「あほなこと言うより仕事! さくさくやる! えーと……九条君は?」
「うん。九条君は女性週刊誌に行ってもらってる。なかなか戻ってこーへんから心配しててん。案の定お客さんと喋ってるし?」
「いや、九条君の返本作業手伝ってたんですよ。そのほうが速く棚整理も終われると思って。で、作業が終わって売り場に入ったら橋本さんがいて挨拶してたら梶さんが呼びにきてくれたんですけど」
「橋本様。仕事の邪魔してくるからキライやねんなぁ……」
「は?」
いきなりの爆弾発言に思考が止まった。
「書店員にやたら話しかけてくるやん? こっちは仕事やから本に関する事やろうと思って接客するけど、雑談が多くて困るわ。高山君もよくあるやろ? 仕事が出来んようになったり」
「はぁ……そうですね。でもそれも接客なんちゃうかな~て思てますけど」
「うわー、人たらし~」
「なにそれ。はい、仕事しましょ。仕事。梶さんが嬉しくなる、楽しい楽しい本屋さんのおしごと~」
梶さん担当は難しい。




