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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき


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検察審査会の人々28

随分ほったらかしにしてしまっていました。

すみません。


ランチタイムです。

いきなり全員での昼食会が決まってしまって俺は焦った。


こんなことなら裁判所周辺の飲食店をもっと調べておけばよかったと後悔している。


「まだ一般企業は昼休憩にはなってないし、今なら全員で入れる所があるかも」


「グルメ探訪ミステリーツアーに早く出発せな」


裁判所の北側に行って、良さそうな店があることを願って敷地の本館を通りぬけて西門から北に向かって歩き出した。


道なりに歩いて行くと曾根崎通りに出たので、右に曲がって少し歩いてみると、濃紺の短い暖簾に小さく『天麩羅』と染め抜かれた白い文字が視界の隅に入った。


ん?


天ぷらか。


気になったので天麩羅の暖簾に吸い寄せられるように近づいて、何か情報がないかと暖簾の周りを確認する。


引き戸の横にA3サイズの和紙にちょっとクセのある手書き文字で『日替わり定食1000円』と書かれていて、野菜やエビの天ぷら・ご飯・味噌汁・小鉢・漬物と書かれていた。


「え……。この立地で天ぷらがこの値段? 安ッ!」


俺は思わず小さく叫んでしまった。


「なになに? 高山君さっそく美味しいお店見つけたん?」


平野さんが一番に反応して声をかけてきた。


「味の保証はできませんけど、ここ入ってみてもいいですか?」


指さして『天麩羅』の暖簾を見る。


「ここ?」


「高山君ここにするん?」


のんびりと追い付いてきたメンバーが口々に思った事を問いかけてくる。


「はい。この店で食べてみたいです。みなさんいいですか?」


「ええよ。僕らは勝手についてきてんねんから。高山君が食べたいものを同じように食べたいんや。入ろ入ろー」


早川さんが引き戸を開けて中に入っていくと、内装は少し年季の入った和風で天井から提灯がぶら下がっている。


お店の人がすぐに対応して席に案内してくれた。


店内はカウンター席が数席とテーブル席があるけど、ぞろぞろと順にテーブル席について座っていくと埋まってしまい、俺と有馬さんがカウンター席に座ることになった。


「いらっしゃいませ。一気にこんなにお客さんが入ってくれるやなんて。ありがとうございます」


カウンターの中から俺たちが席に着くのを眺めていた料理人が、笑顔で挨拶してくれた。


「いえ。こんなにいっぺんに来てしまって、すいませんがよろしくお願いします」


みんなを代表して有馬さんが返事をしてくれていた。


「えーと。表に張り出してあった日替わりをお願いします。皆さんはゆっくり選んでくださいね」


俺はカウンター席から振り返って皆さんに言う。


「あ、高山君もう決まってる! 早い!」


他に何か別の料理がないかとメニュー表を開いたけど、もう日替わりでいいかと思った。


「じゃ、オレも同じのにしよ」


「私も」


「右に同じく!」


そう言ってどんどん決まっていく。


「あらら。だったらもう全員同じのでもええんちゃう?」


河野さんが日替わりメンバーに便乗して皆まとめて同じにしようと提案してきた。


「異議なしー」


「ええですよ、日替わりで!」


望月さんが全員を見渡して答えた。


「では日替わりを人数分お願いします」


「ありがとうございます。日替わりを十四人分ですね。少々お時間をいただきます。お待ちください」


カウンターから確認をしてもらって一息つく。


「結局皆さん同じ物になりましたね」


「そうですね。先週小林さんたちが高山君と一緒に行ったランチでとても良い店を見つけてくれたと喜んでいたので、君とまたランチに行けば美味しいご飯にたどり着けると言ってましたね」


「え、なんですかそれ……?」


「平野さんも同じこと言ってましたから。それで、その話を聞いた向井さんが、なら今日も一緒にご飯食べに行こうということになり、出席者全員参加になりました。この店も、雰囲気が良さそうだし、居心地も良さそうだ。君は店を見つけるのが上手だね」


有馬さんに突然そんなことを言われて俺は驚いた。


「いつの間にそんな打ち合わせを……?」


「先週の現場の下見で移動中に話していたみたいですよ。その話を聞いたのが皆さんを駅まで送る時なんですけどね」


ああ、俺は有馬さんの車だったし、その後は俺はそのまま書店のバイトがあったから、そのあと駅まで送って解散したけど、その駅までの道中の車内で、オレ抜きでいろんな事を話す時間はあったんだ。


「それにしても梶さんの企画棚にはビックリしたよ。本当に君の言った通り、頭の中が……あ。なんて言ったらいいんだろう……?」


「いいんですよ、ヘンタイだったって言っても。面白い人だったでしょう? でも、ずっと望月さんと喋っていて、なんて言うんだっけ……馬が合う? 思考が似ている? 梶さんの考えていることが理解できる人? なんか梶さんが増殖した? 望月さんも凄いなぁって……えーと。……ははは。言ってるうちに全然フォローしてないなぁ。すみません、悪い事を言ってるんじゃなくて」


「十分な悪口です!」


俺の耳元で甲高い望月さんの声がキン!と突き刺さった。


「うわ!?」


ビクッとして勢いよく振り返れば、ドッキリに成功して喜んでいる彼女の笑顔とぶつかりそうになった。


「うひッ!?」


思わぬ至近距離。


接触寸前だったので望月さんも笑顔から一転、一気に後退った。


「あ! ごめん! 悪気はない! ごめんなさい!」


「悪気がないのは分かってるからええの! 私もごめん!」


自分の失敗に驚いて慌てて謝ってくれた。


「俺もビビった。望月さん気配なかった! いつの間に?」


「気配がないってのは……存在感ないってこと~?」


じと…と目を眇めて俺を攻撃しようと狙いを定めてくる。


「いや、そんな! 存在感凄くあるって! ホンマに!」


「わかればよろしい」


どうやら俺は望月さんに遊ばれたようだ。


訂正するとすぐに笑顔で許してくれた。


え、でも俺そんなに悪い……?


「あんまり騒いだらお店に迷惑になるからほどほどにな」


「はーい」


向井さんに窘められて素直に返事をしているのを見て、向井さんって望月さんを上手にコントロールしてるなと思ってしまう。


向井さんの言う事はちゃんと聞いているんだよなぁ。


望月さんは向井さんのいるテーブル席に戻って行儀よく座って、大人しく料理がくるのを待つことにしたようだ。


そして、それぞれのテーブルで雑談が始まり、他愛ないお喋りをしているうちに料理がどんどん出来上がっていく。


天ぷらは揚げたてのサクサクが美味しいので、運ばれてきた順に食べてもらう事にした。


テーブル席から次々と「熱い! でも、美味しいッ!」と叫ぶ声が聞こえてくる。


良かった。


カウンター内で天ぷらを揚げていた職人さんが黙々と天ぷらを揚げていたのを、俺は眺めながら時々スマホで写真を撮らせてもらっていた。


「その撮った写真をどうするつもり?」


有馬さんに聞かれたので、バイト先の書店にコーナーを作ってみようと思っていることを話した。


「書店の正面の棚で俺の担当の企画がやりたくて。美味しかったものや面白かったもの、行って楽しかった所とか綺麗な景色とかの写真をデータ化して、端末に入れて情報を出せるようにして置きたいなって思ってるんです。今まで撮りためている物を紹介する感じで。SNSではずっとやっているんですけど書店でもやりたいんです。店長には企画書の提出して、返事待ちの状態です。許可がおりたらすぐにやります!」


「君は情報収集が好きなんだね」


「そうですね。めちゃ好きです」


俺の話を聞いて有馬さんが少し呆れたように笑ってくれた。


「お待たせしました。日替わりです、これで皆さん揃いましたね」


日替わりメニューがすべてセッティングされたランチ用のトレイが俺と有馬さんの前に置かれた。


「そうですね、ありがとうございます」


「では。いただきます!」


俺は手を合わせてから箸を取った。


「いただきます」


有馬さんも小さく頭を下げてから箸を取る。


「どうぞ。お先に頂いてます~。高山さん、美味しいですよ! 美味しいお店見つけてくれてありがとう!」


平野さんがテーブル席からお礼を言われた。


「あはは。良かったです」


トレイには天つゆと豆皿に塩が入ってて、選べるようだ。


まずは何もなしで、一番上にのっていた大葉。


サクッとした歯触りが、味わう前の食感で美味しいのが分かる。


頭の中が蕩ける……。


思わずにやけてしまった。


蓮根・海老・しいたけ・カボチャ・さつま芋。


盛り付けを崩さないように順番に頬張っていく。


塩をつけてみたり、天つゆに浸して食べてみたり。


美味いなぁ。


そういえば、俺の母は揚げ物をあまり作ってくれない。


油汚れの後片付けが面倒だし、時間がかかると言って作らないのだ。


偶に作ってもらっても夕飯の時間に遅くなったりして、冷めてサクサク感がなくなってしまって恨めしそうにため息をつかれてしまう。


揚げ物は揚げたてでないと本当に美味しくないのだと実感した。


もうこれからは母には無理に天ぷらを作ってくれとは言わないでおくことにしようと思う。


作ってもらっているにもかかわらず文句を言ってはあまりにも不憫だ。


そういう反省を零していると、カウンターの向こう側から「お母さんに感謝の気持ちをちゃんと伝えてあげたらそれでええだと思いますよ?」と声をかけられた。


「そうですか?」


「ええ。美味しかった、ありがとう、ごちそうさまでした。その言葉が聞けたら、料理を作ったかいがありますから。僕は商売なので言葉と一緒にお金を払ってもらわなあかんのですけど。でも美味しかったって言葉は何よりも嬉しい、料理人にとっては最高の褒め言葉です」


カウンター越しに鼻息が漏れてきそうな言葉に素直に頷いた。


「そうですね。私も疲れて帰宅した時に息子が食事の用意をしてくれていると嬉しいし、美味しかったら褒めます。高山君、帰ったらご飯が出来ている事になれてはいけませんよ。ご飯を作って待っていてくれる人がいるのは本当に幸せな事なんですから」


有馬さんも何度も頷いて話してくれる。


「食べ終わったら普通にごちそうさまって言ってたけど、そういえば、ありがとうってまでは気持ちはこめてない……」


「これからは少しでも気持ちを伝えてあげると、お母さんも喜んでくれると思いますよ?」


「ちょっと……恥ずかしいですね。今更?って、きっと気味悪がられてしまいそう」


「あははは。頑張って!」


有馬さんに肩を叩かれた。


「はい~……」


俺はちょっと気まずい思いを持ったまま、日替わりを完食した。


皆さんはたいへん満足したようでご機嫌な表情のままランチタイムを終了し、午後からの議決書の作成に励もうとしていた。


俺は急に決まった昼食会で幹事を仰せつかり焦ったけど、皆さんが満足してくれたことにホッとして、心地よい疲労感と達成感を味わっていた。

オーソドックスな定食。

大阪でてんぷらランチをしたらこんなに安いお店はないのでは?と思われる事でしょう。

はい、私の妄想なので作中のお店は実在しません~。

食べに行きたいです。天ぷらランチ~。

京都で食べた天ぷらがとっても美味だったのを忘れられないです。

どなたか美味しくてお洒落で超リーズナブル(ここ大事!)なお店を教えてもらえませんでしょうか……。

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