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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき


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検察審査会の人々26

読んでくださってありがとうございます。


審査会の会議室です。

今日の審査会は交通事故の不起訴処分に対する不服申し立てだ。


現場は門真市、深夜一時の、住宅街の中でも交通量が多めの片側一車線の交差点で、事故は起きた。


被害者は二十代の男性、コンビニに買い物に行く途中で横断歩道を歩行。


被疑者は三十代の男性、乗用車で帰宅途中。


証人がいて、タクシーの運転手が被疑者の走行車線の反対側から、信号機の証言が取れている。


検察の判断は、歩行者の信号無視で不起訴処分となった。


大まかなあらすじを波野さんからの説明で聞いて、何が不服なのか分からないんですけど……。


「被疑者の供述では信号が青やったんですよね?」


「被害者は青信号やから横断したって言うてるんですよね?」


「証人は信号の証言しかないんですか?」


「事故を目撃したわけではありません」


「なんか中途半端?」


審査会メンバーが波野さんの大雑把すぎる説明を聞いて?マークを出している。


「まぁ、皆さん。供述調書を読んで行きましょか……」


「……そうですね」


向井さんが取り仕切って会議を進めると、会議室を見渡していた有馬さんも同意した。


波野さんは持って来ていた大きなタンブラーを開けてぐびっと喉を鳴らしている。


……波野さん、プライベートで何かあったんだろうなぁと、全員が悟った瞬間である。


気を取り直して記録調書のコピーの束を捲っていく。


俺は被害者の供述調書を読むことにした。


『高校時代からのダチと~久しぶりに会って~、難波で遊んで~メシ食って~……、それで後は……あー、なんやっけ? みんなで酒も飲んで……門真のタカハルん家で飲みなおしたんや。

それで、酒が足りんことに気ィついて、ゲームで負けたヤツがコンビニで調達することになって、オレが負けたんやー! つーか、オレやったことないゲームなんやから負けるの当たり前やんッ! ……で、無理やり買い出しに行かされてー。……途中で買い物の追加のスマホが鳴ってー金が足りんから一回戻るわって事になってーその時に横断歩道渡ってる時に見た信号が青やったー……』


…………これは、警察が調べた被害者の調書だ。


この後に被害者の住所氏名年齢などの個人情報が書かれて、拇印がそこだけ汚く汚れたように押されている。


酒を飲んで酔っ払った状態での事故か。


被疑者の供述調書を読んでみる事にした。


『僕は製薬会社の開発実験のデータ整理をしていてこんな時間になってしまいました。深夜やし、慎重に運転してましたから、スピードも信号もしっかり確認してます。

法定速度も真面目に守ってました。事故の手前の信号が赤やったから停車して青になったから発進して、事故現場になった交差点も青やし、普通に進入したら急に人影が見えて慌ててブレーキ踏んだけど全然間に合わんとぶつかってしまいました。

被害者は横断歩道のこの図面の×印で僕が運転していた車でぶつかって飛ばされて、この△印に倒れていました。

出血があるのかは分かりませんでした。

事故起こしたん初めてで、……もう、どうしたらええのか分からんようになって、パニックになりそうでした。

急いで車から降りて轢いてしまった人の確認に行きました。

声をかけたんですけど気を失っているようでした……。

その時にタクシーのおっちゃんが駆けつけてくれて「その人頭打ってるかもしれんから、動かしたらアカンで!」って、教えてくれて、おっちゃんが持ってたスマホで救急車とか警察とか電話かけてくれました。

僕がホンマは連絡せなアカンかったんやって、思ったけど、手が震えて操作できませんでした。すんません。

ふうぅ。

被害者の人を初めて見つけたんはもう交差点に入ってからでしたから、この図ではここです。この●印の地点で視認できました。

被害者の服装が黒っぽい長袖Tシャツと長ズボンやったんで余計に見えにくい格好やったと思います。

いや、被害者のせいにしたらあきませんね。ホンマにすいません』


深夜の運転で慎重に、事故が起きて気が動転していても逃げずに被害者の状態をしっかり覚えている。


それから証言をしてくれてるタクシーの運転してたおっちゃんの調書を読む。


『私は事故そのものを見たんやないんやけどな。あれは歩行者が悪いねんで。信号が赤やったから停車線で止まってずっとそいつの行動見てたし。

まず、そいつは酔っ払いやってゆうのがすぐにわかるくらいにフラフラと歩いてたんや。

横断歩道の真ん中でスマホが鳴ったんかなんか知らんけど、立ち止まって喋り始めたんですわ。

横断歩道やで? あぁ、図面で言うたらこの○印やな。私の車の真ん前やで。嫌でも目に入るわ。

そんで機嫌ようまた歩き始めて、渡り終わったとこでまた立ち止まって、今度は財布を取り出して中身を確認したんやな。

そこまで見てたけど、こっちの信号が青に変わって発進したんやけど、バンって音が聞こえたから何やの音や?と思ってルームミラーで確認したら、反対車線の後ろの方で乗用車止まってたんや。

音が聞こえたのは△印で、私が停車したのはこっちの□印や。

変なとこで停車してるから事故が起きたんやなて分かって。

ここでこの時間で通行人も目撃者もおらんし、ひき逃げされたりせえへんかと心配やったから、急いで車降りて駆けつけたわ。

そしたら、ちゃんと事故った車の運転手さんが降りてきて声かけしててな。

身体触ろうとしてたけど、気ィ失ってるみたいで動かんかったから、揺すったりしたらアカンって止めたんやけど、まぁ、酒臭かったわ。ホンマに。あんなになるまで飲んだらあかんわ~。

119番で救急車がくるまでにうめき声が聞こえたから良かったけどな、これで心肺停止状態やったら叶わんで?

とにかく救急車と警察に来てもらって、事故処理と調書とらなあかんけど、こっちも仕事の都合があるし、警察に連絡先だけ教えて後日改めて話すからってことしてもらって、こっちの用件はおわったんや。

はぁ。

それにしても加害者になった運転手さん可哀相やなぁ。

手が震えてスマホ出せてもガタガタしてて、よう電話出来んかったみたいで、私が通報したんやけどな、運転手さん凄い動揺してたで。可哀相やわ~。

でも私が信号見たのは確かに車の方が青信号やからな? 運転手さん庇った嘘なんかついてへんで!』


よく喋るおっちゃんだった。


事故の事をしっかりと覚えてくれていて、調書はもっと細かく書かれていたのだけど割愛する。


そしておっちゃんは何よりも被疑者の方を気にしているようだった。


一通りの調書を読み終わった俺は、波野さんの席の傍に置いてある実物の記録を見てみようと立ち上がったが、もう既に河野さんがページを開いてパラパラと捲っていた。


「もう読み終わったんですか?」


俺は近寄りながら他の人の迷惑にならないように小声で河野さんに話しかけると顔をあげてくれた。


「はい~。特技が速読なんで」


「そくどく?って速く読む?」


「そうです。親の介護の合間に気晴らしで速読のカルチャースクールがあって通ってたんですよ」


「へー。でも介護の合間やと、時間も限られてたんじゃ……?」


「たしかに、行けん時の方が多かったけど、ゆっくり時間かけて通ったんよ。スクールに通ってはるお仲間さんも皆自分のペースで来てるし、私もその一人の内やから何とも思わんかったなぁ。

それより小説が早く読みたくて仕方ないねん。特に推理小説や。あのハラハラドキドキする感じ! 

文字で追うのが楽しいわ~」


「俺は推理小説はどちらかというと苦手なんですよね……。いろんなトリックがあるけど、文字だけの説明を読んで想像してみるんですが。

どうやら俺はイメージするのが下手くそでなかなか……上手くいかないんです。何でなんですかね。読解力の問題かな……」


書店で働くからこそ、満遍なくジャンルの垣根を越えて読破したいんだけど、推理系はそんなことがあるから苦手意識が芽生えて手が出なくなったことを話す。


「何の話してるんですか?」


「あ、有馬さん。高山君が推理小説が苦手やってこと今知りました」


有馬さんも俺と河野さんの静かなお喋りに参加してきた。


「時刻表なら喜んで読むんですけどねェ……」


俺の得意分野を教えておこう。


「俺、あの本で脳内旅行できますから」


「流石。普段からそうやってプランニングを考えているんだね」


「今日はここからあそこまで行ってみようて時刻表を開いて、何通りのプランが出来るんか調べてみたり、スマホでも検索したり。面白いですよ」


「速読で時刻表読めるかな……。家帰ったらちょっと挑戦してみますわ……。そうかぁ、時刻表はまだ読んだことなかったわ」


河野さんは小声で独り言を呟きながら自分の席に戻っていく。


「有馬さんはしたことありますか?」


「私は時刻表は乗車時間とチケットの手配くらいしか使ってなかったねぇ。頭の中だけで旅行するなんて思いもしなかったよ」


「先週の下見後も、書店でキャンプ関連のコーナーから動かなくなりましたけど。有馬さん、キャンプが好きなんですか?」


「そう。自然の中で最小限の荷物だけで過ごすのが楽しくて。先週の帰る途中での向井さんのイベントのアイデアは面白そうだと思うよ。私も何かアドバイスが出来るかもしれないから、困った事があったらなんでも聞いていいから」


「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」


「……そろそろ皆さん、調書を読み終わってきたね。席に戻ろうか」


「はい」



今回の事件では三人分の調書を書いてみました。が、とーっても省略してます。私の稚拙な文章能力では表現できませんでした。すみません……。


当時の警察調書は手書きで書いた人の文字がたいへん読みにくかった記憶があります。

時間がなかったのか、元からそういう文字しか書けない人なのか、はっ、もしかして達筆過ぎて読めなかった私が悪いのか!?

今はどうなんでしょう?

パソコン利用してるんでしょうかね。

詳しい方いらっしゃいませんか?

調書用の紙に何ページも使われて、略地図も何枚もあって、写真の量もたくさん。

証拠になるものなので、何でも記録に残してあります。被害者の怪我の具合とか、ご遺体の全身の写真も。苦手な方がうっかり見てしまうと辛いトラウマになりますよね。

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