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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき


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検察審査会の人々25



望月さんが梶さんの作った推理小説の企画棚に吸い寄せられている。


彼女につられて次回予告された事故現場の下見に参加したメンバーも店内に入っていく。


売り場に入ってすぐの正面でインパクトのある棚だから、大抵のお客さんはまずそこで一瞬だけ足を止めて微かに仰け反るか見なかったことにしようと通り過ぎる。


向井さんと有馬さんはそんな彼女の後をゆっくりと歩いてついて行き、隣に並んで企画棚の鑑賞を始めるようだ。


俺は皆さんをとりあえず放置して、奥にある事務所に出勤を伝えてエプロンをつけながら連絡事項を受け取る。


向井さんがいれば安心だ。


今日のシフトで梶さんがどこにいるのか確認して、急いで売り場で企画棚に立っている望月さん達に合流した。


「梶さん今店長と打ち合わせ中みたいなんで、少し待ってもらう事になりますけど良いですか? 梶さんと話がしたいのは望月さんだけですか」


「大丈夫ですよ。私は実用書コーナー探しますから離れます。終わったらあそこに入って読んで待ってますから~」


そう言って平野さんは店に隣接するカフェを指さした。


「私もそうします! 用事が済んだ人からあそこに集合しましょか」


「じゃ、そういう事で、いったん解散ですね」


向井さんが告げるとそれぞれのお目当ての本を探しに散っていく。


「高山君の担当はどの辺り?」


「はい、レジの向こう側の壁面が旅行関係です」


「じゃ見に行ってくるよ」


「分かりました、行ってらっしゃい。気になる事がありましたら呼んでください」


「ありがとう」


有馬さんも自分の興味のあるエリアに足を向けた。


「高山さん凄いです、この棚! このセンス! 面白い! なんで赤ずきんがいっぱいおるん!? いつまでも眺めてたいくらいの可愛らしさ!」


望月さんが梶さんの企画棚が面白いと喜んでくれているみたいだ。


梶さんのセンスを垣間見ることのできるらしい棚づくりに、何人かのお客さんが暫くの間鑑賞してから徐に本を手に取り買っていくのを見かけたことはあるけど。


俺には梶さんのそんな高尚なセンスを理解することができなくて、お客さんが何冊か本を購入するのを眺めている事しかできないのが、……なんだか悔しくもある。


その梶さんのセンスに反応したのが望月さんだ。


どんな所に引っかかってくれたのかよく分からないけど、梶さんと同じ嗜好の持ち主だと思って放置しても良いのかどうか、悩んでしまう。


「あれ?……ここに狼なんて昨日までは無かったはず」


赤ずきんのラインダンスの端っこに小さな狼のぬいぐるみが本を抱えて座っている。


優雅に足を組んだ狼が、その身体の大きさに合った小さなロッキングチェアに収まっていて、俺はそのぬいぐるみに顔を近づけてじっくりと観察してみるが、……これは梶さんの奥さんの新作だと確信する。


「梶さん、奥さんに頼んで新しくぬいぐるみを作ってもらって追加したな……」


「へー。梶さん、奥さんの作品を使うやなんて、贅沢な企画の本棚やな。でも面白いなこの本棚」


向井さんが企画棚の感想を言ってくれた。


「これ……企画終了したらどうすると思う?」


「奥さんの個展に出すんちゃう? 人形作家なんやろ?」


「そうやろか……? 自宅に持ち帰って玄関に飾ってニヤついて一人で楽しんでそうやわ」


「一人?」


「うん。で、奥さんに生暖か~い眼差しを向けられてるか、引き攣った笑顔で遠くから観察される……。ふふっ」


望月さんが笑う妄想が一番信憑性があるかもしれない。


梶さんの行動に当てはまりそうで、……俺はこれからどんな顔をして梶さんと仕事したらいいんだろうか。


「それにしても、ここの書店はポップがあまりないね」


向井さんが店全体を見渡しての感想を言う。


「そうですね」


「ウチの近所の本屋はポップが邪魔で本の表紙が見えなかったり取り難かったりするんやけど、ここはすっきりしてて好きやな……」


「あはは。殺風景に見えてしまうんですけど、ここではできるだけなくしてます」


「何かあるん?」


「店長がそうしてみようって提案したんですよ。雑貨屋で買い物してる時に、ポップまみれで商品が見えなくなってるのが残念やったことがあるみたいで」


「あるあるやな。頑張って商品の宣伝してくれてるのはわかるけど、そればっかり一生懸命になって返って邪魔になってるパターン」


そうやって三人で店の商品の宣伝の批評談義をしていたら梶さんがこちらに歩いてくるのが見えた。


店長との話が終わったようだ。


「梶さん、お疲れ様です」


「あ、高山君。今日は早いなぁ」


俺が出勤時間よりも早く来ていることに驚いたようだ。


「梶さん、この狼のぬいぐるみ…」


「お? 気づいてくれた? そうこれ嫁さんの新作! 可愛いやろ? これで僕の企画棚が映えるわー」


梶さん登場で望月さんがそわそわし始める。


「そちらは? お客様?」


「はい、そうなんですけど、審査会のメンバーです。梶さんの話をしたら是非会いたいと言うので連れてきました」


「そうなんや……。いらっしゃいませ、お越しくださってありがとうございます」


お客さんだと知って丁寧に頭を下げた。


「あの! この本棚! 梶さんが作ったんですよね!? 素敵です、可愛いです、面白いです!」


「面白い言うてくれてありがとうございます。嬉しいです」


それからの二人の会話は馬が合ったように喋り続け、表情も明るく、そこだけキラキラとしたヲタトークを展開していた。


俺には全く理解できず、ただポケーっと突っ立っているだけになった。


それは俺だけじゃなく向井さんもそうだったようで、目が合ってこちらは苦笑いを浮かべる。


「向井さん、どうしましょ?」


「……そうやなぁ。恵ちゃんほったらかしにするん心配やし、一緒にいてるわ。高山君は仕事してや?」


「はぁ……。今日の担当は棚の整理やし、どうとでもなります。……てゆうか、ホンマは梶さんのサポートという名の監視なんで、梶さんが見える場所で棚の整理をすることになってます」


「…? なにそれ」


向井さんは怪訝な顔をして方眉を上げた。


本当に何それだよ。


先週のシフトで梶さんを放置して帰宅したら、実は梶さんが書店で一泊していた。


……というのが発覚して、朝一で出勤してきたスタッフが驚いたそうな。


それから直ぐに、梶さんの暴走を阻止できるスタッフが順番に梶さんのシフトに合わせた調整が為されて、今日は俺が監視する当番になった…という事らしい。


事務所でエプロンをつけながらの連絡事項を受け取ったというのはこの事で、「梶の暴走を見逃すな!」のタイトルから始まって先週の出来事を知らせる、店長直筆のペーパーを読まされた。


「店の恥を曝すことになりますが、トラブルがありました。

梶さんの例のヘンタイ行動が見つかりまして、スタッフが監視することで抑止できればという、苦肉の策です。辞めさせたとしても、きっと店の鍵をこじ開けて侵入して住み着くことを考えるような思考回路をしてますが、書店の仕事は無駄に出来るスペックの高い人なんで、クビにするわけにもいかず。

……変人なトコ以外は本当に書店にとっては貴重な人材なんで、やむを得ずこんな処置をしてます」


「……ははは。いるんやなぁ、そんな人はどこにでも。彼も悪い人ではないんやろうなぁ。ただ本が好きすぎるだけで、害はない」


「はぁ、そうなんです……病的に本が好きなだけなんです。が、なかなか世間には受け入れられない癖の持ち主で」


「あぁ! 今度、書店に泊まろうって企画を作るってのはどう?」


「え、わざわざ梶さんのために企画の提案するんですか……?」


俺は向井さんの提案にビックリした。


「もしかすると、彼みたいな人間がいるかも。本屋でキャンプもええんちゃう?」


「それは考えた事なかったなぁ……。店長に提案してみましょか。梶さんには内緒で」


「そうやな。サプライズ企画にして、喜んでもらいたいなぁ」


「もし通ったら発案者の向井さんも参加してくださいね」


「アハハ。時間が合えばもちろん参加するで」


「ありがとうございます。開催日は向井さんの都合に合わせられるように頑張りますよ」


「嬉しいなぁ。あぁ、……高山君、ここは僕がいるから作業しててええよ。恵ちゃんと梶さん大丈夫そうやし」


ずっと二人で楽しく話し込んでいて、梶さんと望月さんはこちらには見向きもしないのだ。


「いえ、そんな。向井さんこそ、何か気になる物があれば行ってきて下さい。俺は梶さんの監視が最重要任務なんで!」


俺と向井さんは小声でどうぞどうぞと勧めあっていた。


なんか……会計でお金のやり取りをしているおばちゃんたちのようだと気づいて、同時に苦笑してしまった。


変なの。


梶さんのような人って存在するんでしょうかね……?


書店や図書館のような、本が大量にある場所って好きです。

が、『住みたい』『本に殺されてもいい!』とまではいかない、中途半端な小生。

のめり込みが足りない凡人が妄想する世界を、読みにきてくださる方、ほんとうにありがとうございます。


誤字の指摘までしてくださる方、お世話になってます。おかげさまで読みやすくなり、大変ありがたいです。感想まで書いてくださって、とても嬉しいです。貴重なお時間を頂きまして恐縮しております。

次は審査会の様子をお届け……出来るように頑張ります。

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