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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき


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検察審査会の人々24



「さて、議決書を作りましょうか」


波野さんの一言から午後の会議が始まった。


「そうですね。よろしくお願いします」


向井さんも同意して波野さんに作成した議決書の草案を朗読してもらう。


今回の事件は会社経営権をだまし取られた、言わば詐欺事件である。


この複数の会社は元は被疑者との結婚生活を続けるための被疑者の実家から貸し出されたものである。


その結婚生活がないのであれば、名義をかえすのは妥当だと考えられる。


被害者が知らないうちに名義変更がなされたとのことだが、約束を破っている者に対してある程度の生活ができ、一部の資金調達に使われたと思われる以前の会社からの用途不明の出金援助があるが被疑者からの被害届等がないので立件はしない。


自分で一から立ち上げた会社の名義を残しているので、それで十分ではないかと、審査会では判断する。


言いたいことは午前の会議で散々言っていたし、もう意見だ何だと発言することもないようで、波野さんに議決書草案を朗読して貰うと、訂正も追加事項もなく短時間で終了してしまった。


すると望月さんが頬杖をついて独り言のように発言する。


「戸籍上の妻とは離婚せんのは不思議な関係やけど。

これ、被疑者である妻に好きな人ができたらどうなるんやろうなぁ?」


「え……」


またトラブルが始まりそうなことを言いだした。


「だってまだ離婚成立してないんやろ?」


「梶さんから聞いた話では、まだ離婚はしてないてことやけど」


「別れたがってるけどなかなか離婚届書いてくれへんてことで合ってるんかな」


「それはすみませんが聞けてません。てゆーか聞きませんでした。この供述書には書いてないから下手な事は言われへんけど、そうである可能性が高いと思います」


「うーん。梶さんに会いに行こ! 後学のためにもやっぱり今日は高山さんの職場に遊びに、やなくて、梶さんの話を聞きに行く方がええかな!」


物凄くええ顔してる?


「ええですよね?」


「あぁ、……。ええですよ?」


そうして望月さんは俺のバイト先についてくることが決まった。


梶さんに会って何をするのかはまだよく分からないけど、望月さんが行くなら誰か保護者のような(?)彼女の暴走を阻止できる人が必要になる。


俺は仕事をしなきゃいけないけど、望月さんと梶さんのやり取りを放置するのも危険だし。


ということで、向井さんも来ることになった。


そして、有馬さんも。


有馬さんは俺の担当している旅行関係の棚を見たいらしい。


……これも採用試験の一環かな?


「それでは次回のオハナシをしてしまいましょう」


波野さんが次回の話題をだしてきた。


「来週の事案はですね……。歩行者と自動車の衝突事故です。場所は門真市。松下町交差点。次回の会議のために下見に行かれますか?」


「はい。僕は行きます。行きますけど……」


向井さんが挙手したが……。


「私も行きます。勿論その後に高山さんの職場にも行きます! 誠一さん一緒に行きましょね~。車乗って来てるんでしょ~」


望月さんは事故現場と俺の職場をハシゴするようだ。


「私も行きます」


「俺も行きたいです」


有馬さんと俺がほぼ同じタイミングで答えた。


「ではその後に高山君のバイト先までよろしく。私も車で来てるのでまだ希望者が増えても大丈夫です。最寄り駅まで送ります。運転は任せて下さい」


「あのー……ちょうど本屋さんに行きたかったからついでの事故現場で、JRまで送ってくれるんやったら参加したいなぁ……ってゆうのでもオッケー?」


「事故現場は寄り道扱いにして高山君の書店で買い物ツアーに名称変更でも良いですね」


向井さんが少しお道化て小林さんの参加を受け入れる。


「何すかそれ?」


「どんな動機でもええねんて」


「そうそう」


「私も……今日は夫が帰る時間遅いて言うてたから参加してみようかな」


「河野さんも参加されますか」


「はい、時間に余裕があるんで」


「時間があるんは僕もや。帰っても今日はボランティア仲間でやってる近所の公園の掃除はナシになったからなぁ」


「へぇ。早川さんボランティアやってるんですか?」


「退職したらやることないからカミさんにボランティア活動しろって家から追い出されるんや。

山城さん、退職したら家でのんびりできるわけちゃうで。

ゴロゴロしてたら家族に粗大ごみ扱いされるし、そうなる前に老後の活動考えとかなあかんで」


「わかりました。なんか考えときます。私もあと数年で退職することになるやろし……切実な問題やわ」


真剣な顔で頷いていた。


「えーと、それじゃあ私は事故現場の略地図を準備してきますので、そのままで待っててくださいね」


そういって波野さんは事務局へと資料を取りに行ってくれた。


とはいえ、退勤までの拘束時間が残っている。


本来ならば議決書を作るのに時間がかかるのに、今回の議決はさっさと終わってしまったのだ。


波野さんが戻ってくるまでの間、俺はなぜ被害者と被疑者が取っ組み合いの喧嘩になったのか不思議に思ったことを打ち明けた。


「夫婦喧嘩で取っ組み合いになって、体勢を崩して倒れたらテーブルに頭をぶつけてしまい、更に激昂した。

まぁ、俺からしたら女性と胸倉掴みあったっていうのでもうアウトなんだけど……。

自分の家族である妻や娘、妹であったとしてもやっぱり女性に乱暴はダメやと思うんです。

これは俺が物心ついたときから母から絶対にしてはいけない事としてずっと言われ続けています」


≪女の子は大事にしなきゃいけないの≫


≪例え、女の子に叩かれたとしても、男の子は女の子を叩いてはいけません。あ、もちろん男の子も叩いちゃいけないのよ?≫


なんで?と聞けば、≪女の子に好きになってもらえないからよ!≫と叫ばれた。


当時の俺はまだ男女の区別なく皆で一緒に遊んでいたんだけど、ある時、室内遊園地の中で誰かにおもちゃを取られて泣いた男の子が女の子の顔を殴った場面に出くわした。


それを見た母は、男である俺にさっきの言葉を言った。


ずっと聞かされていたことを守っていたが、中学生くらいになって、そういえば…と思って聞いてみたら唖然とした。


≪当たり前じゃない。だって、結婚できなくなるわよ?≫


とまぁ、急に俺の結婚の話に飛んだ。


なんで?


≪女の子ってね、カッコイイ人が好きでしょ。そして、カッコイイ人が人を叩くような人だったら減滅するの。

自分を大事にしてくれて優しくしてくれる人を好きになるものなのよ?≫


そうなの? 俺そんなのまだ知らなくていい、まだ中学生なのに……と反発した。


≪ダメよ。貴方が小さい頃からずっと言っていたことを詳しく話すわね≫


母は真剣な顔で話し始めたが、思春期だった俺はあんまりちゃんとは聞かなかった。


女子は男子と違って、大抵の女子はうわさ話や恋バナが大好きで、朝喋ったことが下校する時には全クラスの女子がその情報を知っているそうだ。


情報システムが構築されていて、翌日には全学年の女子に拡散され、近所の学校の生徒まで飛び火していることもある。


そして、そんな中で女子に暴力を行ってしまったら、間違いなくつるし上げられるらしい。


女子の結束は恐ろしい。


どんどん孤立させられるのだ。


あんな可愛い顔をして、厭味や心無い言葉を投げつけてくる集団心理は本当に恐ろしい。


……とまぁ、物凄く脅してきたのだ。


「んー……。そうやなぁ。私、看護の仕事やってて、職場が女性ばっかりやから、女の面倒くさいのようわかるわ。

高山君のお母さんが高山君に警告する理由なんやけどな、もし高山君が将来素敵な女性に恋をして告白してお付き合いを始めたとして考えてな」


親や学校の先生では甘えが出てしまうし、バイト先以外の目上の人とこんな話が出来るのが初めてで、人生の先輩である皆さんの話を聞けるなんてことはそんなにあるわけじゃない。


急に人生相談みたいになってしまったけど、俺の疑問に答えようとしてくれる小林さんは女社会の巣窟のような(本人がそう言ってる)看護師という職種の主任をしていて、若いナースたちの相談事やプライベートな悩みを聞いていたりもする人だった。


「はい」


もう思春期という名の反抗期は卒業して、ちゃんと素直に人の話を聞けるようになったから話せる事なんだろうか。


「一般の女性は暴力をふるう男ははっきり言って人間やと思ってない。

女の子を叩く男は未来の妻や娘にも手をあげる可能性がある。

すぐに手が出る人はその内きっと自分の子供も叩くのではないかと考えて、周囲にも警告を発する。

それがどんどん拡散されてアイツは○○ちゃんを打ったらしい。怖いわ~。酷いわ~。信じられへん~。あんな奴と結婚しようと思う子がおったら教えてあげなあかんなぁ~。

と、まぁ、暴力をふるった事をいつまでも覚えてて蒸し返しては人の恋路を邪魔するんやろうな。

それが善意やと疑いもせん。

ついでに言うと、結婚も出来んし子供も出来ん。

当たり前やわな、子供を産むのは女性なんや。

男女差がいくら無くなってきていてもこればっかりは男性にはできへん大事なことや。

命がけで出産してくれる女性の身体を殴るなんて、あってはならんことやって……きっとそうお母さんは言いたいんちゃうかな」


将来赤ちゃんを産む女性を大切にしなければ……なんて考えたこともなかったな。


子供心にお友達とは仲良くする、とインプットされてるから、ケンカはあっても手や足が出る前の口喧嘩で終わってしまっていた。


うちには女兄弟がいないから母は余計に心配して俺にそういう教育をしたのかもしれない。


おかげで、俺は友達と些細なケンカはたくさんしたことがあっても、力任せに殴ったり蹴るなどしたことがない。


「それにしても高山君のお母さんも面白い子育てしてはるなぁ……」


「面白い、ですか?」


小林さんが温い微笑みで俺を見るので、尻の辺りがむずむずして気持ち悪い。


「そうやと思うで?」


「まぁ、時々、突拍子もないことを言い始める事はありますけど。そうですか、母は面白いんですか……」

いつも誤字の訂正を教えてくださってありがとうございます。

これからもよろしくお願いします。


高山君のお母さんの教育はちょっと行き過ぎか?と心配にはなりますが、これで育ってきた彼は母親にも優しいし、親に向かって「クソババア!」なんて反抗したこともなかったりします。

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