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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき


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検察審査会の人々19

審査会の後にバイトにも行きます。


「ただいまー」


家に帰りついて、自分の部屋に戻る前にキッチンに寄って、近所のコンビニで買ってきた缶ビールを冷蔵庫に入れた。


両親はまだ帰ってきていない。


自分の荷物を部屋に置いてから、風呂にお湯を入れる。


もう一度キッチンに戻ってきて冷蔵庫を開けて、夕飯のおかずを見つけてレンチンしてから食べ始めた。


実家暮らしのメリットはこうやって冷蔵庫を開けると何かの食べ物が必ずあるってことなんじゃないかな。


親の都合にあわせた生活はデメリットになるだろうけど、それは同居しているのだから俺に文句はない。


交際相手がいればまた話は変わるんだけど、今の俺にはそんなのは存在しないし、いい生活はさせてもらってて満足。


今日の夕飯の塩だれチキンとごはんと味噌汁を腹に詰め込んで、風呂にお湯が溜まったけどシャワーで済ませて身支度を整える。


さて、次の職場に出勤するか。


玄関前に置いている折りたたみ自転車を担いで居酒屋ではない方のバイト先へ行く。


審査会に出席した後に短時間で入れてもらっている。


お役所は時間通りに帰れるのが嬉しい。


その後の予定も入れやすくって便利?な職業。


だからみんな取り合えず就職の希望にいれちゃうのかな。


まあ俺の偏見だけどさ。


お? 今日は信号に引っかからずにスイスイと走れるな。


なんか良い事あるといいなぁ。


なんて思いながら自転車を走らせていく。


バイト先の書店に裏口から入ると、店長と出くわした。


「おぉ、高山。今から入るんか?」


「ども、入りますよ。新しいコーナー作り手伝ってて言うてたから、ポップはどんな感じのがあるのか気になるし、早めに来てみました」


推理小説のコーナーを設置する企画があって、その手伝いが今日の仕事だ。


コーナー用の本は届いていて検品まで出来ているとのこと。


事務所のロッカーから店のロゴが入ったエプロンを取り出して付ける。


美容師さんが使っている斜めがけのポーチに仕事道具を入れると、書店員モードのスイッチが入る。


企画を提案したスタッフの梶さんを探して、確認をしよう。


俺はシフト表を見て梶さんがいる場所に向かって店内を歩く。


「梶さん?」


早速見つけた梶さんは雑誌棚の整理をしている途中だった。


明日の早朝に入ってくる新刊雑誌が並べられるように、調整している。


「あ、高山君。お疲れ様、どうしたん?」


俺が声をかけると手を止めて返事をしてくれた。


「ども。コーナーの棚を作るの手伝おうと思って。ポップが出来てるなら企画用の棚に行って今置いてる書籍をバックヤードに移しますけど」


「おぉ、手伝ってくれるんか? 助かるわー。ポップも出来てるしやってやって、どんどんやってー。何なら全部やってくれてええで~?」


ヘルプの人材が早めにやって来たことに喜んでいるようで、作業を再開する。


「ハハッ。企画用の本は到着して検品作業も終わってるらしいんで、ホンマにどんどんやりますよー」


「うんうん。誰でも棚づくり出来るようにイラストで指示してるから、それ見ながら並べてくれー」


作業の手を止めずに梶さんは仕事を進めて行く。


「じゃあ、やりますねー」


「いってらー」


返本する雑誌を抜き取りながら手を振って送り出してくれた。


梶さんは俺に仕事を教えてくれた元教育係で、バイトから大学卒業と同時に社員になった本好きの推理小説ファンだ。


本を読むのが好きで、本屋で生活がしたくてバイトに入り社員になり、どうすれば本屋に住めるのかを本気で考えている変な人だ。


三十代になってもその夢を叶えたいらしい。


店長が辛うじて阻止しているが、それでも偶に店長の監視の目を潜り抜けて、何度か泊まり込みに成功しては怒られている。


一度だけ俺もそんな梶さんを発見したことがあって、店長に報告したことがある。


「死ぬときは本に囲まれてたい、て言うか抱かれて死にたいねん。それか本に殺されたい」と言っているので、そのヘンタイっぷりにビックリしたものだ。


まあ、梶さんのことは置いといて、まずは返却する本をごっそりと陳列棚から抜き出す。


入る分だけの書籍を運搬用のカートに詰め込んでバックヤードに保管する。


この本たちは段ボール箱に詰め替えて翌朝のトラックに乗せて、取次店に送って各出版社に返却される。


俺は何度もカートに乗せては段ボール箱に詰めてを繰り返し、棚が空になるまで片付け続ける。


きれいさっぱりと本がなくなると、とても寂しくなる。


「ふぅ、……やりますか」


バックヤードから新しいコーナー用の本が入った箱を探して売り場に出すのだが、一度事務所に戻って梶さんが描いたコーナーのイメージ図を出して確認する。


「ん?」


俺は思わず顔を顰めた。


推理小説の企画棚だよな?


ウサギとリスのセーラー服?


クマとネズミの学ラン?


赤ずきんがずらりと並んでラインダンス?


ファンタジーだな……


こんな企画だったか?


推理小説の棚を作るはずなのに。


……まぁ、……いいか?


梶さんの企画だし。


取り敢えず本を出そう、並べよう、そして後は梶さんに任せよう……。


最後まで見届けなきゃ、まずいか?


いろいろ何やら不安になってきたんだけど。


梶さんの頭の中を理解するのは難しい……と、諦めて、バックヤードのコーナー用の本が入った段ボール箱を三台のカートに詰め替える。


棚の面出し用の小説と、手前の平積み用の小説にここで分けてしまう。


えーと、一番上の棚に看板設置、その下の棚にポップ(セーラー服と学ラン)を置く。


一番下の棚にラインダンス……。


贅沢なコーナーの使い方だな……棚差ししないのか。


確認よし。小説を乗せたカートを押して売り場に持っていこう。


梶さんの指示通りに本を棚に並べていく。


もう事細かに明記されていて、この棚にはこの作家のタイトル五冊、隣にはあの作家のタイトル五冊、全部書いてくれている。


棚の面出しが終わる頃に梶さんが進捗状況の確認に来てくれた。


「高山君、指示通りにできてるね。僕の作業は終わったからこれからここに入るけど。何か困ってることない?」


「はい、梶さん! 分かりません」


俺は学生の様に挙手した。


「んー……どこが?」


「何で赤ずきんがラインダンス? 動物の学生服がなんで必要なん?」


「大事! 滅茶苦茶必要やで?! さては大事な作品読んでないな?」


読んでません。俺は推理小説が得意ではないんで。


「俺の売り場担当は旅行コーナーやし。それに、梶さんが企画で取り寄せたコーナー用の本って推理小説ちゃいますよ?」


「何を言うてるのかな? これは立派な推理小説になる作品たちだよ! ポップはまだ事務所に置いたままなんか?」


カート一台しかまだ売り場に出してきていないので、飾りつけのグッズはここにはない。


「僕が持ってくる。高山君は、そのまま作業頑張ってー」


梶さんはさっさと事務所に行ってしまう。


暫く一人で棚づくりしていると梶さんがいそいそと嬉しそうに戻ってきた。


「何か……楽しそうですね」


「うん。楽しいで~、棚づくりは! 高山君、これを一番上に置いてくれんか? 僕はちょっと離れたとこからバランス見てるし」


そう言って梶さんは企画用の看板を取り出して俺に渡してきた。


「了解ですー……」


えーと。


看板……やんな?


横長の板から人形がぶら下がっている……。


トラ?のぬいぐるみがパステルブルーの可愛いプリンセスドレスを着て首つりをしていた。


手のひらサイズの愛らしい人形なのに何故?


トラとロープで繋がっているのは柵か?


テラスによく見かける白いフェンスのミニチュアに括り付けられていた。


どうやって作ったのかな……。


『君が推理するんだよ?』という文字が柵の上で踊ってる。


いや、本当にポヨンポヨンと、バネの力で揺れている。


笑った方がいいのか、ツッコミを入れた方がいいのか、真面目にこの看板の感想を述べた方がいいのか。


わからんッ!


無視だな。


反応したら負けのような気がする。


冷静に、悟りを開くぞ。


「オッケー、そこでええよ。ありがとー。後は飾りつけと平積み……やけど、高山君、最後まで手伝う?」


「そりゃあやりますよ。そのために来たんやし。梶さんを早く帰らせるために俺がシフトに入れられてるし。泊まり込みさせたらアカンって、店長から言われてる」


「まじめー。でもありがと。ではでは。高山君はどんどん本を出してって。僕は学生たちの準備するから」


「…………学生たち? あ、学ランとセーラー服?」


「そう。赤の学ランと白の学ラン、ピンクのセーラー服と紫のセーラー服。可愛いでしょ。ウチの嫁さんの力作! ちゃんと作品のイメージ通り! 流石やな!」


「え、その動物のぬいぐるみって奥さんの手作り!? 奥さんも何者!? あ! 赤ずきんも?」


「そうでーす! 嫁さんなんでも作る凄い人 だから頼めば特注の赤ずきんができましたー!」


そして出してきた赤ずきんの人形はいろんなポーズが出来るらしい。


動物たちのぬいぐるみをさっさと並べた。


ドールスタンドも持参して人形にとりつけ、股関節を弄って全員同じ形に揃えて並べる。


右足を高々と上げている赤ずきんが十体並べば、……不気味だ。


可愛くなくなるのはどうしてだろう。


「赤ずきんがパンツ丸出し……」


俺がそう呟くと梶さんが「それはズロースっていうんだよ」と訂正してきた。


どっちでもいいよ。


それからは、俺はもう精神的にも疲れてしまって、梶さんの趣味丸出しのコーナーの手伝いを黙々として、完成させると同時に逃げるようにして帰った。


店長に梶さんが帰るのを見届けてから帰るようにいわれてたけど放置だ。


俺の思っていた推理小説コーナーとは全然違ってて、この作品はナナメに読めばこれは推理小説ですよ~、と気づかせるコーナー企画だったらしい。


推理サスペンスはストレスかかるから苦手で読んでこなかったけど、満遍なく挑戦してみなきゃダメなのかな、なんて少し思い始めていた。




そして、次の審査会の資料で証人調書で梶さんの名前を見つけて、俺は「はぁっ!?」と大声をあげて驚いてしまったのだ。

不定期ですみません。

ストックもなく、自転車操業(使い方合ってますか?)です。

ある程度の量が書けたら投稿してます。

牛の歩みではございますが何とかない頭を使って続けていけたらと思います。


そして、誤字を指摘してくださる優しい読者様ありがとうございます。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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