検察審査会の人々17
休憩時間が終わって、更に意見を出し合っていたけど、メンバーの見る結果のゴールは同じだった。
前回と同じように午前中に不起訴相当と決まってしまった。
俺もだけど、歩行者が無理な横断をしたのが事故の原因だと思う。
審査会のメンバーがもう十分に意見交換をして何もいうことがなくなってしまった。
望月さんの毒舌タイムもあって、「今日も恵ちゃんご立腹~」と向井さんが頬杖をついて閉める。
望月さんは俺より三ヶ月前から審査会をやっていて、その時からこの正しい事を言ってるけど周りの大人たちがドキッとする毒を吐いているらしい。
今回の交通事故の件でも、皆が話している事を彼女なりに整理していたけど途中からヒートアップして止まらなくなった。
その発言は、今までの大人なメンバーたちの優しい言葉をブルドーザーのように押し流してしまう。
「慣れとか経験値とかで自己判断して、結果事故に会ってたら自分の責任であっても、加害者側にとってはえらい迷惑な話やん。
それってなんやねん。
交通ルール守って往来してるただの通行人やのに、いきなり出てきてぶつかりそうになって加害者側にされて。
迷惑してるのはただの通行人やん?
この事件もそういうことやろ?
普通にバイクに乗って走ってただけやのに、被害者のせいで事故らされて、警察が来て何回も同じこと訊かれて、時間とられて、調書取られて、序に逮捕されて手錠までかけられて、んで、いつの間にか犯罪者にされて?
あー、……あかん。なんやこの原付少年が可哀相になってきたわー」
俺もこの事故のことはそう思うけど、こんなにすっきりさっぱりとした暴言は出せない。
望月さんて本当に真っ直ぐに正直に生きていて面白い。
良い物は良い、悪い物は悪い、勧善懲悪の精神で生きている彼女に拍手を送りたい。
年上のオトナばかりのこの場所で物怖じせずに発言するのだ。
何とも、天真爛漫で男前な望月さんにはどこか悪の組織を殲滅してほしいものだ。
そんなものはこの日本にはないのだろうけど、あったらきっと一番に駆けつけて叩きのめすのかもしれないなぁ……。
なんて変な妄想していたら議決カードが配布された。
「まぁ、皆さんも恵ちゃんと同じ考えなんやろうとは思いますけど、決を採ります」
向井さんがそう言って、念のための確認で議決カードの角を摘んでひらひらと揺らした。
「バイクの少年の不起訴が妥当なら不起訴相当。起訴はしません。
もっと詳しく調べた方がよいなら不起訴不当。もう一度検察官が取り調べたうえで起訴・不起訴を決めますので、また不起訴になることがあります。
強制的に起訴する事件だと思うなら起訴相当。バイクの少年を裁判にかけます。
この三つの頭のどれかに○をつけてください。○を書いたらカードを伏せて誰にも見えないようにしてください。私が回収して会長の向井さんが開票します」
波野さんが河野さんに議決カードに書かれている三つの言葉の意味を指さしながら説明していく。
河野さんは頷いてボールペンを出して、しっかりと○を書いたようだ。
俺も○を書く。
もちろん不起訴相当だ。
なぜ不起訴処分に不服申し立てしたんだろう?
裁判では勝てないって分かってるのにね。
カードを裏返して皆さんの作業を待つ。
「それでは波野さん、回収をお願いします」
「はい、わかりました~」
十一枚の議決カードはあっという間に回収されて向井さんの前に置かれた。
「それでは開票します」
向井さんは伏せられたままのカードを捲って一枚ずつ声に出して確認していく。
「一枚目、不起訴相当。二枚目、不起訴相当。三枚目、不起訴相当。……不起訴相当。不起訴相当。不起訴相当。不起訴相当。不起訴相当。不起訴相当。不起訴相当。最後、不起訴相当。……以上、不起訴相当が十一票となり、本件は不起訴相当と議決されました。
事務局は議決書の草案の作成をお願いします」
満場一致で議決されて、結果は分かっていたけど、きちんと議決が成されてホッとする。
見渡せば投票したメンバーもやはり少し肩の力が抜けたようだ。
「はい、分かりました。それでは皆さんはそろそろお昼の時間になりますので、食事に出かけてください。
前みたいに集中してしまってお昼ごはん行けへんかったら申し訳ないのでー」
波野さんは申し訳なさそうにして、前回の事件の失態を気にしている。
「一時に帰ってきてください。貴重品は必ず所持してくださいね。裁判所の中で、盗難事件なんてことはないんですけど、万が一の念のためにご協力お願いします」
そう言って、波野さんがパソコンを抱えて会議室を退出していく。
波野さん、今日は時間を気にしてるのかな?
まぁ、お昼時間を多めに確保してゆっくりと食事が出来るように気にしてくれているのなら良いけど。
裁判所の周辺はたくさんのビルが立ち並んでいる。
一つのビルに法律事務所が必ず入っていると言ってもかごんではないので、その分だけ弁護士さんがいて事務員さんが数人いて、お客さん・依頼人がやってきて。
お昼時には人気店でランチをしようと様々な肩書の人が、十二時になったらそれぞれの職場から押し寄せて行列を作る。
さて、俺もお昼ご飯を食べに出発しよう。
今日は駅地下の純喫茶に行ってみようかな。
ナポリタンが食べたい。
純喫茶での食後はミックスジュースだ。
俺は、荷物を持って会議室を出て淀屋橋の駅を目指す。
裁判所から歩いて駅まで三分。
喫茶ポピーに到着しても一般企業のお客さんは居なかった。
八つのカウンター席のみの店内でカウンターはスッキリと片付いていて、おじさんが一人でランチタイムの準備をしていた。
一番奥に座って、ナポリタンと食後にジュースを頼む。
ここは調理中の作業が見られるし、余裕があればコミュニケーションもとれるから楽しい。
今が一番良い時間帯だろうか。
大盛りのスパゲッティの上にゆで卵が乗ったナポリタンが出来上がりカウンターテーブルに置かれた。
同時に紙ナプキンに包まれたフォークをもらって「いただきます」と言って食事を始める。
「うまっ」
ナポリタンが旨い~。




