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【完結】検察審査会の人々  作者: 鈴音あき


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検察審査会の人々13

ここは刑務所の会議室。


事務局の職員も合わせて二十九人が今回の見学の参加人数で、その半数は俺たち第二審査会のメンバーだ。



あっという間に一週間が過ぎ、午前に前回予告の未成年交通事故の説明を聞いて、昼休みを全員で地下食堂で取り、そのまま集合場所になっている裁判所西門に待機していたバスに乗り込むと、他の審査会のメンバーがもうバスに乗っていた。


他の審査会は別の曜日に審査しているため、仕事を休めなかったらしく、今回の見学は断念した人が殆どだという。


貸し切りバスで出発して二十分程で到着し、速やかに会議室に入った。


制服を着た刑務官が物々しい雰囲気で見学者たちを出迎えてくれた。


まず、見学ツアー担当の刑務官から挨拶があり、パンフレットを見ながら早速説明が始まった。


ここはまだ受刑者がいないエリアなのだが、前で説明してくれている坂木刑務官の他にも、出入口と後方に一人ずつ配置されている。


俺は町のお巡りさんよりも目が鋭いように感じた。


普段受刑者と向き合っているから職業柄そうなってしまっているのかもしれないなと、どうでもいいことを考えてしまった。


大阪刑務所というところは再犯者を収容している施設だと説明された。


あ、だから刑務官である皆さんはいつもそういう雰囲気でいなきゃならないのかも?と勝手に納得した。


刑務所の敷地に入ってから、見学者の皆さんは俺も含めて私語はしていない。


誰かがそうした方が良いと言ったわけではないけど、そういう空気になってしまうのだ……。


成人としての常識がここで試されているようで落ち着かない……。


収容人数は凡そ2500人。


年々入ってくる犯罪者は増えているそうだ。


外国人の服役者も多いらしい。


一番多いのは高齢者、次にホームレス。


生活に困って再犯を犯すようで、出所してもすぐに戻ってきてしまうのだ。


高齢化する犯罪者たちは日本の闇から逃れられなくなってしまっていると、坂木刑務官はいう。


「それでは、これから実際に服役中の受刑者がいる施設内に案内しますが、お願いすることがあります。

まず、受刑者と会話はしないでください。

なぜかと言うと、彼らは犯罪を犯して反省するためにここにいます。反省し更生するため最低限の生活を身につけて、社会に戻る訓練をしています。

矯正作業の邪魔になってしまうので、話しかけるのはやめてください。

荷物は全てこの部屋に置いて行きます。ポケットの中にも何も入ってない状態にします。

両手は常に空けておいてください。

これは、見学者の皆さんが受刑者に物を与えたり取られたりする事がないようにするためです。

過去に、見学者に紛れて受刑者の関係者が、受刑者が服役中に必要のない私物を持ち込もうとしたことがありました。

皆さんはそんなことをする人ではないと思いますが、今はマニュアルとなっておりますのでご協力をお願いします。

本日は女性が何人か参加されていますので、見学時には二列に整列して移動するのですが、前後は男性が女性を挟んで歩くようにします。列を乱さないように気を付けて下さい。

もし万が一トラブルが発生した時に女性を守る配置にしていますが、先頭と後尾は我々刑務官が就いて対処しますので安心してください。

それでは、皆さんにイヤホンを配りますので耳に装着してください。

これからはこのイヤホンから説明していきます。

不具合のあるものはないと思いますが、耳から私の声が聞こえましたら手を挙げて下さい」


説明を聞いて全員イヤホンを装着した。


「私はこれからこのトランシーバーで皆さんに説明をしていきますので、今渡したもので聞こえなかったら別のイヤホンを渡します」


見学者がイヤホンを手に取り始めたのを見て、坂木刑務官は手元に準備していたトランシーバーに向かって話しかける。


俺も右耳にイヤホンを付けて刑務官からの声を聴く。


[私の声が聞こえましたら手を挙げて私とじゃんけんです。私に勝って下さい。私はグーです。グーに勝ってくださいね]


え? 今までキリっとしていた刑務官が遊び始めた?


坂木刑務官を見ると顔色を変えずに手のひらサイズのトランシーバーに小さな声で喋っていた。


同じ文言を繰り返すがピクリとも顔の筋肉を動かさないで同じ顔。


俺は思わず、耳から聞こえてきたおじさん刑務官を見てニヤッと笑ってしまった。


俺と同じ反応してる見学者が何人かいる。


徐にグーに勝つために手を挙げてパーを出した。


中にはわざと負けてチョキを出す人がいる。


[ダメですよー、勝って下さいー。私はグーです、じゃんけんに勝ってください]


なんだ、刑務官にもおちゃめな人がいたんだ……と、俺は肩の力が抜けた。


刑務官の指示に対応できなかった見学者の所に控えていた別の刑務官が順に走っていく。


小声で相談しているけど、俺は聞こえてくる次の指示に答える。


[次は、写真を撮ります。はいチーズ、パシャ]


え? じゃんけんじゃないんだ?


俺は写真を撮るときの手を瞬時に出した。


もう一度同じセリフを喋る坂木刑務官。


面白い人だな。


周りを見るとそれも面白い光景だった。


五十年代以降の年代はパーのままでどうすれば良いのか固まっていて、四十年代はピース、三十年代は親指を立ててサムズアップ、二十年代の俺たちはキュンとか片手でハートのいろんなサイン。


[おぉ、やはり年代で違ってきますね。あ、彼はとても特徴のあるポーズで素敵です。今度休みの日に家族写真を撮る機会があれば真似してみようと思います]


そう言って指されていたのは笹野さんだった。


[どうですか? これであってますか?]


笹野さんがやったハンドサインをして見せてくれる。


顔の横でフレミングの法則。


笹野さんは頷いて拍手のゼスチャーをした。


へー、笹野さん深夜アニメ見てるんだ。


刑務官がやったサインは、深夜放送しているサスペンスアニメの主人公の決めポーズだった。


[それでは次は……指で鉄砲の形にして、撃つ真似をしてください。せーの! バーン!]


見学者は戸惑いながらも全員が坂木刑務官の遊びに参加して拳銃で撃つ。


[全員スナイパーの素質があるんですかね? 皆さん一斉に私に向かって発砲しましたよ。誰か一人くらい違う方向に撃ってほしかったです]


苦笑交じりでおじさん刑務官の声が聞こえた。


あ、やっと表情が崩れった! けどすぐに元の厳しい顔に戻る。


[えー、それでは遊びはここまでにして、全員のイヤホンの装着が出来ましたので見学ツアーに出発します。

先程の説明でもお話しましたが、荷物や貴重品・ポケットの中の物も全部出して、机の上に置いて廊下に出ましょう]


刑務官の指示に従って荷物を机に置く。


貴重品も鞄の中に入れたままではあるが、すぐに部屋の鍵が閉められて誰も入れないようにされる。


[これからは私語厳禁でお願いします。質問がありましたら見学が終わってこの部屋に戻って来てからにしてください。それでは、二列に並んで、女性は真ん中に固まって行きましょう]


先頭は刑務官二人、その後に男性見学者の半数、女性見学者、残り半分の男性見学者、最後尾に刑務官二人で行列を作って歩いて行く。


高校生に戻ったようだ。


[これからいよいよ塀の中、服役中の受刑者がいるところに入っていきます]


檻に手を掛け、鍵を外し隔離扉を開く。


刑務官の一人が解錠して警戒しながら扉を支え、「進んでください」と見学者に促し、もう一人はそのまま引率していく。


見学者の半分が過ぎた所で、最後尾の刑務官の一人が扉の警戒を引き継ぎ、先頭の案内任務に戻る。

 

全員が隔離扉を通過すると、警戒していた刑務官が隔離扉の鍵をかけて施錠確認をして、進んでいる列の最後尾に合流する。


頑丈な扉を通る度に行われるこの一連の動きに、見学者のために気を使い、警戒をしてくれている刑務官の仕事の大変さがよく分かる。


万が一が怒らないように目を光らせて、なにが起きても対処するぞという意気込みが伝わるのだ。

刑務所の話、終われないです……。

見学した時のあの緊張感は四半世紀では忘れられない経験。

もうそれくらい時間が経っているから現在の組織図とか収容人数とかルールとか、変わっていると思います。

当時の記憶を掘り出しながら想像しながら書き綴ってます。

坂木刑務官のような刑務官は想像上の人物です。

見学中にそんなこという刑務官がいたら大変ですよ。

……でも、いたらいいなとは思ってます。

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