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第37話

五日目からようやく会議が始まった。男性陣は大きなホールで討論を行い、合間には小さな部屋に出たり入ったりして権謀術数を巡らせている。女性陣の昼間はお茶会に浪費され、そして夜になると男性も女性も舞踏会に繰り出した。


そして、エリーザがアネットに呼び出されたのは、最終日の夜だった。


「いまから抜け出せる? こっちは準備ができたわ」

「ええ、大丈夫よ」


舞踏会の最中、アネットがエリーザに近づいてきて耳元に口を寄せた。


「マキシミリアン夫人、お相手頂けませんか」


エリーザがアネットと喋っていることなどお構いなしに異国の男性貴族が割り込んでくる。


「頼んだわね」


アネットはそう言い残してダンスホールの中心にエスコートされていく。

エリーザはその背中を横目で見送りながらダンスホールを後にする。


廊下に出て右に曲がると、通路脇に東洋風の龍の置物が鎮座している。

黒色の衣装に身を包んだ執事がその置物を布で磨いていた。


「そこの人、ちょっといい?」


エリーザが呼びかけると、使用人は素早い動作で作業を中止しつつ向き直る。


「いかがいたしましたか。お嬢様」

「素敵な置物ね」

「遥か海を越えて東の果てから舶来してきた作品と聞いております」

「いいえ、これは偽物よ。でも美しいわ」


エリーザがそんな回答をすると、執事はいそいそと内ポケットから紙束を取り出す。


「ありがとう」


エリーザは紐で結わえられた紙束を受け取ると、それを握りしめたままダンスホールとは反対側に歩き出す。


廊下を歩き、階段を降り、宮殿から外に出て、馬車を拾って高級宿に帰った。

そして、着替えもそこそこに自室へと籠り、椅子に腰かけて手紙を開く。


『政治は貴族や官吏による中抜きが横行していて、何をするのにもお金がかかり過ぎて財政は破綻寸前。騎士団は碌に訓練されておらず、それどころか給料の遅配が相次いでおり、兵士による略奪が横行している。市民や農民は相次ぐ増税と食糧徴発で飢えていて、治安の悪化も留まるところを知らない……』


手紙には帝国の内部事情が詳細に記されていた。


こんなにも真面目で重大な情報を秘密裏に収集しているアネットを想像すると、エリーザの頬は少し緩んでしまう。



翌日、王国へと帰る馬車の中で、エリーザはヨハン王子に手紙を渡した。

一晩中踊り明かして眠たげだった王子も、手紙を見るや否や瞳を爛々と輝かせる。


「どうなのでしょう?」


手紙を読み終わり、しばらく固まっている王子にエリーザはそう訊いてみる。

王子の瞳の輝きは絶望的な漆黒へと変わっていた。


「決断のときだな。アネットの亡命手段を用意しないと」


エリーザは思わず目を見開く。

ヨハン王子は腕をだらりと垂らして天井を見上げた。

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